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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は因縁を断つ


 光があふれる。聖なる光だ。


 ティアリスは二度目の死を悟ると同時に、一度目の死の直前を思い出していた。


 その信仰を、ずたずたに引き裂かれた。

 自分が信じて疑わなかったものが、粉々に砕かれた。


 それをした相手をただ恨み、憎しみの炎で身を焦がしたばかりの二度目の生。


 後悔はない。憎むべき相手を殺すためだけの二度目の人生に、後悔がなかったのは本当だ。けれど――。


(わたくしは、罪を犯した……)


 迷い砕ける程度の信仰で、多くの罪なき人々を断罪した。


 それをたった今、思い出した。

 走馬灯のように自らの罪が押し寄せてきて、彼女は一度目と同じく心を壊された。


 憎い。殺したい。

 その純然たる想いは消えないままに、


(わたくしこそが、地獄に落ちるにふさわしい……)


 あのときできなかった、一度目の人生での激しい後悔を抱きながら。



 聖女は肉片ひとつ残さず、聖なる光の奔流に飲みこまれた――。





 轟音が広い部屋全体を揺るがす。

 塵埃が吹き荒び、室内を蹂躙した。


(ティアリスは逝ったか。さすがは聖剣の破壊力と言ったところであるな。しかし、これは……)


 喉元をがっちりつかまれ、ケラは瞳だけ動かして周囲を観察する。


 塵埃が、彼女らのもとには押し寄せてこない。


 ケラとガリウスの周囲を透明な壁が囲み、それを防いでいるのだ。


 正五角形を十二枚張り合わせた何か。

 虚空に浮かび、ガリウスはその中に立っていた。


「さて、次はお前の番だな」


 ガリウスはつかんだ腕を振るう。

 ケラはゴミのように放り出され、透明な床に腰を打ちつけた。


「これは、次元境面か……?」


「さすが三百年の叡智とやらは物知りだ。使った俺でも知らぬことを口にするとはな」


 これは聖武具の専用機能ではない。聖剣と聖鎧の特殊効果を組み合わせて完成させたものだった。

 ガリウスが実戦でこれを使ったのも初めて。対ケラ用に練習したのが最初である。


 ケラはぎりっと奥歯を噛みしめた。


「物理、魔法を問わずあらゆる攻撃を跳ね返す究極の防御。魔法を打ち消すマギ・キャンセラーや今の聖なる光の攻撃、完全回復に並ぶほどのものであるな」


「たしかに防御に使えそうだな。だが消費する精神力に比べて防御でここまでの効果を俺は必要としない。今しか使い道がなさそうだ」


「何を、するつもりだ……?」


「本当はすでにわかっているのだろう? 原理は俺にも理解不能だが、これは空間を断絶してあらゆるものを通さないらしい。ま、外の景色が把握できるということは光は通すようではあるが――」


 ガリウスは冷徹な眼差しをケラに突き刺す。


「壁を通り抜けられる精霊もどきが通過できないのは確認済みだ。ならばお前も、通り抜けはできまい?」


 ケラはその人格と記憶を持って、他者に乗り移れる。

 おそらく直接の接触がなくても、遠く離れた者に対しても。だから肉体を滅したところで彼女は殺せない。


 その対策がこの透明の檻だった。


「我を殺せば人類三百年の叡智が失われるぞ!」


「それは困ったな。だがまあ、一度は積み上げた知識だ。取り戻すのに三百年はかからんだろうよ」


「我が知識をもってすれば、亜人たちの繁栄は約束されている。どうして我を使おうとせぬ!」


「たいした自信だな。しかし一理あるとは俺も思っている」


「ならば――」


「だがな、お前という『悪』を放置すれば、栄える前に滅びが訪れる。お前は帰属意識が皆無だが、どうあがいたところで『人の側』に立つ者だ。いずれ俺の寝首を掻き、亜人たちを蹂躙しないとなぜ言える?」


 ガリウスは聖剣を構えた。


「お前を生かした場合の利益と滅亡の危険。天秤に乗せる以前の問題だ」


 ケラは震え上がるも、ガリウスの言葉に光明を見出した。


「待て! 滅亡と言ったな? 亜人を含め、この世界すべてを滅びに導く存在を、貴様は連れ歩いていると知っているのか!?」


「……」


「取引だ。彼奴(きゃつ)めの情報を余すところなくそなたに教えよう。二百五十年前、『災厄の魔女』と呼ばれたその女は――」


 ズバシュッ、と。

 ガリウスが無言で聖剣を振り下ろすと、ケラの肩から逆側の脇腹にかけて一本の線が引かれ、血が噴き出した。


「な、ぜ……? 彼奴は、世界を亡ぼす、女だぞ……」


「あいにく時間切れだ。次元境面とやらは作るのにも維持にもすさまじい精神力を必要とするのでね。さすがに疲れた」


「助けて、くれ……。我は今後一切、そなたには関わらず、『記録』に専念すると、誓おう。我とて、世界の滅びを求めては、おらぬ。むしろ滅びを、回避するために、存在しているのだ……」


