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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン
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魔王は国を照らす


 ハーフオーガの女戦士ペネレイは腰に金色の兜をぶら下げ、崖を駆け上っていた。壁面のわずかなでっぱりに足をかけ、ほぼ垂直の斜面を地面のごとく高速で進んでいく。

 

 崖の裂け目。

 黒い靄が溜まっている。そこを目掛け、黒い槍を突き刺した。

 

 細い幹がいくつも生え、絡まり、球体となって転がり落ちる。大きさは直径で五十センチほど。他に比べれば小さかった。

 

「ゾルト、任せる」


「へい、お嬢」


 崖下では巨大なオーガが球状の樹木――〝魔力樹〟と呼称している――を受け止めようと待ち構えた。 

 ペネレイは魔力樹を追いかけ、斜面を踵で削るように滑り降りる。

 

 と、二人の間を大きな影が横切った。


 飛竜が鼻先で魔樹をぽーんと弾くと、別の飛竜が背でキャッチする。数匹が群がってきて、取り合いになった。

 

「困りましたなあ。そいつは遊び道具じゃねえんですが……」


 多少の衝撃でも壊れることはないし、飛竜たちも加減をしてくれている。しかし手の届かないところで遊ばれてはどうにもならず、ゾルトは頭をかいた。

 彼の腰をポンと叩き、ペネレイは悪戯っぽく笑う。

 

「後は任せたぞ。私は精霊獣殿に仕事が終わったと報告してくる」


「へい。しばらくかかりそうなんで、ごゆっくり」


 ペネレイは地面に置いていた金棒を背に担ぐと、念のためと黒槍をゾルトに渡し、山道を上っていく。

 

 腰の兜に目をやった。

 聖武具の兜だ。

 ガリウスから『持っていけ』と言われ、『身につけておくように』と命じられている。歩くのに邪魔というほどではないが、いまだに理由がわからなかった。

 

「なっ――!?」


 歩きながら眺めていたら、にゅっと兜のてっぺんから人の頭が飛び出してきた。金髪の女性だ。

 

『ご苦労様です。先ほどで七つ目。順調ですね』


「え、エルザナード殿……ですか?」


『はい。こうして姿をお見せするのは初めてでしたか』


 腰の辺りから見上げてくる顔に、ペネレイはたじろぐ。

 

「そ、そうですね。しかし、どうしてこちらに? まさか……」


『ええ。そのまさか、です。現状わたくしは半封印状態にありますので、聖武具うつわから顔を出すくらいしかできません。逆に言えば、パーツさえあるところならどこにでも文字通り顔が出せます。というわけで、通信魔法代わりに使われています』


「それはまた……ご苦労様です……」


 なんと返してよいわからず、当たり障りのない言葉で濁した。

 

『ふふ、わたくし、気にしてなどいませんよ? ガリウスは〝使えるモノはなんでも使う〟主義ですから。ええ、まったく気にしていません』


 どんより言われても、これまたどう返してよいかわからない。曖昧な笑みを作るしかなかった。

 

『で、彼からの伝言ですが、〝部隊は回収した魔力樹とともに一度、都に戻ってほしい〟とのことです』


「承知しました。精霊獣殿への報告が終わりましたら、速やかに」


 話は終わり、のはずなのに、エルザナードは頭を出したままだった。

 兜を腰にぶら下げているだけなら問題なかったが、サラサラな髪が脇腹辺りをくすぐって落ち着かない。腕の置きどころにも困った。

 

「ところで、エルザナード殿」


 兜を揺らさないよう気をつけながら、ペネレイは速足になる。

 

「貴女がガリウス殿と契約を結ばれたのは、やはりあの方の恩恵ギフトが決め手になったのでしょうか?」


 軽い世間話のつもりで、それでいて気になっていたことを訊こうと質問した。

 エルザナードは彼女を見上げながら小首をかしげ、にっこり笑う。

 

