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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は巨大蜘蛛を倒す


 ガリウスたちがスペリア遺跡の攻略を開始してから一週間が経った。


 T字路になっている広い通路の真ん中に荷馬車を集めて固まっている。


「ガリウス殿、周辺の調査を終えました」


 ハーフオーガのペネレイがやってきて、数枚の紙をガリウスに手渡す。付近を調べて記した地図だ。

 虚空にはちびスライムのピュウイが映像を映している。事前に入手していたスペリア遺跡の攻略情報のひとつ、遺跡内部の地図だった。


 二つの地図を照らし合わせ、ガリウスはうなずく。


「うん。やはりここで間違いないな」


 ガリウスが目配せすると、老騎士ダニオとオーガ族のゾルトが突き当りの壁に向かった。互いに十メートルほど距離を開け、壁面をコツコツと叩く。


「ここだけ音がにぶいな」

「こちらもですね」


 両者は武器を構えると、掛け声をかけて同時に振り下ろす。ダニオの大剣とゾルトの戦斧が壁にめりこんだ(・ ・ ・ ・ ・)


 壁の一部が下に降りていく。五メートル幅の穴が開いた。向こうは通路になっている。


「この先が遺跡の最奥だ。攻略情報がなければ、ただでさえ広いこの地下遺跡をくまなく探す羽目になっていたな」


 ガリウスが肩を竦めると、小さな笑いがいくつも漏れた。

 それを引き締めるようにガリウスは表情を険しくする。

 

「荷馬車はここに残していく。ペネレイとゾルト、ザッハーラは荷馬車の護衛を頼む」


「守護獣たちへの対処ですね」とペネレイ。


「ああ。と言っても、攻略情報ではもうここに守護獣が追いかけに来ることはないと思うがな」


 実際、この場に到達してから数時間経つも、一向に現れる気配がない。最奥には巨大守護獣が待ち構えているはずで、それが最後の関門と考えていいだろう。

 

 ただ不測の事態に備える必要はある。


(さすがに教国も俺たちの存在には気づいたろう。最悪の場合、すぐそこまで迫っている危険もある)


 巨大守護獣の攻略に手間取れば、挟み撃ちされかねない。


「すぐに片を付けてくる」


 ガリウスはダニオとリッピ、それに数名の戦士を引き連れて、最奥へ続く通路に入った。




 薄暗く、曲がりくねった道をしばらく進むと、


「あれが出口か。いや、巨大守護獣のいる広間への入り口だな」


 通路の先が切り取られたかのように明るく輝いていた。

 慎重に歩を進めると、


「なにあれ? でかっ」


 リッピが目を丸くする。


「蜘蛛……のように見えるが、妙な形をしておるなあ」とダニオ。


 広い部屋の中央に、六本脚の巨大な物体が佇んでいた。目測で体長が十五メートルほどはある。

 一見すると蜘蛛のようだが、背中から十本の何かが伸びている。先端が膨らんだ長い棒。先に蕾がひとつだけある、葉のない茎だけの植物のようなもの。

 ただし全体的に黒っぽい金属質の体をしている。とても虫や植物には思えなかった。


「こっちに気づいてないのかな?」


「いや、広間に入らなければ何もしてこないらしい」


 ガリウスはすこしだけ考えてから、


「君たちはここにいてくれ。ちょっと様子を見てくる」


 単身で乗りこんだ。


 広間に入るや、巨大守護獣の顔らしき箇所の一部が赤く光った。その場から移動はせず、ガシャンガシャンと六本の脚を動かして体を回転させ、ガリウスに正対する。

 背中から生える十本の棒状の何かが、ゆらゆらと触手じみた動きを始めた。


 ガリウスは正面から見据えつつ、周囲を観察する。

 直径百メートルは越している広大な半球空間。ドーム状になっていて、壁や天井、床にも不自然な凹凸があった。


(様子見とは言ったが、可能ならば一撃で決める!)


 聖剣を抜いた。

 瞬間、棒状の何かの先端が、一斉に花開いた(・ ・ ・ ・)


(来るっ)


 五つある花弁のそれぞれにいくつもの穴が穿たれている。そこから、無数の光弾が撃ち放たれた。


 迫りくる光弾に、目で捉えるより早く反応する。

 直進してできた数多の光の筋を、縫うようにすり抜けた。


「――ッ!」


 敵を撃ち漏らした光弾が、床に直撃した。しかし床を穿つことも光弾が消え去ることもなく、跳ねる。

 光弾はさらにドーム状の壁面にも当たったが、こちらも弾かれて進撃を止めない。

 しかも歪な凹凸で、あっちこっちと予測不能な動きをする。


(事前に知っていたとはいえ、実際に経験すると厄介なものだな)


