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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン
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魔王は悪霊を斬る


 ガリウスの前に居並ぶ小躯。

 

「敬礼っ!」


 どこで覚えたのか王国軍がやりそうな敬礼をしたのは、ウェアラットの青年たちだ。


 ここは最果ての森に近い山岳地帯。人族の領域からリムルレスタに向かう途中にあり、国内への侵入者を監視する最前線と言えた。


「あー、どうも……」

 

 ガリウスが空から舞い降りたところに彼らが整列して待っていたわけだが、いまいち状況が飲みこめない。

 

「遠路はるばる、ようこそお越しくださいました、ガリウスさん。私はここの監視チームのリーダー、トムです」

 

 年長者らしきが進み出て、ガリウスに握手を求める。


「ああ、その、よろしく……」


 がっしり握手を交わしたものの、やはり状況は飲みこめなかった。

 トムはにっこり笑うと、元気よく宣言した。

 

「それでは、ご案内します。精霊獣コルサス殿のところに!」


「ああ、なるほど。案内か……。うん、頼む……」


 目的地はわかっているし、特に案内は必要ないのだが、そうとは言えない雰囲気だった。

 

 

 ウェアラットたちは必要以上に周囲を警戒しつつ、ガリウスの周りをちょこまか動き回りながらも、おしゃべりが弾んでいる。

 

「感激だなあ。僕、ずっとガリウスさんに憧れてたんですよ。あとでサインもらってもいいですか!?」

「アーノルド、今は任務中ですよ」

「じぇじぇじぇジェイソンの言うとおりだだだ。けけ警戒を怠っちゃ、ダメだぞぞぞ」

「落ち着けシルベスタ。まあ、アーノルドはあまり浮かれないようにな」

「う、うん、トム。みんな、ごめんね」


 ガリウスからすれば和気藹々に見えるやり取りに、緊張が解れる。

 彼らの元同僚、スティーブンの話を振ると、四人は目を輝かせて近況を尋ねてきた。

 ひとつひとつの質問に丁寧に答えながら、まったく緊張感のないまま細い山道を進むと。

 

 

 やがて平らに開けた場所へたどり着いた。

 

『おや、ガリウスさん。やはり貴方が来ていたのだね』


 頭の中に響くような声で気さくにあいさつしたのは、巨大なグリフォンだ。

 精霊獣コルサス。

 かつて帝国皇帝に囚われていたところを、ガリウスに救われた精霊獣だった。彼の周囲には大小のグリフォンたちが群れている。

 

「ここでの生活には慣れたかな?」


『おかげさまでね。すこし気温は低いけれど、なかなか住み心地はよくてみな気に入っているよ』


 彼らは南方諸国の出身だ。しかし棲み処は帝国の侵略に遭い、帰る場所を失っていた。

 そこで最果ての森で暮らしてはどうかとガリウスが勧め、他の精霊獣たちと協議した結果、この山岳地帯を管轄することになったのだ。

 

 コルサスが上空に目を向けた。視線の先には、大きな船が浮いている。飛空戦艦バハムートだ。

 

「すまないな。貴方には気分のよいものではないだろうが、運用試験を兼ねて、移動にはアレを使っている」


『気にしなくてもいいさ。あんな経験は二度とごめんだけど、君には感謝しているからね』


 ところで、とコルサスは目を戻す。

 

『僕に何か用があるのかな? 地脈で何かやるとは、そこのウェアラット君たちから聞いているけど』


「その件で、貴方に立ち会ってもらいたい」


『僕に? 立ち会う必要なんてあるのかな?』


「地脈……特に最果ての森の入り口にあたるところでいじくり回すのに、難色を示している精霊獣たちがいてね。近場の精霊獣に立ち会ってもらえば、彼らも安心とまではいかなくても、不安がすこしばかり解消してくれると考えてのことだ」


『なるほど。僕は監視役というわけか』


 そうだ、とガリウスが告げると、コルサスは申し訳なさそうに言った。

 

『でも、いいのかな? 恩人の君に対して心苦しいが、そういった事情なら僕も手は抜けない。中立的な立場で立ち会わせてもらう。もし問題が発生したら、包み隠さず危険性を報告しなければならない』