『わたくし、ガリウスと契約するつもりはこれっぽっちもありませんでしたよ?』


「えっ?」


『と言いますか、わたくしは誰とも契約するつもりはありません。今でも、ですね。誰かに使われるなどまっぴらですから』


「で、では、なぜガリウス殿と契約を?」


『無理やりでしたから』


「ぇぇ……」


『彼の恩恵ギフトは、そういうもの(・・・・・・)なのですよ。それがアイテムであるなら、宿る者がいくら拒否しようと、使用者や作成者のみしか使えない制限が課せられていようと、ガリウスは使えてしまうのです』


 ペネレイにも経験がある。

 かつてロイに『従属の兜(スレイブ・ヘルム)』を装備させられ、体の自由を奪われた。それをガリウスは、いとも簡単に、触れただけで外してくれたのだ。

 

『わたくしは契約者でなければ持ち上げることすら難しいのですけれど、十三歳になったばかりのガリウスは片手でひょいと持ち、ぶんぶん振り回していました。そのとき思ったのです』


 あ、こいつアカン奴や。

 

『契約せずとも使われては、諦めるしかありません。いちおう直後にこちらから契約した体にはしておきました。ただ彼にわたくしの存在を知られるのは悔しかったので、勇者時代はわたくしも姿を現しませんでした。ですから彼も、契約したとの自覚はありません』


「そ、そうですか……」


 もしかして触れてはいけない話題だったろうか。ペネレイは気まずくなって正面を見据えた。ぼそりとしたつぶやきが届く。

 

『もっとも、今では認めていますけれど』


「やはり、あの方の恩恵ギフトはすさまじいものなのですね」


 慰めのつもりだったが、今回もまたエルザナードは『いいえ』と否定した。

 

『たしかにマスタークラスともなれば効果は絶大です。ですが、彼の真なる実力は別にあります』


「と、言いますと?」


恩恵ギフトは選ぶことができません。ゆえに人は自身の特性に合わせて恩恵ギフトを使おうとするか、逆に恩恵ギフトに合わせて自身を鍛えようとします』


「ガリウス殿は後者であると考えますが」


『ええ。しかしガリウスは、その先に進みました。彼は身体能力も魔力も並以下です。鍛えるにも限界がありました。ゆえに彼は、恩恵ギフト使われる(・・・・)道を選んだのですよ』


 【アイテム・マスター】に身を委ねる。彼からそんな話を聞いたことがあった。

 

『誰にでもできることではありません。恩恵ギフトにもよるでしょう。恐ろしいほどの観察眼と洞察力です。そして私情をいっさい挟まない、徹底した合理的な判断力がなければ、その結論には至りません』


 ペネレイがごくりとのどを鳴らした。

 

『あなたたちは、本当に運がよいですね』


 エルザナードは楽しげに、歌うように言う。

 

アレに(・・・)敵認定されたままであったなら、遠からず最果てにも現れて、亜人は駆逐されていたでしょう』


 ぞっとした。

 脅しではない。彼女は事実をありのまま、屈託のない笑みで述べているに過ぎないのだ。 

 ペネレイは背に怖気が這い回るのを感じながらも、

 

「はい。本当に、運がいいと思います」


 稀代の英雄に仕えている幸運に、胸が熱くなるのだった――。

 

 

 

 

 

 リムルレスタの都に新たな施設が作られた。

 ドワーフの大工房の地下五十メートルに元からあった地脈観測部屋を大きく広げ、魔法研究施設に改装したのだ。

 さっそく国内から魔法に精通した者、魔力の高い者を集め、複数のプロジェクトをスタートさせた。

 

 いくつかに分かれた部屋のうち、魔樹を魔力供給装置にするための研究室。

 真っ暗だった部屋が、突如として昼間のような明るさに変わった。

 

「うぉ! 眩しい。眩しいですな!」


 研究施設のトップに就任した、フクロウの頭を持つムーツォが手足をバタバタさせて騒ぐ。

 部屋の天井に吊るされた球体から、煌々と光が溢れていた。

 彼の横では、ガリウスが光源を見上げながら淡々と感想を述べる。

 

「光の強さが安定している。成功だな。うん、これは便利だ」


 魔力樹から取り出した魔力で、ランプの代替が可能となった。魔力灯と名付けた魔法具だ。

 

