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勇者は城塞都市へ乗りこむ


 リザードマンは『ドルフィオ』と名乗った。種族にしてみれば若く、ちなみに男性だ。

 

 ガリウスは彼らが持っていた荷物からスコップを見つけ、茂みの向こうで穴を掘る。

 弔うつもりは微塵もなく、ただの証拠隠滅。仮に死体が見つかっても、『冒険者が魔物に殺されていたのを見つけて埋めておいた』と言い訳するためだった。


 穴を掘りながら簡単に身分を明かす。

 ドルフィオは最果ての森から来たことには驚いていたが、人族なのに亜人と生活しているのにはさほど驚いてはいないようだった。

 

「君は奴隷にされているのだな?」


「はい。フラッタスの街にいる亜人はみな、『ルチオーラ商会』という奴隷商に管理されています」


 実数は不明ながら、千人規模の奴隷を抱えているとのこと。

 近場の城塞都市フラッタスの一画に、柵で囲まれた亜人の集落があり、奴隷商は農場主や冒険者に亜人たちを貸し出している。他の街の奴隷商と売買もしているらしい。


(ジズルは把握しているはずだが……まあ、俺に言わなかったのは何かしら意味があるのだろう)


 事前に知らせれば、準備万端で無茶をやると危惧したのかもしれない。

 

 穴を掘り終わり、首のなくなった体から装備を外して持ってくる。三つの頭も穴に放りこみ、土をかぶせた。

 小枝を拾ってきて申し訳程度の墓標にした。あくまで隠したのではなく、埋葬したと見せかけるためだ。それでも小道からは茂みに隠れるようにした。

 

 ドルフィオが跪き、祈りを捧げている。

 

「彼らには、殺されかけたのではなかったか?」


「そうですね。正直なところ、『ざまあみろ』と思っていますよ。でも、死者をないがしろにしてはならないと教えられてきましたから。精霊信仰の根本と言いますか、そうしないと精霊の機嫌を損ねてしまうので」


 ドルフィオは冗談めかして笑う。ガリウスに気を遣っているのがありありとわかった。

 

 小道から外れ、腰を落とした。冒険者たちの荷物を物色する。

 通行証を見つけた。しかし記名されており、他の誰かが使うのは無理そうだ。

 

 自分の荷物から食料を取り出し、分けて食べる。

 

「君はこれからどうする? 最果ての森まで一人で向かうのは危険だ。彼らの装備は長旅を想定したものではないからな」


 そのうえで、とガリウスは続けた。

 

「俺は十日ほど調査をしたら、一度リムルレスタに戻るつもりだ。一緒に行かないか? それまではこの森に隠れ、できれば飛竜の面倒を見てやってほしい」


「ありがたいお話です。しかし私は……街へ戻ろうと思います。みなを置いて、自分だけ逃げだすのは……」


 驚きはしなかった。予想していた答えの中ではもっとも可能性の高いものだ。

 

「わかった。君の意思は尊重しよう。苦労をかけるだろうが、しばらく辛抱してくれ」


「えっ?」


「しかし千人規模となると、やはり問題は移動だな。街の外へ連れ出すのもそうだが、最果ての森までを考えると頭が痛い」


「あ、あの……何を、言っているのですか?」


「ん? 君たちをどうやって解放するか、の話だよ」


 ドルフィオは口をぽかんと広げる。

 

「とにかく今、必要なのは情報だ。街に行けば現地の諜報員がいるらしいし、どうにかして接触したい」


 ジズルからは『あちらから声をかけてくる』とだけ言われている。

 どのみち、亜人たちの状況を詳しく知るには街に直接乗りこんで調査しなくてはならなかった。

 

 ガリウスは通行証をつまみ上げ、ふむ、と眺めてから。

 

「すまないが、君を利用させてもらう」


 失敗したら、また別の手を考えよう。そんな軽い気持ちで、腰を上げた――。

 

 

 

 

