魔王は攻略パーティーを決める
教国は混乱中。王国は言わずもがなで、都市国家群との関係は今のところ問題ない。
多少戦力を遺跡探索に向けても構わないので、わりと人選の自由度は高かった。
純粋な武力ならオーガ族のペネレイやゾルト、戦闘向きの恩恵を持つ老騎士ダニオや砂漠の猛者ザッハーラが候補に挙がる。
彼らはこれまでいくつか遺跡攻略をやってのけているから、やる気も十分だろう。
だがスペリア遺跡のように大勢で挑むほどではない。
となれば当然――。
リムルレスタの都にある、議事堂内の一室。
一時的に戻っていたガリウスの目の前で。
「ガリウス殿を守るのは我らの務め。ここは私とゾルトに任せていただきたい」
ペネレイの力強い言葉に、ゾルトがうんうんとうなずく。
「待て待て。空飛ぶ島にある遺跡だと? そんな面白そうなところ、譲ってやる気はない」
ザッハーラは目をらんらんと輝かせる。
「若いのは元気があっていいなあ。しかしここは、だ。ほれ、ワシのように便利な恩恵を持つ者が――」
「ジジイは黙っていろ」
「なにおうこのぉ!」
バチバチと火花を散らすダニオとザッハーラ。
その間に割って入ったのは、小さな女の子だった。
「ケンカはいけません! お二人とも落ち着いてください」
たまたま居合わせたククルだ。
「そうですよ、お二方。ククル様の前でみっともない」
窘められてむむぅと黙った二人だったが、
「やはりここは私とゾルトがですね――」
「どさくさに紛れて何を言う!」
「抜け駆けは許さんぞぉ」
またもヒートアップする。
「だいたい、ゾルトは図体がでかすぎる」
「いえいえ、遺跡の建造物は廊下が広く、スペリアほどではありませんがゾルトはもちろんアオでも問題ないほどですよ」
「そもそもだな、二人でよいならワシとザッハーラでもよくないか?」
「いや、お二方に我ら以上の連携は難しいかと……」
「たしかにな。だから俺一人でいい」
「えぇ……、ここはワシに乗るところだろ……」
これでは話がまとまらない。
誰を選んでも不満が出そうだが、実のところガリウスはここへ来るときすでに候補を決めていた。
ただ穏当に伝えるにはどうしたものか、と思案していると。
「アオも通れるんだ。じゃあ、ククル様とアオでいいんじゃない?」
これまたガリウスと一緒に戻っていたリッピがしれっと言い放った。
「へ? わたくしが、ですか?」
「うん。スペリアのときはお留守番だったし、今回は一緒に行きたいなあって」
きょとんとしていたククルが、ぱあっと顔を輝かせる。
「はい! わたくし、ガリウスさんやリッピさんと一緒に行きたいです!」
「じゃ、決まりだねー」
前回同行したのはリッピも同じ。
最初から頭数に入っているのに文句を言いたいペネレイたちだったが。
「楽しみです♪」
リッピにぎゅっと抱き着くククルを見て、みなは言葉を飲みこんだ――。
アベリア遺跡を木々の向こうに見据え、ガリウスたちは立ち止まった。
ここより先は遺跡の範囲内。守護獣たちが待ち構えている。
「では、先鋒はわたくしがまいります」
緊張した面持ちで、身の丈の三倍はありそうな長い金属棒をぎゅっと握ってククルが前に進み出た。
遺跡の領域内に足を踏み入れたその直後。
シュババババッ!
「わ、わわわわっ!」
そこらの木々から小さな何かが無数に襲いかかってきた。
木の皮が剥がれ、刃となったものだ。その硬度は並の金属を上回り、風を切り裂き少女に迫る。
しかしククルは金属棒をくるくる回し、そのすべてを弾き飛ばした。
「そこです!」
ククルは地面を蹴ると、木の皮を飛ばしてきた樹木に突進する。
その樹木が、慌てた様子で横に動く。幹の真ん中に目や口のような裂け目があり、根を足のごとく動かしていた。
アベリア遺跡の外を守る守護獣だ。
ククルは逃げる守護獣を追いかけ、えいや、と掛け声と共に渾身のひと突き。
『ギョゲェ!』
樹木型守護獣の眉間辺りを貫いた。
「ウォォォンッ!」
アオが雄叫びを上げ、ククルの上を跳んだ。彼女に狙いを定めたらしい別の守護獣に体当たりした。
ズズゥン、と仰向けに倒れた守護獣を踏みつけ、幹を大口で噛み砕く。
「わわっ!?」
さらに別の一体が(こちらは本物の)大樹の陰から躍り出て、ククルへ向け刃と化した樹皮を撃ち放つも、
「そぉれ!」
リッピが手にしたナイフを振るうと、突風が巻き起こって樹皮の刃を吹き飛ばす。
(なかなかバランスの取れたチームだな)
リッピが先に探索パーティーに決まっていたから、ガリウスはククルを選ぶつもりだった。
ククルは見た目こそ幼いが、亜人最強種の竜人族の血を引いている。
身体能力はペネレイに迫るほどで、このところは多彩な魔法も覚えていた。
心優しく戦闘向きな性格でないように思えるが、これまで何度も実戦で的確な指揮を執り、自らも活躍していた。
これほど優秀な人材を飾っておくのはもったいない。
またアオはククルと組めば無類の強さを発揮する。精霊獣の分身体で、巨躯を生かした突破力のみならず治癒系の高度な魔法を操れるのも大きかった。
魔法具の扱いに長けたリッピには支援役をこなしてもらえば、大概の危機には対処できそうだ。
ガリウスの思惑を知らずにリッピがククルとアオを推薦してくれたのはありがたかった。
「外にいる守護獣はだいたいこんな感じだ。では――」
ククルとリッピがアオの背に飛び乗る。
「一気に駆け抜けるぞ!」
「はい!」
「うん!」
「ウォーン!」
ガリウスの号令の下、三人と一匹は森の中を疾走した――。