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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は遺跡に侵入する


 ――スペリア遺跡の攻略初日。


「よし、そろったな」


 ガリウスはすべてのチェックが終わったとの報告を聞き、そう告げた。

 漆黒の鎧を身にまとい、兜を小脇にみなを見回す。

 

「ではスペリア遺跡の攻略を開始する。目的は神殿の制御室へ迅速に到達することだ。戦闘はなるべく避け、事前に得た攻略情報から最適なルートを選択して進む」


 ガリウスは半身になり、背後を指差した。


「まずはこの道を突っ切る。さっそく守護獣がわんさか出迎えてくれるはずだ。荷馬車は一列にして等間隔のまま中央を駆け抜ける。とにかく荷馬車と積んである荷を守ることが最優先だ」


 広い遺跡を踏破するには時間がかかり、ゆえに物資は多く必要となる。仮に物資が足りなくなればスタート地点に戻って補給しなければならず、大きな時間を無駄にしてしまうだろう。

 

 物資を守るには人員が必要。しかし部隊が大きくなれば物資もまた増えるというジレンマ。

 考え抜いて調整したのが今の人数と物資の量だった。

 

 主戦力にペネレイとゾルトはいるが屈強な兵士は少ない。魔法の力に優れ防御に長けた部隊だ。


「守護獣とやらが食えるタイプならよかったのだがなあ」


 巨躯で肩を竦めたのはザッハーラ。砂漠の民のルクサル族の族長だ。


「魔物を食うのは勘弁してほしいなあ」


 呆れた声は老騎士ダニオ。


「ふん、そんな贅沢を言っては砂漠で暮らしてはいけぬ」


 うなずく者たちは同じく砂漠の民の面々。彼らは復興途中のグラウスタに移住している。遺跡探索に有用な恩恵ギフト持ちを中心にスカウトされたのだ。


(まあ、報酬もいい。腕も試せる。そしてなにより、ここで武勲を上げればオリビアの心をぐっと手繰り寄せられる!)


 ザッハーラたちの気合は十分だった。


「では出発する。ペネレイとゾルト、それにザッハーラは俺に続いてくれ。ダニオも一緒だが、状況によっては守備部隊の援護に回ってほしい」


「おう!」


 真っ先に応じたのはザッハーラ。遅れてみなが雄叫びを上げる。

 そうして、進軍は開始された――。





 まっすぐな一本道を進んで二分と経たぬうち、


「来たぞ」


 前方から金属音を響かせて大部隊が迫ってきた。

 

 全身鎧の兵士たち。しかも四本の腕を持ち、すべてが二メートルを超す巨躯だった。


 ザッハーラがこぶしも覆う攻撃兼用ガントレットを打ち鳴らして前に出た。

 

「アレの中身は空らしいな。やはり食えたものではないか」


「おぬし、相手が獣型であれば食いついてそうだな」


「俺をなんだと思っている。肉なら焼いて食わねば腹を壊す」


「けっきょく食うのだなあ……」


 のん気な会話に凛とした声が割って入る。


「ご両名、のんびりしていては置いて行かれますよ?」


 言うや、ペネレイは速度を上げた。ゾルトも大股で続く。そのさらに先に――。

 

 ガリウスが鎧騎士の隊列を穿つ。

 

 ただ敵陣に突っこんだように見えて、次から次へと重厚な鎧騎士が左右に弾き飛ばされた。


「なんという速さだ……。俺が目で追えぬとは。アレが王国の勇者か」


「聖武具を完全装備するとあそこまでに至るのか。いや、まだ実力の半分も出しておらぬな。これ、ワシらいらんのでは?」


 ガリウスは敵陣の中で単身大立ち回りをしている。

 しかし剣を振るうも斬るのではなく、叩いてダメージを与えるにとどめていた。


「とはいえ起き上がってはこないな。一撃で戦闘不能にするとは恐れ入る。さて、左右からこちらへ向かってきているぞ?」


「うむ、ペネレイとゾルトが対応しているが手加減してでは苦労しているとみえる。おぬしは左のペネレイの援護を頼む」


「任された。しかし……『なるべく倒すな(・・・・・・・)』とは面倒な注文だな」


 ザッハーラは文句を言いつつ左斜めに進路を変える。

 

 事前に守護獣を倒しきらないよう命令を受けていた。

 なぜなら守護獣は、倒されてもいずれ復活する。だからなるべく倒さず置き去りにして先に進めば、以降は相手をする守護獣が減るとの思惑だ。


(しかし聖剣で一掃してもよさそうなものだがな。天井や壁が崩落する危険があると言っていたが……)


 床を思いきり蹴りつけて駆けるも、床はびくともしなかった。


(素材もよいようだが、防御系の堅牢な魔法がかけられているな)


 遺跡全体と考えればとてつもない技術だ。はたして聖剣でも崩せるかどうか、とザッハーラは考えつつ、鎧騎士に殴りかかった。

 