 城塞都市フラッタスへは徒歩でやってきた。

 堀で囲まれていて、跳ね橋を通って堂々と正面の城門に立ち寄る。

 

 門兵に話をすると、案の定、武装した男たちに取り囲まれ、個室へと連行された。

 

 ひげ面の中年男性がテーブルに着き、ふんぞり返って言う。

 

「ほほう? ではお前は、その冒険者たちを埋葬した、と?」


「ああ。俺の故郷では冒険者の亡骸を見つけたら、その場で埋葬し、近くの街にある冒険者ギルドに遺品を持っていくことになっている。こちらでは違うのだろうか?」


「冒険者の死体なんぞ、身ぐるみを剥いで放っておけばよいと思うが……」


 中年兵はちらりとドルフィオに目をやった。

 

「そこの魔族が殺したのではないのか?」


「いや、それはない。冒険者たちはこいつを囮にして逃げたようだ。が、そこで別の魔物に襲われていたところ、俺がたまたま通りかかったという状況でね。すでに息絶える直前だった。魔物を追い払ったあと、傷ついたこいつがやってきたので治療して事情を訊いたが、話に矛盾はないと判断した」


 とにかく、とガリウスは冒険者たちの荷物をテーブルの上に並べた。

 

「ギルドに遺品を持っていかなくてもよいなら、これらはどうしたものかな。俺がいただいてしまえば、それこそ盗賊扱いされかねない。たまたま通りかかっただけなんだ。正直、困っている」


 ガリウスはテーブルに置いた布の小袋を持ち上げた。じゃらりと音が鳴る。

 

「こんなことを頼むのは心苦しいのだが……どうだろう? ひとまずこちらで遺品を預かって、遺族なり仲間なりを探してくれないか?」


 中年兵はガリウスから小袋を奪い取り、中身を見た。目が輝く。

 冒険者たちの持ち物で、中には銀貨と銅貨しか入っていなかったが、こっそり金貨を二枚、入れておいたのだ。

 

「う、うむ。そういうことなら、仕方がなかろう。彼らが持っていた通行証は紛れもなくこの街のもの。住民の世話は我らの義務であるからな」


 中年兵は小袋を自らの懐に隠すと、顎で側にいた兵たちに指示する。冒険者たちの荷物はすっかり片づけられた。

 

「では、俺はこいつをルチオーラ商会に連れていくとしよう。ああ、そこまで貴方たちの手を煩わせるわけにはいかないからな。気にしないでくれ。ただ……」


 ガリウスはわざとらしく頬をかく。

 

「この街に寄る予定はなかったので、通行証がない。手続きをしたいのだが、可能だろうか?」


 ポケットから金貨を一枚取り出し、中年兵の前に置いた。すぐさま拾い上げ、またも中年兵は目を輝かせる。

 

「魔物と戦ったのだ、ゆっくりしていくといい。街の住民を弔ってくれたしなあ」


 ほくほく顔の中年兵はそのまま引っこみ、ガリウスは別室で手続きをする。

 立ち会ったのは若い兵士が一人だけ。

 

「あんた、うまくやったなあ」


 にやにやといやらしい笑みを向けてくる。

 

「けど、ちょいと気前が良すぎないか? なに企んでんだよ」


 よくみれば目は笑っていなかった。

 中には勘のいい者もいるらしい。

 

「いちおう、そこそこ腕が立つ自負はあってね。この街で冒険者になれば、このくらいすぐ回収できると思ったのさ」


 ガリウスは指で金貨を弾いた。若い兵士はつかみ損ね、床に落ちた金貨を四つん這いになって追いかけた。

 

「君たちと仲良くして損はないだろう? お互いに、な」


「へ、へへへ。まあ、そうだな。持ちつ持たれつってやつか。あんた、いい冒険者になれると思うぜ」


「それはどうも」


 どうやら勘がいいのではなく、ただ自分もおこぼれに与りたかっただけのようだ。

 

 こうしてガリウスは、拍子抜けするほどあっさり城門をくぐることができた――。

 


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