「もちろんだとも。下手に隠し立てすれば後で揉めるだろうからな。ま、問題が発生したならしたで、好都合でもあるさ」


 コルサスは首をひねる。まるで問題が発生したほうがよいとも受け取れる発言だった。

 

「では、立ち合いはお願いするよ。こちらには一週間ほど滞在予定だが、その間に調査は滞りなく終わらせたい。冬になる前に、やれることはすべてやってしまわないとな」


 ガリウスはにっと笑うと、空に向かって手を振った。飛空戦艦がゆっくりと、移動を開始する。

 

「あのぉ、僕たちも見学していいですか?」


 アーノルドが遠慮がちに尋ねた。

 彼らには監視任務がある。しかし空中で飛空戦艦が目を光らせているから、すこしなら問題ないだろう。

 

「ああ、構わないよ」


 ガリウスが言うと、四人は小躍りして喜んだ――。


 

 

 飛空戦艦から機材を運び、麓の森の中でやや開けた場所を選び、陣取った。

 邪魔にならないようにとの気遣いか、コルサスは離れたところで佇んでいる。

 ウェアラットの四人は志願してお手伝い。力を合わせて大荷物を運んでいた。

 

 金属棒を格子状に組んだ、大きな四角い装置。中心には奇怪な球体の樹木が据えられている。魔力樹を埋めこんだ魔法具だ。

 悪意反射装置――マリス・リフレクターと呼んでいる。

 魔力樹の中にある悪霊の気配を土中の地脈まで広げ、ぶつかった悪意の進路を逆に設定し直すものだ。

 

 真下に地脈が流れるところに置き、魔法板――コンソールから伸びた紐を括りつける。

 

「準備は整いましたよ、ガリウスさん」


 梟人族のムーツォが、疲れた表情で笑みを浮かべた。

 

「大丈夫か?」


「いやあ、外に出るのは久しぶりですから……。でも大丈夫です! 魔法研究のためならば、たとえこの身が陽光に融かされようとも悔いはなし!」


「そ、そうか。まあ、無理はしないでくれ」


 陽光より先に情熱で融けてしまいそうだ。

 

 ムーツォはコンソールを片手に持ち、もう一方の手で板を操作する。

 装置の下に魔法陣が現れた。強い輝きを放ったのち、地面に吸いこまれるように消えていく。

 

「むむ、これは……」


 ムーツォが食い入るようにコンソールを見つめる。操作部分とは別の箇所に、文字が大量に下から上へ流れていた。

 

「どうかしたのか?」


「ああ、いえ。動作に問題はありません。都で試験したときと同じく、処理は正常に行われています。期待通りですね。ただ……」


 ムーツォは睨むような目つきになった。

 

「想定よりもかなり『悪意』の量が多いですね。いったいこれは……?」


「人族の領域で何かあったのだろうか?」


「わかりません。国内ならまだしも、都市国家群の情報でも数日は遅れて届きますから」


 情報がまったくないのにあれこれ考えても仕方がない。

 原因究明は後にして、現状どうすべきかを尋ねようとしたところ。

 

「マズいですよ、ガリウスさん。これ以上続けたら――」


 ムーツォの声を遮るように、マリス・リフレクターが大きく震えた。ぴしりと魔力樹に亀裂が入る。

 

「だ、ダメです! 止まりません! 暴走しました!」


「ひぇええ!」

「なんですかぁ!?」

「たたた大変だぁああ!」

「みんな逃げろぉ!」


 ウェアラットたちが慌てふためく中、ガリウスは冷静に腰に差した剣に手をかける。

 

「ムーツォ、離れるんだ」


 コンソールを放り投げてムーツォがすたこら逃げたのを確認すると。

 

 シュバッ!

