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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第九章:(´・ω・`)魔王は未踏の大地で無双ターン
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魔王は楽園の痕跡に触れる


 ガリウスは兜を脱いで小脇に抱え、風のマントでさらに高度を上げた。

 360度ぐるりと見渡しても、ピュウイからの映像にあったように大洋を浮遊する島々があるだけだ。


「純然たる陸地は見当たらないな」


『そうですねえ。なんとも不思議な光景です』


 傍らにいつの間にかエルザナードが姿を現していた。


「あの浮いている島が何か、お前は知っているか?」


『いいえ。まったく聞いたことがありません』


 エルザナードは首を横に振る。


『それより、よろしいのですか? あの子を放っておいて』


 今回はガリウス一人ではなく、同行者がいた。

 といっても彼がまず現地に赴き、気候等に問題がないと確認したのちに呼び出したのだ。動植物はいるが人が滅んだ形跡があるため、万が一を考慮してだ。


 そしてアベリア遺跡はリムルレスタの東部にあるイルア遺跡のように、遺跡の外にも守護獣が待ち構えている。


「遺跡の範囲からは離れたところにいるから大丈夫だよ」


 とはいえ、いつまでも一人にしておくのは気が引けた。

 ガリウスは自由落下に加速もして、ぎゅいんと地上に降り立つ。


「あ、おかえりー」


 にぱっと笑みで迎えたのはワーキャットのリッピだ。


「すまないな。作業を君に押しつけてしまって」


「荷物の整理なんて大したことないよ。それより、どうだった?」


 送ってきた木箱の中身を改めて並べながら、リッピが尋ねる。


「ここからでは陸地は見えなかったな。巨大結界も確認できない。やはり一度、巨大結界の中をくまなく探索する必要がありそうだ」


 ガリウスも手伝いながらそう答える。


「じゃあ、例の空飛ぶ舟を組み立てるの? なんだか時間がかかりそうだね」


「ああ。ひとまずこの島を見て回ろう。早急に確認したい場所もある」


「あれ? 遺跡には入らないの? 試しに入ってみるとか言ってなかった?」


「そのつもりではあったのだがね。思った以上に穏やかな環境だ。やはりどこかに人が隠れ住んでいる可能性は否定できない」


 アベリア遺跡の入り口は、今のところガリウスにしか開けられない。

 この地に誰かがいたとすれば、開いていないのには理由があるだろう。だから安易に開いてはいけない気がしたのだ。


 食料と水をリュックに積め、リッピが背負う。

 ガリウスも必要な物を詰めた鞄を片手に持った。


 森の中から見上げると、大きな山のふもとに巨大な建造物が目に留まった。ガリウスたちはそこへではなく、別方向へ歩き出した――。




 鬱蒼とした木々の中は命の息吹であふれていた。

 昆虫や野ネズミがそこら中にいて、イノシシが目の前を横切るのに驚いたりする。


「なんだか出会ったころを思い出すね。ガリウスと二人で最果ての森を目指してたのって、もう何年も前なんだよね」


『さらっとわたくしを無視してます?』


 頭上をふわふわ流れるエルザナードが不満を漏らした。


「あはは、ごめんごめん。でもあのときもエルザさんってこっそり一緒にいたんでしょ?」


『ええ、こっそり見守っておりました』


「早く出て来てくれれば、もっと旅が楽しくなったのに」


『わたくし、実のところ人見知りでして』


「えぇ~? ホントに~?」


 目を細めていやらしく笑うリッピと、しれっと応じるエルザナードの会話は続いていく。


(たしかにエルザナードがいる分、あのときと状況はすこし異なるが――)


 思えば、もし勇者をお払い箱になった直後、王都でリッピに出会わなかったら。


(俺はいったい、どうなっていたんだろうな……)


