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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第六章:(´・ω・`)魔王の国内で無双ターン
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魔王は悪霊に対する


 ボルダルの町の側にある森の奥。

 ガリウスはぽっかり開けたところにやってきた。切り立った崖の大きな洞窟から、巨大な狼が姿を現す。

 

 頭に長い一本角を持つ、精霊獣リュナテアだ。地面に胡坐をかいたガリウスの正面に伏せ、ぎょろりと瞳を動かした。

 

『ふむ。悪霊とは何ぞや、との質問か』


 ガリウスはうなずき、手にした長い枝を後方へ放り投げた。

 

『悪霊とは、悪意の集合体。不特定多数の負の感情が寄り集まり、個として方向性を持ったものだ。そこにまた悪意が付着して大きくなり、やがて害を為す』


「感情が物理的に集まる、というのがいまいちピンとこないな」


 からんと横に長い枝が降ってきて、ガリウスはそれをまた後方へ放り投げる。

 

『悪意とは妬み、嫉み、羨み、憎しみ、嫌悪など負の感情の総体だ。それらは魔力とよく絡む(・・・・)。通常は生まれて消えるものではあるが、強い負の感情は当人から離れても世界に留まるのだ。魔力によってわずかながら実体を得た、と考えるとよいかもしれぬな』


「それが集まるとより顕著に実体化し、悪霊となるのか。だが、なぜ最果ての森に多いんだ? 王国で悪霊を見たことはないが……」


『悪意は誰しも持っている。人も、亜人も、獣でさえもな。たしかに量で言えば人族が圧倒している。数でも質でも、な』


 目の前に長い枝が降ってきた。

 

『最果てに悪意が集まる理由は、世界の構造に他ならぬ。地脈を通り、あるいは風に運ばれたどり着き、大山脈に突き当たる。地形のみが原因ではあるまいが、ともかく大陸中の悪意が集結してしまうのだ』


 ガリウスは長い枝をもてあそび、今度はさらに遠くへと放り投げた。

 

『ところで、さっきからそなた、何をしている?」


 彼の背後でウォンとひと声。嬉々として枝を追いかける巨大な影。

 リュナテアとそっくりなユニコーン・フェンリルが、空中で枝をキャッチした。喜び勇んで戻ってきて、ガリウスに枝を渡す。

 

「アオが退屈そうにしていたのでね。話ながら相手をしていた」


『うむ。それはわかる。わかるのだが、今は真面目な話をしているのだし、なんというか、その……』


 グルルルルゥ……とアオに睨まれて、リュナテアがたじろいでいる。

 

『元は我が半身であるのに、なぜこうも嫌われるのか……』


「嫌ってはいないと思うぞ? たんに遊びを邪魔されて怒っているだけだ」


『そ、そうか。体は大きくなったがまだまだ子どもよ。しかし落ち着かぬし、我慢してほしい』


「というわけだ、アオ。しばらく大人しくしていてくれ」


 アオは『仕方ないなあ』とばかりにガリウスの背後に伏せ、頭を彼の横にすり寄せてきた。もふもふを撫でると、気持ちよさそうに目を閉じる。

 

「話を聞く限り、悪意とやらの大半は人族の領域から流れ着くもののようだな。最近になって悪霊が増加しつつあるというのは、王国でのいざこざが関係しているのだろうか?」


『然り。人と亜人の戦いでもそうだったが、戦乱は負の感情を生みやすい』


「となれば、悪意の流入を防ぐのが悪霊を減らすもっとも有効な手か」


 王国内の混乱はまだ続くだろう。そも大陸中から集まって来るのなら、人族をどうこうしようなどと考えるだけ無駄だ。


『容易くできるのであれば、すでにやっている』


「しかし貴女は以前、結界の中に悪霊獣を閉じこめていたな。獣から離れて悪霊に戻っても、奴は外に出ていけなかった」


『小規模な結界なら我でも可能だ。しかし最果ての森全体となれば、いったいどれだけ魔力が必要となるか……。維持するにも膨大な魔力が要る』


「さすがに全体は無理だろうが、ある程度を弾き返せれば、それなりに効果があるように思うが」


 悪意の大半が人族の領域からやってくるのだ。彼らにいくらかでも押しつけたい。

 

『うぅむ。風に乗って流れてくるものは防ぎようがない。地脈ならば場所を特定し、塞ぐことはできようが、悪意のみを弾かねばならぬ。それ以外にも有益なものも流れてくるのでな』