 

 地面を蹴り、あっという間に接近したガリウスは聖剣を一閃。金属棒の格子ごと魔力樹を真っ二つにした。中の悪霊もろとも、魔力樹は霧散する。

 

「いきなりもっとも懸念していた事態に陥るとは、運がいいのか悪いのか……。耐久性のアップはもちろんだが、現状の閾値より下に上限値を設けて、それを超える量の悪意は通過させる設定が必要だな」


「ガリウスさん……ここに至っても冷静ですね。おっしゃるとおり、設定を見直しましょう」


 ムーツォは大樹の陰に身を隠し、顔を覗かせてそう言った。

 ウェアラットたちもホッと胸を撫で下ろした、そのときだ。

 

『ガリウスさん、あれを!』


 精霊獣コルサスの声が脳内に響く。彼の視線を追うと、上空に黒い靄が揺らめいていた。

 

「でかいな。しかも――」


 黒い靄は、どんどん大きく明瞭になっていき。

 

 ――ウォォォォォーーン!

 

 びりびりと空気を震わせる大音響が轟いた。

 

『悪霊化した!? まさか、この短時間で?』


 コルサスに続いて、ムーツォが叫ぶ。

 

「おおっ! 反射した悪意が別の悪意と正面衝突を繰り返し、地脈内で一気に悪霊化まで進んで飛び出したのですね。装置が暴走するほど大量に悪意を反射した場合、その可能性も考えられましたが……まさしく予想通り!」


『のん気に解説している場合ではないよ。すぐに排除しなければ――』


 近くにいる獣に憑りつき、悪霊獣になってしまう。

 ガリウスが以前遭遇した悪霊よりも大きな塊だ。精霊獣でも手こずるどころか、倒せる保証がない。

 

 悪霊は急遽生まれて混乱しているのか、本来は憑りつけない『知性ある者』に狙いを定めたらしい。

 

「うわあーっ!?」

「こっちに来ていますー!」

「たたた大変だぁああ!」

「お助けー!」

 

 固まって身動きの取れないウェアラットたちへ目掛け、悪霊が襲いかかった。

 悪霊が人や亜人、精霊獣といった『知性ある者』に憑りつくと、完全には体を乗っ取れずにやがて消滅してしまう。しかし憑りつかれた側も無事では済まず、死に至るらしい。

 

 互いに抱きつき、恐怖に染まる四人は死を覚悟した。

 

 ザンッ!

 

 しかし悪霊は彼らに到達する前に、聖剣の閃きに消し飛んだ。

 

『い、一撃で……』


 コルサスが目を丸くする。

 

「光魔法を飛ばせればもっと楽なのだがね。ま、直接斬れば同じほどの効果がある」


 ガリウスは事もなげに言う。ムーツォへ向き、淡々と指示を出した。

 

「装置をひとつ失ったのは痛いが、必要経費と考えよう。得られたデータを精査し、予備の装置を再調整してくれ。できれば明日から試験を再開したい」


 ムーツォは「わかりました」と頭を下げ、放り投げたコンソールを拾いに行く。

 コルサスがガリウスに歩み寄った。

 

『かなり深刻な事態だと思うけど、想定の範囲内、だったのかな?』


「まあね。試験期間中に一度は発生させるつもりだった。ただ、初っ端からとは想定外だよ。悪意の量がこれほど多い状況は考えていなかった」


『……わからないな。この事態は、地脈に干渉するのを良しとしない精霊獣は看過できないだろう。なのに、あえて起こそうとしたのはどういう意図があるのかな?』


 ガリウスは周囲を警戒しつつ答える。

 

「何事にも危険は付きまとう。それを見つけ、丁寧につぶしていくことで安全性は高まる。なにせ初めての試みだ。俺たちも危険すぎると判断したら取り止めるさ。そのための実地試験なのだからな」


『しかし仮に安全性が確保されたとしても、一度でも事故を起こしたなら、彼らは意固地になると思うけどね』


「そこは誠意を尽くして説得するしかないな。むしろ下手に隠蔽したら反感を買うぶん、話がこじれる。共存共栄を目指す以上、後から来た俺たちが不義理をしてはならないんだ。絶対にな」


 なるほど、とコルサスは表情を緩めた。

 

 この後、十日ほど。

 当初の予定を延長して実地試験を行った結果、マリス・リフレクターの有用性と安全性はガリウスたちには満足いくところまで到達した。

 冬の間にいくつかを運用し、春になったら本格的に稼働させるスケジュールで動き出す。

 

 しかし順調に事は運ばなかった。

 コルサスが危惧していた通り、精霊獣の一体が計画に『待った』をかけたのだ――。



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