「ああ、それは信じてやってもいい」


「そ、それなら――」


「『俺に』関わらないのは信じよう。だがいつか俺が死んだら、お前は亜人たちにまたちょっかいを出す。『人』の滅びを回避するとの名目で」


「お、のれ……」


 どさりとケラの上体が倒れる。呼吸も止まった。

 しばらく放置していると、ガリウスの背から金髪の女性が姿を現した。


「エルザナード、奴はどうなった?」


『肉体から離れてしばらく次元境面を通過しようとがんばっていましたが、今しがた完全に消滅しました』


 ガリウスはふぅっと息を吐き出す。

 しかし透明な正十二面体は消さなかった。


 エルザナードの言葉を信用していないのではなく、まだドーム状の室内は塵埃が漂っているのを嫌ったのと、念には念をとの思いからだ。


『訊かないのですか?』


「訊いてほしいのか?」


『嫌です。絶対に話しません』


 むくれる彼女に思わず苦笑が漏れる。


「語りたくない過去は誰にでもある。それが世に『悪行』と断ぜられたことならなおさらな」


『経験者の言葉は重みが違いますね』


「俺は自ら積極的に話したくないだけで、訊かれれば答えるよ。そして、かつて数多の同胞を殺めた罪を贖えと言われたら、そうするだろう」


亜人たち(かれら)がそんなこと言うはずありません』


「そうだな……。だが仮にいつかそうなったとき、俺は受け入れるというだけの話だ」


 エルザナードは気まずそうにふよふよ漂う。


『……わたくしは、貴方を信用していません』


「知っているし、俺もだよ」


『むぅ……。だいたい、貴方がある日突然やってきて、なんの相談もなく契約したのが悪いのですよ!』


「当時はまさか聖武具の中に妙な女がいるとは知らなかったからな。出てきて文句を言わなかったお前にも責任があると思うが?」


『ぐぬぬぬ……』


 エルザナードはガリウスの正面で止まると、表情を消して彼を真摯に見下ろした。


『本当に、わたくしが過去なにをしたのか、訊かなくてよろしいのですか?』


 どうにもつかめない女だが、今のが最後の問いだとは理解した。


「興味がない、と言えば嘘になるが、訊いたところでやることは同じだ」


『と、言いますと?』


 どこか怯えたような雰囲気を感じ取る。


「お前が恐れているのは、俺が聖武具の機能を完全に停止して自身が消滅することだ。が、俺はそれをするつもりがない」


『しょせんわたくしは貴方の支配下。いつでも息の根を止められる。さきほどのケラのように』


 あえてガリウスは答えなかった。


 人の心は移り行くもの。

 かつて世界を滅ぼそうとしたとしても、今そうだと断ずるのは早計だ。


(こいつは無自覚のようだが、今まで何度も『誰かを救う』行動を取っているしな)


 初めて今の彼女の姿と対面したとき、リリアネアたちエルフ一行の窮地を知らせている。

 自身が封印されかけたときも、亜人の楽園の情報が帝国に知られぬよう必死だったと聞いた。

 そして彼女が他者と接するときは、実に楽しそうにしていたのだ。


(何か裏で企んでいるとしても、性根を隠しきれる奴だとも思えん)


 ただ、いずれ敵対する日が来れば、そのときは――。


(全霊をもって、お前を滅してやろう)


 ガリウスは鋭い視線を送ると、なぜだかエルザナードは薄く笑った。


『塵埃が晴れてきましたね』


「思いのほか早かったな。どうやら床に開けた大穴に流れ込んでいるようだ」


『地下に大きな空洞でもあって、そこまで通じてしまったのかもしれませんね』


 ガリウスは透明な檻を消した。軽く聖剣から光を放ち、部屋の入り口を崩してふさいだ。聖剣を鞘に戻し、てくてく歩く。


『制御装置を回収しないのですか?』


「いったんバハムートへ戻る。すこし休んだらまた戻ってくるよ。入り口をつぶしたのは、その間に教国の連中がこの場に入らないようにする措置だ」


『おや、そこまで疲弊していましたか』


「いや、あと一発なら天井に大穴は開けられそうだ。だが、その前にやることができた」


 やること? とエルザナードが首をかしげる。


「ああ、どうにも気になる。ティアリスの件だ」


『反魂の秘術を解き明かしたいとでも?』


「そっちには興味がない。あの娘が死から復活しただけで、どうしてあれほどの力を得たか、にだ」


 放置すれば、今後とてつもない脅威になるような気がしてならなかった。


「ケラをすぐ始末しなかったのは、その辺りの情報をうまく引き出せないかとの期待があったからだ。なのにあの女、どうでもいいことに話を持っていこうとしたからな」


『わたくし最大の危機的状況を、どうでもいい、とは……?』


 エルザナードは愕然とする。が、すぐさま気を取り直した。


『また一人で国を相手に暴れるつもりなのですか?』


 呆れても止まりはしないだろう。しかし相変わらず無茶をする、とこれみよがしに嘆息を零したものの。


「いや、今回は軍を使った拠点制圧戦だ。遺跡の入り口は大聖堂とつながっているからな。そこから一気に雪崩れこみ、大聖堂を制圧して教皇から情報を絞り出す」


『軍? 今すぐ回せる戦力がありますか? ここへ来た者たちは、聖鎧を持つ貴方と違ってすぐに回復はできませんよ? まさか全員に完全回復をかけるなどとは言いませんよね? なんてブラック』


 ガリウスは「何を言っている?」と呆れて言うと。


スペリア遺跡(ここ)にたくさんいるじゃないか。ここの守護獣たちは他の遺跡のものたちより強かったからな。仲間になった彼らに無茶をさせる気はないが、当てにさせてもらう」


 笑みを浮かべることなく、飛空戦艦へと向かった――。



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― 新着の感想 ―
[一言] 並の戦力より厄介な防衛端末が神殿の奥底から湧き出て来る訳か… …見方によっては天罰みたいだな。
[一言] 狂った聖女が後悔したのは狂ったが故か 元から狂っていたものが狂ったのだから正常かと問われればそれもどうなのかと 違う方面に狂ったと考えますね というかわが孫を禁忌に触れてまで道具として蘇らせ…
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