 それでもガリウスは、あらゆる方向から襲い来る光弾を躱し続けた。


『さすがですね。かように苛烈極まる攻撃がかすりもしないなんて、達人の域を遥かに超えたものでしょう』


 頭の中に直接響く声。


 彼女の言うとおり、ガリウスの動きは人の反射神経では為し得ぬわざだ。

 もとより聖鎧には使用者の身体能力を向上させ、反射神経を極限にまで高める機能を有する。


(しかし俺は、あらゆる面で一般兵士にも劣る)


 だから当然、限界というものがあった。


 それを超越した動きを実現しているのは、神より授かりし恩恵ギフト――【アイテム・マスター】によるものだ。


「達人の域を、ね。それは自慢か? 俺はただ、自身を道具アイテムと化し、聖鎧に宿る者(・・・・・・)に身を委ねているに過ぎない」


『……驚きました。【アイテム・マスター】を一段進化させたようですね。虹色に至るのも時間の問題でしょうか』


 はぐらかしたか、とガリウスは内心でため息を零すも、今は追及するときではないと言葉を飲みこむ。


(さて、このままでは埒が明かないな)


 避けてばかりでは、一向に巨大守護獣には近づけない。


 片手を突き出す。迫りくる光弾に向けて、だ。


 ガガガッと重い衝撃。

 手のひらの前に現れた魔法盾は、三つ目で、パリン! と砕けた。さらに複数の光弾が襲いかかる。身をよじるも、二つが鎧をかすめた。


『大した威力ですね。直撃したら、この鎧でも中身が無事では済みませんよ?』


「そのようだな」


 ガリウスは再び回避に専念する。同時に注意深く光弾の流れを追った。そして、気づく。


(どういう計算の上かは知らないが、あの巨体にはひとつたりともかすりもしないな)


 ゆえに、巨大守護獣の周囲は安全地帯になっていた。


 ガリウスはわずかな隙間を見つけると、床を蹴破るほど強く跳んだ。


 ズサアァッ!

「ガリウス!」


 一気にリッピたちがいるところ――広間の外へと後退する。


 と、広間を縦横無尽に走っていた光弾の数々が、一瞬にして消え去った。


「無茶をしおって。見ているこっちがひやひやしたぞ」


「ホントだよ。もうハラハラしっぱなし」


「すまない。心配をかけたな」


 迎えたダニオたちにガリウスは頭を下げる。


「しかし、どうするのだ? 聖剣の力をもってすれば、ここからでもあの巨大獣は粉砕できようが……」


 それができない事情があった。


「さすがに聖剣の威力では、制御装置もろとも壊しかねない」


 厄介なことに、スペリア神殿を司る制御装置は巨大守護獣の腹の中にあった。

 あれを攻略するには頭部を破壊し、活動を停止させる必要があるのだ。


「威力を弱めたりはできないの?」とリッピ。


「できるが、頭部だけを破壊する程度の威力では、あの光弾の嵐に掻き消されてしまう」


「むぅ……なかなか厄介だのう。しかし――」


 ダニオはにっと笑うと、


「「策はある!」」


 リッピと声を合わせた。


(俺は口癖のように言っていただろうか……?)


 気をつけよう、と心に刻みつつ。


「策と言っても、奇をてらったものじゃないよ」


 ガリウスは剣を構え、腰を落とした。ふっと息をひとつ。床を思いきり蹴る。

 リッピたちがかけた声を切り裂き、砲弾じみたスピードで巨大守護獣へと突き進む。


 巨大守護獣は何かを察したのか、先ほどよりも大量の光弾――ありったけを撃ち放った。


 広大な空間がまばゆいばかりの光に白く染まる。

 隙間など皆無に思える光弾の嵐の中を、ガリウスは恐れることなく真っ直ぐ(・ ・ ・ ・)に駆けた。


 左右、上からの直撃を、速度を増して躱す。

 しかし直進していれば当然ながら、正面からの攻撃は避けられない。


『なんとまあ……本当に無茶をしますね、貴方は』


 呆れた声に反応する余裕はない。

 眼前に展開した魔法盾は、数発で破壊されるのは確認済み。


 だからガリウスは、盾を斜めに配置して受け流した。


 これで十発は耐えられる。

 砕けた端から再構築。

 上や側面からの光弾は感覚を頼りに剣で撃ち落とした。


 とはいえ、いかに聖鎧を装備して身体能力や感覚が人を超えようと、そう長くは集中がもたない。

 一瞬でも気がそがれれば、その時点で光弾の直撃を食らうだろう。そして一発でもまともに命中すれば、以降は無数の光弾に聖鎧ごと身を削られ、跡形も残らない。

 