 亜人と関わることなく、王国を脱して一人寂しく暮らしていたかもしれない。

 いくつもの困難はあったが、今の幸せな生活は想像すらできなかっただろう。


 感傷に浸るうち、突然森が開けた。

 蔦が絡まった家屋と思しき建物がいくつも並んでいる。かつて、ここで生活していた誰かがいたとの証だ。


 道は草がぼうぼう生えていた。掻き分けて進み、一番近くにあった建物にたどり着く。


「どのくらい放置されてたのかな?」


「十年やそこらでここまでになるとは思えないな。しかし……」


 逆に数十年、百年以上経過していたなら、森に埋もれてしまうのではないか? との疑念も生まれる。


 リッピがしげしげと建物を眺め、「あれ?」と首を傾げて手を伸ばした。蔓を引っ張り、壁面を手で払う。


「石……なのかな? つるつるしてる」


「モルタルだろうか? 人族の住居ではよく『つなぎ』に使われるものだが、壁面を覆うやり方はあまり見ないな」


 ガリウスは壁をこんこんと叩く。固くて頑丈だ。

 続けて手のひらで壁をなぞった。


(ピュウイの映像からは朽ちたように感じたが、埃や汚れでそう見えただけか)


 小さなひびがひとつもない。


 【アイテム・マスター】を発動した。

 壁といえども目的あって作られた『道具』のひとつ。その使用方法はもちろん、製造過程もガリウスには暴くことができるのだ。


「なんだこれは? あり得ないほど魔石を使っている。素材も俺が知るものとはいくつか異なるな」


「すごい、ってこと?」


「耐久性が段違いなのもあるが、魔物を寄せ付けないなどいくつか特殊効果がある」


「へえ……ん? 魔物除け?」


「そうだ。ここには昔、生活を営む誰か以外に魔物が闊歩していたようだ」


 どちらも姿が見えないのはなぜか?


「中に入ってみよう」


 人と似たような暮らしをしていたなら、言葉があり、文字があってもおかしくない。


「書物があればいろいろ知れるのだがな」


 リッピはむんっと気合を入れた。


 扉は木製だったが、こちらも魔法的効果で朽ちていない。

 施錠されているうえに頑丈なので、ガリウスはドアを聖剣で切り刻んだ。


 埃が舞う。入り口からの光だけでは中が窺えなかった。


「ランタンを使ったほうがよさそうだね」


 ガリウスはうなずき、鞄からランタンを取り出して火を灯す。


『おや? これはなんでしょうか?』


 入ってすぐの壁面に、五センチ四方のでっぱりがあった。


「押したらトラップが発動したりして」

『要警戒ですね。軽々に触れてはいけませんよ?』


「住居にトラップがあるとは思えないが……」


 ガリウスは慎重に手を置いて、押そうと力をこめた。しかし押してもびくともせず、何も起きない。


「……中へ入ろう」


 玄関からまっすぐに廊下が伸び、突き当りと左右の壁にはドアがあった。左右のドアは後回しにして、突き当りの扉を開く。


 中にはソファーやダイニングテーブルがあり、角の一画だけ大きな台で仕切られていた。

 椅子は倒れ、壁際のチェストも横になっている。


(荒らされた形跡……というほどでもないのが不思議だな)