 それに、とリュナテアはため息交じりに言う。


『最果てにつながる地脈の数は万にも届こう。ひとつひとつに結界を張り、維持するとなれば、やはり相当な魔力が常時必要となる。やはり現実的とは思えぬな』


 ガリウスはアオの頭を撫でながら考える。

 

 今までのように発生してから対処するやり方でも、専用の武具なり罠なりを作ればある程度の効率化は可能だろう。

 しかし劇的に負荷が減るかと言えば、疑問符がつく。

 

 結界をなるべく多く張り、それを維持するにしても、やはり魔力は必要だ。誰かが専従してしまえば、人手不足の解消にはつながらない。

 

(魔力……魔力、か。うん、試してみる価値はあるな)


 ガリウスはとある策を閃いた。腰を上げ、リュナテアに告げる。

 

「ひとつ、頼みを聞いてくれないか」


『我にできることであれば協力しよう』


 立ち上がったリュナテアに自身の考えを説明すると、精霊獣は目をぱちくりさせた。

 

『……本気か?』


「ああ、本気だ。ダメなら次の手を考えるさ。というわけだ。明日また来るから、準備をお願いする」


 うむとうなずいたリュナテアと別れ、アオに乗って都に舞い戻った――。

 

 

 

 翌日、ガリウスがリュナテアの棲み処を訪れると、彼女はすでに洞窟から出て待ち構えていた。

 

『よいのが見つかった。こっちだ』


 挨拶もそこそこに、リュナテアは森の奥深くへと進んでいく。ガリウスはアオを引き連れてその後を追った。

 

 三十分ほど道なき道を行き、リュナテアは歩みを止めた。


『正面の大樹のすぐ右側だ。見えるか?』


 ガリウスは目を凝らす。

 しばらく眉間にしわをよせて集中すると、うっすら黒い靄がかかっているように感じた。

 

「あれが悪霊なのか? 以前見たものより薄ぼんやりとして判別しづらい」


『生まれたてであるからだが、そなた、あまり魔力が高くないな。エルフほどの魔力を有していれば、はっきりと見えよう』


「俺は人族でも並以下だからな。で、アレはもう害を為すのか?」


『いや。自我は芽生えているだろうが、今は自身の成長のみに注力している段階だ。とはいえ、妙な場所に留まられると危険ではある』


 悪霊は獣に憑りついて暴れるだけではない。

 山の地脈に溜まれば崩落を引き起こし、水源で大きくなれば毒水に変えることもあるという。悪霊はときに、自然災害をも引き起こすのだ。

 

『今は我の小規模結界で閉じこめている。これ以上成長はすまい。外にいれば安全ではあるのだが……』


 言っているそばからガリウスはずんずんと黒い靄に近づいていく。

 手にした黒い槍(・・・)を振るい、躊躇なく突き刺した。精神力を注ぎ、特殊効果を発動する。

 

 手応えはなかった。

 しかし黒い靄はざわりと一瞬大きく広がると、

 

「よし、出たぞ」


 突き刺した部分から細い幹が無数に生えてきた。

 細い幹は寄り集まり、黒い靄を包みこんだ。最終的には樹木のかたちではなく、直径一メートルほどの球体に落ち着いた。

 

『なんと。驚いたな。隙間は多いが、完全に中の悪霊を閉じこめている。あれ自体が結界であるのか』


 気体じみた悪霊が隙間から逃れないか心配だったが、どうやら杞憂に終わったらしい。

 あそこから脱出したケラの恩恵ギフトはやはり厄介だな、と今さらながら思う。

 

「さて、ここまでは期待通りだ。あとはこれから魔力が吸い出せるのか、どのくらいもつのか。検証だな」


 他にも想定外の事態を考慮し、扱いには細心の注意を払わなければならない。

 

「こいつをうまく使えば、地脈からの流入ルートをいくつもつぶせる」


 悪霊の発生を減らせれば、森を守る獣たちの負担が減り、深い共生関係を築けるのだ。

 

 悪霊のみを弾く魔法具の開発。

 魔樹の呪槍が一本だけなので生産性にも難がある。

 

 解決すべき問題はいくつもあるが、試作で成功すれば、別の期待も膨らむ。

 

「なにせ悪霊はそこかしこで生まれるのだからな。大規模な魔力供給装置の構築も夢じゃない」


 さっそくガリウスは、アオに樹木化した球体を転がしてもらい、都へと持ち帰るのだった――。

 


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