 だがそれも――。


「ここまで来れば、盾は必要ないな」


 最短距離を最速で。

 安全地帯――巨大守護獣の懐に入ってしまえば問題なかった。


 ひゅん、と。


 軽く聖剣を振り下ろす。

 たったそれだけで、拍子抜けするほどあっさり巨大な蜘蛛の頭部は切り離された――。





 ドーム状の空間を埋め尽くすほどの光弾が消え去った。


「ガリウスすごい!」

「しかし貴公には、『無茶』という言葉すら生ぬるく感じるわい」


 リッピたちが駆け寄ってくる。


「時間をかけたところで隙を見せる相手ではないからな。入念な準備をすればチームで対応も可能だろうが、手持ちを考えれば最短最速で仕留めるのが一番確実で、実のところ安全だ」


「さらっと言うが、ワシならたどり着く前に穴だらけにされておるわ」


 ガリウスが苦笑を返した直後、ガシャンッと巨大守護獣の体躯が床に落ちた。


 ピシリと音が鳴ったかと思うと、頭部から後方へ向けて真っ直ぐに切れ込みが入る。ズズズズッ、と床を擦りながら二つに分かち、中から見慣れた物体――制御装置が姿を現した。


「キキキッ」


 そしてぴょーんと大きく跳ねる小さな何か。

 ずんぐりした体に六本脚が生えた、クモのような生き物だ。


「ピュイ、ピュイィ~」


 ちびスライムのピュウイが近寄り、互いに目を合わせながらくるくる回る。


「仲いいね」とリッピがほっこり見つめる。


「さて、もう危険はないな。ペネレイたちを呼んできてくれ。撤収する」


「そう焦らんでも、真っ直ぐここへやってきたのだから、他を回って貴重なアイテムやらを拾ってもよいのではないか?」


 マスター登録をして神殿の管理者になれば、守護獣たちは襲ってこない。

 ダニオの言うことも一理あった。

 だがそれは、別の危険をもたらすかもしれなかった。


「いや、やめておこう。教国の連中が俺たちの存在に感づいている可能性があるからな。いまだに気づかぬ間抜けと侮れば足を掬われる」


「たしかに守護獣の足止めが期待できなくなれば、連中に追いつかれるかもしれんが……。攻略情報を持たぬのだ。時間はたっぷりありそうだがなあ」


 ダニオの言い分は理解できる。

 慎重すぎるとの自覚はガリウスにもあった。


「目的は達した。欲を出す場面ではないよ」


 一週間も陽の当たらぬ遺跡内で行軍してきたのだ。

 疲労もある。万が一を考えるべきだろう。


「では、俺はマスター登録をしてくる。そっちは頼む」


 ガリウスは制御装置へと歩み寄った――。




 マスター登録が終わり、攻略チームの飛空戦艦バハムートへの転移もほとんどが終わった。念のため広間への入り口は元の壁に戻しておいた。


「あとはワシらだけだな」


 残るはガリウスとダニオ、リッピにちび守護獣たちだけだ。


「ガリウス殿、貴公は最後で、聖剣でこの天井をぶち抜くわけだが……できるのか?」


 攻略情報によれば、今いる位置は地下のかなり深いところだ。上に分厚い岩盤でもあれば、いかに聖剣といえども貫くのは容易ではない。

 

「ま、上手くやるさ」


 心配そうに上目に見てくるリッピの頭を、ガリウスはわしゃわしゃと撫でた。


「さあ、行ってくれ。俺は準備にすこし時間がかかるかもしれない。何かあったらそちらから連絡してほしい」


 ん? と小首を傾げる二人を、制御装置へと向かわせる。そうして、バハムートへと転移させて。


『どうやら、貴方の不安が的中したようですね』


 ドォン、と。

 広間の入り口の方向から爆発音じみた轟音が鳴り響いた。


「連中も間抜けではなかった、ということだろう」


 とはいえ、とガリウスは訝る。


(やはり早すぎる。大勢での行軍では絶対に間に合わないだろうし、少数精鋭としても、こちらの位置を把握していなければ難しいはずだが……)


 どうあれ、来たものは退けるのみ。


 ガリウスは聖剣を構え、入り口をにらみ据えた。

 そこへ現れたのは――。



「ガリウスゥ……ガリウスッ!」



 かつてその胸を聖剣で貫いたはずの、聖女ティアリスだった――。



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[一言] イキワレ。 クレイジーサイコ聖女はひき肉よー!
[一言] 再開きたー!待ってました!
[一言] 細かい事ですし、意味も分かるのですが T(ティー)字路ではなく 丁(てい)字路、です。
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