 倒れたチェストの引き出しは閉じられていて、他の家具が引っかき回されたという感じでもない。


「書棚は……なさそうだな」


「他の部屋を見てみる?」


「いや、まずはここを調べてみよう。文字の書かれたものならなんでもいい、見つけたら知らせてくれ」


 テーブルを中央に持ってきて、そこにランタンを置く。これだけでは心許ないが、ガリウスとリッピは手分けして辺りを探った。


 紙のようなものは見当たらない。

 ただ、用途不明のものはいくつかあった。


「この大きな箱って何かな?」


 大きな台で仕切られた一画の奥。

 横幅が一メートルちょっと、縦と奥行きがその半分の箱が置いてある。上に開く構造のようで、取っ手を引っ張ると簡単に開いたが、中は空っぽだった。


 ガリウスは箱に手を触れる。


「…………中を冷気で満たす魔法具だな」


「冷気? 何に使うの?」


 ガリウスは背後に目を向ける。部屋を仕切る大きな台。その端には、金属製の輪が二つ置いてあった。


「これは火を生み出す魔法具か。おそらくだが、その箱は食材を冷やして保存するものではないかな?」


 言ってはみたが、ガリウスには信じられなかった。なぜなら――。


「あー、ここってキッチンだったんだ。でもお料理するのに専用の魔法具をいくつも使うなんて贅沢だね」


 贅沢どころの話ではない。

 使っている魔石は一般家庭で用意できるとは思えないほど大量なのだ。


(もし、これらがかつてここに住んでいた者たちの『普通』であるなら――)


 とてつもない高度な文明が築かれていたのではないか?


 各地にある遺跡は不思議な機構がいくつもあった。目的も用途もまるで異なるが、仕組み自体はそれに類似している。いや、根底にある思想は同じものと考えてよかった。


「あれ? ここにもあのでっぱりがあるね」


 リッピが壁を指差す。入り口にあったものと同じ形の四角いでっぱりだ。


 それが何かを、ガリウスは知っていた。さっき手で押したときに調べていたからだ。


「この建物にある魔法具は、使用者から魔力をもらって動くものではない。魔力源がどこかにあるはずだ」


「探してみる?」


 こくりとうなずいたガリウスに、遠くから声がかけられた。


『もしかして、こちらにあるものでしょうか?』


 エルザナードが倒れたチェストの裏側を指差す。


 駆け寄り、チェストをどかしてみた。


「ッ!?」

「ん? これって……」


 小さな台座と光のない球体。それぞれ離れてはいるが、おそらくチェストの上から落ちたであろうこの二つは、まるで一体となったかのように隣り合っていた。


「神殿の奥にある制御装置みたいだね」


 ガリウスは台座部分を持ち上げる。やはり球体はそれについてきた。

 テーブルの上に置き、球体部分に手をかざす。やり方はすでに知っていた。


≪マスター登録を完了しました≫


 球体が光を帯びる。


「リッピ、そこのでっぱりに手を触れてくれ」


 部屋の入り口付近にも壁にでっぱりがあった。

 リッピは不思議そうにしながらも、そこへ近寄って手のひらを置く。


 パッ。

「わっ!?」


 直後、部屋が明るくなった。


『天井が光っているのですね』

「これ、遺跡の中と同じなんじゃない?」


 リッピの感じたとおり、地下だろうと壁からにじみ出る光で視界が確保されていたのと同じ理屈だ。


「もう一度そこに手を置くと暗くなる」


 言われ、リッピが手を放してまた置いた。ガリウスの言葉どおり天井から光が消える。

 またでっぱりに触れると、再び光が灯された。


「手を置いた者の魔力を感知して切り替わる。相手を選ばないのは利便性を考慮してか」


「すごい! 便利だねー」


 正確に言えば見つけたのは魔力源ではなく、それを制御する魔法具だ。機能は絞られているが、神殿の制御装置と仕組みは同じ。


(遺跡や神殿を作った者と、ここに住んでいた者たちは何かしら関係がある……)


 顔を強張らせるガリウスとは対照的に、リッピは無邪気に続ける。


「いいなー。こんなお家に住んでみたいなー」


 素朴な希望。

 しかしガリウスはリッピの言葉に、全身に鳥肌が立った。


 打ち捨てられた家屋はしかし、いまだに『生きて』いる。

 高度で便利な魔法具までもが置かれたままで。


 最果てのさらに向こうには、真なる『楽園』が存在したのだ――。


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― 新着の感想 ―
[一言] 面白かったので一気に読みました。 更新待機してます♪
[一言] コンクリートの壁材に電灯、冷蔵庫、魔導コンロ。 なんで滅びたんでしょうね。 滅びたというより、この場所を何らかの理由で放棄せざるを得なかったということか。
[一言] 無邪気な欲望が文明を滅ぼすのかもしれないな...
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