「ランプの炎と違い、揺らめきがありません。明るさも遥かに上です。これは丸一日作業が捗りますぞ!」


「……いや、君は寝てくれ」


「はっはっは、私は三日寝なくとも問題ありませんよ」


「トップの君が働きどおしだと、他のメンバーも休めない。種族によって活動時間が異なるのは理解しているが、自重してくれると助かる」


「そうですか? まあ、であればこっそりと……」


 ガリウスは深くため息を吐きだした。

 魔法の研究が大好きな彼にはある程度自由にしてもらいたいが、体を壊されても困る。監視役を付けたほうがよさそうだ。


「とりあえず、魔力供給システムの試作は成功だな。ま、これは元があるから楽だったが」


 王都の離宮地下にあったものをガリウスは見ているし、飛空戦艦の動力室にも同じものがあった。それをガリウスが【アイテム・マスター】で読み取り、研究員たちと協力して設計した。

 

 魔力灯は勇者時代、特殊な水晶に魔力を通して明かりにしていた兵士がいたのを思い出し、開発したものだ。

 常時魔力を消費し続けなければならないので、短時間で松明以上の明るさが必要なときにしか使わなかったが、魔力供給システムがあれば問題なくなる。

 

 地下の施設では、火を焚く量は換気に耐えられるほどに抑えなければならない。暗さに慣れない種族たちの要望を汲み取っていち早く手を付けた事情があった。

 

「夜も町が明るくなれば、国全体が活気づく。とはいえ、働き者が多いのは考慮すべきだろうな」


 ガリウスはウキウキな様子のムーツォを見て苦笑した。

 

「で、悪霊の侵入を防ぐ魔法具はどうなっている?」


「そちらも試作品がほぼ完成しています」


「ほう。早いな」


「ええ。ガリウスさんの推論が見事嵌まりましたよ」


 ムーツォは鼻息を荒くして語る。

 

「一番の問題は『悪霊の元となる〝悪意〟のみをどう判別するか?』でありましたが――」


 いくら魔力が絡んでいようと、悪意とは様々な負の感情で、それらを精密に振り分けて地脈の流れから弾き返すのは困難を極めた。

 

 当初は『悪霊に引き寄せられるものが悪意』と考えたものの、どうやらそう単純な話ではないらしい。たまたまぶつかったら融合する、くらいの弱いもののようだった。だから魔力樹をこの地脈に置いても、ここで樹木化を解除しても、何かしらが寄ってくることはなかったのだ。


 そこでガリウスは提案した。

 

 魔力樹の中身は悪霊だ。その気配だけを地脈面の全体に行き渡るほど拡大させ、ぶつかって反応があったものを弾けばよいのでは、と。

 思いつきだったが、結果は良好だったようだ。

 

 また悪意の判別ができるようになると、その特徴が明らかになった。

 

 中でも、懸念していた問題が解決する特徴を見つけたのは大きい。

 

 悪意を弾いても、また地脈にそって戻ってきたら?

 地脈の一部で押しとどめても、悪意が溜まってそこから悪霊が発生してしまうかもしれない。

 

 ところが、川の水が高いところから低いところへ流れるのとは違い、悪意は指向性が与えられて向かってくるようだった。地脈を流れる悪意に限って言えば、地脈に入ったところで流れの方向と同じに決定される。

 

「そこで、この向きを逆に設定し直してやります。これは逸心香の技術を応用したもので――」


 ムーツォが長々と解説を始めたものの、ガリウスにはさっぱりだった。

 

「あー、つまり、いろいろ上手くいきそうだ、という理解でいいか?」


「はい。ただ、弾き返した悪意がその後どうなるかは、まだわかりかねます」


「そこはいい。連中が生み出したものを返してやるだけだからな。そっちは人族がどうにかすべき問題だ」


 ガリウスは冷淡に告げると、ムーツォに案内されて別室へと移動する。

 

 数日後、いよいよ件の魔法具の試作品を実際に試すこととなった――。



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