 ガリウスは敵部隊の中心で鬼神のごとき活躍をみせていた。

 しかし彼が対応できる数は限られている。多くを引きつけてはいるものの、余った鎧騎士たちは左右から荷馬車を狙っていた。

 それらを四名が押しとどめるも、荷馬車が進めば必然、守護獣部隊との距離も近くなる。


「さあ、ここからはボクたちもがんばるよー!」


 荷馬車の上でリッピが叫ぶ。

 

 並走するオーガ族やオーク族の戦士が鎧騎士たちを押しとどめつつ、荷馬車に乗った魔法部隊が防御魔法陣を展開した。

 

 馬を狙った鎧騎士を光弾で貫く。

 積み荷に飛びかかってきた鎧騎士を魔法盾で押し返す。


「とりゃあ!」


 リッピが風刃を放つ。ガリウスから受け継いだシルフィード・ダガーだ。

 風刃は一体の足を切断して別の鎧騎士の首を刎ねた。


 守備部隊は積み荷を守るのが最優先。迫る敵には倒す倒さないに関係なく全力で抗った。


「うにゃあ! 数が多いよ~」

 

 しかし防御に重きを置いた彼らでは一撃では倒しきれない。

 混戦の中、鎧騎士の数がさらに増えてきた。徐々に荷馬車のスピードが落ちてくると、群がる数も増えてくる。


「あっ!? そっち! 防いで!」


 後方の荷馬車に鎧騎士が一体、守備兵の隙間をすり抜けて襲いかかってきた。

 完全に虚をつかれて肉薄を許し、左右の手に握られた剣が同時に振り下ろされる。

 

 間に合わない、と誰もが思ったとき。


「ここで守れぬとあっては騎士の名折れ」


 突如として現れた老騎士が、大剣で頭から鎧騎士を両断した。


「ダニオさん、ありがとう!」


「なに、ゾルトが壁役として働き過ぎていてな。暇になったので戻ってきた。打ち漏らしはワシが引き受ける。貴公らは速度を上げて――」


「道は拓けた。一気に駆け抜けろ!」


 ダニオの言葉に被さり、前方からガリウスの叫びが届いた。続けざま二本の光線が荷馬車の左右に奔る。近寄る鎧騎士たちを薙ぎ払った。

 

「ワシの活躍が……」


「大丈夫、ちゃんと見てたから」


 しゅんとするダニオにリッピが慰めの言葉をかける。


「ま、武勲なんぞに興味はない。ワシは守るべきものを守る。それだけだ」


「そうそう。がんばろうね」


「おう!」


 気を取り直したダニオは群がる鎧騎士に斬りかかった――。





 守護獣の群れを突破し、荷馬車は一本道を駆けていく。

 最後方の荷馬車に乗って、ガリウスとリッピは追っ手を見据えていた。

 

「ねえガリウス、引き離せないし、むしろ近づいてきてない?」


「こちらのスピードが落ちてきているからな」


 並走する兵たちが息切れしてきたので、荷馬車も速度を落とさざるを得なくなった。


「どうするの? そのうち追いつかれちゃうよ。みんな疲れてるからこれ以上は……」 


 相手は疲れ知らずらしく、ダメージを負ってもしばらくすれば回復する。連戦は圧倒的に不利だ。


「できればやりたくはなかったのだが……仕方ないな」


 ガリウスは軽やかに舞うと床に一人、降り立った。


「な、何するの?」


 リッピの質問に、ガリウスは聖剣を構えて答えた。


「足止めだ」


 刀身が金色に輝く。腰を落とし、力をこめて振り抜くと、光の刃が上へ(・・)と放たれた。


 轟音の直後、天井が崩落を始める。

 ガリウスはさらに左右にも光の刃を撃ち放ち、完全に通路をふさいでしまった。


 停止して呆気に取られるみなのところへ戻ってくると、ザッハーラが呆れたように声をかけた。


「天井や壁を傷つけるのは避けるのではなかったのか?」


「やりたくはなかったのだがね。思いのほか頑丈だったから一部ならいいかと考えを改めた」


 これで多くの守護獣を閉じこめられたので、今後の攻略が楽になる。


「ついでにルビアレス教国の連中に気づかれても時間稼ぎができる。ただ物資の補給はやりにくくなってしまったから、より慎重に進まざるを得なくなったがね」


「なるほどな。臨機応変、大胆不敵。状況に応じて最善手を素早く選択して実行に躊躇がない。覇王の資質があるな、貴様」


「誉め言葉として受け取っておくが、あまり嬉しくはないな」


 さて、とガリウスはみなに告げる。


「疲れているだろうが、もうすこし先まで進んでから休もう。ただしペースはゆっくりでいい」


 緊張が解け、ゆっくり進み始めたところでリッピが駆けてきた。


「攻略情報もあるし、なんとかなりそうだね」


「ああ、そうだな」


 初戦は完勝と言える。

 しかし油断は禁物だ。今後、想定外の事態がないとも限らない。


(そうだ。しばらくは攻略情報に従って楽には進めるだろうが……)


 いずれ遺跡の設計者でも想定していないことが起こる可能性は十分にあった。

 

 しかし勝利に安堵するみなを不安がらせないよう、今は言うべきではないとガリウスは口をつぐむのだった――。




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