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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は刺客の挑戦を受ける

ひさびさに生ガリウスさん登場です。


 城塞都市グラムは、都市国家群で最大規模を誇る街だ。

 北側繁華街の大通りから一本外れた場所にある、中規模の宿屋兼酒場。その名も『ククルン亭』。元はリムルレスタが諜報活動用に立ち上げた店だ。

 今は資本関係を隠したまま、亜人の従業員を積極的に雇い、変わらずフレンドリーなサービスで人気を博している。

 

 そこに、〝魔王〟の姿があった。

 といっても壁際の目立たぬテーブルで服装も地味となれば、店内で気づいているのは少数だ。むしろ彼の隣に座る美しいエルフにこそ注目が集まっていた。

 そして、彼らの前に座る人族の女性。

 

「リリア、たまにはあんたも付き合いなさいよね。旦那もいるんだし、旦那がさあ!」


 すでにほろ酔いを通り越している彼女はオリビア・テルド女史。帝国に破壊された都市グラウスタの復興工事を主導している立場だ。

 リリアネアとは仕事上の付き合いで、よく行動を共にしていた。

 

 今日はその復興支援策を、各都市の代表が集まって協議していた。ガリウスもリムルレスタ代表として参加し、遅い食事をとりにやってきたのだ。

 

 オリビアが木のジョッキをリリアネアに突き出す。

 

「ほれ、飲みなさいよ。ほれほれ」

 

「あたしは飲まないっていつも言ってるじゃないの」


「だーかーらー、今日は特別でしょぉ? 旦那がいるんだし。旦那が!」


「なんでそこ強調するのよ、この酔っ払いが……」


 ぐぬぬと睨むリリアネアと、負けじと睨み返すオリビア。

 二人を眺め、ガリウスは思う。

 

(仲がいいのか悪いのか。しかし、テルド女史はもっと冷たく落ち着いた雰囲気だった気がするが……)


 たまらずリリアネアに尋ねる。

 

「彼女は酒が入るといつもこうなのか?」


「そうよ。酒癖が悪いったらないわ」


「はん! お酒も飲めないお子様が何を言うのやら」


「ふん! 無駄に歳は取りたくないの。お酒に溺れるなんて――」


「行き遅れてないし! ふさわしい男がいないだけだし!」


「そういう意味じゃないってば! でもなんかゴメン!」


 涙目になるオリビアと、慌てて謝るリリアネア。

 

(仲は悪くないようだな)


 ガリウスも酒は控え、食事を進める。足元のまんまるスライムが、『ぴゅい♪』と鳴いた。




 

 ガリウスたちのテーブルは騒がしい。しかし店内が喧騒に包まれているので、彼らの騒ぎを気にする者はほとんどいなかった。

 

 唯一、妙な三人組を除いて。

 

 三人は冒険者風の出で立ちだ。テーブルにはつまみが乗った小皿がひとつ。それぞれ木のジョッキを前にしているが、ひと口も飲んでいなかった。

 

「人相や体型に間違いありませんね。聖剣も腰に差してるし、あいつが〝魔王〟ですよ、カーラ様」


 小柄で華奢な、細めの若い男がにっと笑う。腰にはナイフ。レンジャー系の探索役の彼が、街中を歩くガリウスたちを見つけ、ここまで後をつけてきた。

 剣士風の女――カーラが窘める。


「ラッチ、あまりじろじろ見るな。気づかれるぞ」


 金色の長髪をした彼女はまだ二十代前半と若い。しかし鋭い眼光に射竦められ、若い男――ラッチは気まずそうにうつむいた。

 

 もう一人、寡黙そうな大柄な中年男性が言う。

 

「カーラ様、いかがいたしますか? 一度店の外に出て、待ち伏せますか?」


 彼の足元には鎖付きの大きな鉄球が置いてある。

 

「慌てるな、ドルド。街中で事を為すには、慎重に越したことはない。話によれば、奴がこの街に滞在するのはあと二日。その間に隙を見つける」


「だったら店に入らなくてもよかったんじゃ?」とラッチ。


 ドルドが応じる。

 

「いや、動向を知るには近くで様子を窺うほうがいい。幸い、雑多に賑わうこの店では我らは目立たないからな」


「そうだな。我らの目的は確実なる――」


「あのー、お客様?」


 カーラの話を遮ったのは、尖った耳のエルフの女性店員だった。

 

「さっきからひと口も召し上がっていませんけど、苦手な物ばかりでしたか?」


「失せろ」


「ひぅ!?」


「ああ、いや……。すこし話しこんでいてね。気にしないでくれ」


「ぁ、その、失礼しました~」


 店員はパタパタと逃げていく。

 

「ふん、魔族が作った不浄の物など、誰が口にするものか」


 カーラは嫌悪を露わにする。

 

「同感です」


「いやまったく。先に飯を済ませといてよかったですよね」


 三人は、ルビアレス教国が送りこんだ魔王暗殺部隊である。冒険者になりすまし、都市国家群を飛び回るガリウスの隙を窺っていた。

 

「あいつが飲んでるのって酒ですかね? 酔っぱらってくれれば仕事も楽なのに」


「だからじろじろ見るなと言っている」


 ラッチは居たたまれなくなったのか、席を立った。

 

「ちょっと外の空気吸ってきますよ。ここは魔族臭くていけねえですんで」


「目立つ行動は慎めよ」


「わかってますよぉ」


 ラッチはへらへら笑いながら、店の外に出ていった。

 彼に注目する者はおらず、カーラが横目で確認したところ、ガリウスたちも気にかけている様子はない。

 

 のん気なものだ、とカーラは呆れた。

 自分が安全な立場だと、どうして油断できるのだろうか? しょせん人と魔は相容れない。今は協力的な都市国家群の者たちも、腹の底では恨みや憎しみ、恥辱が煮えたぎっているに違いないのだ。

 

(私は、必ず奴を倒す。肉片残らず消し去って、ティアリス様とダニオ様の仇を討つ!)


 憤怒の表情で決意した彼女の目の前に、

 

「ぴゅい♪」


「なっ!? 魔物? スライムか!」


 弾けるように後ろへ飛び、背後の客にぶつかりながらもカーラは体勢を持ち直し、腰の剣に手をかけた。

 そこへ――。

 

「失礼した。そいつは魔物だが、危険はない」


(ッ!? ガリウス!)


 いつしか彼が側に寄ってきていた。

 

「いたずらを防げなかったのは俺の責任だ。そいつは見逃してくれないか」


 無防備に頭を下げるガリウスに続き、そこらから声が上がる。

 

「そうだぞ、姉ちゃん」

「いたずら好きの珍しいスライムだ」

「ぷにぷにすると気持ちいいぞぉ」


 ピュウイは何度となくこの店を訪れていて、常連客にはマスコット扱いされているのだ。

 

「……この店は初めてでね。勝手がわからなかった。しかし、食事中のテーブルにいきなり乗るのは、いたずらの範疇ではないぞ」


 失態だ、とカーラは奥歯を噛む。


(暗殺対象と事前に会話するなど……)


 あってはならないことだ。

 これを機に仲良くなり、油断を誘う手はある。だが魔王と表面上でも慣れ合うなど我慢ならなかった。

 

 剣から手を放し、大きく息を吐きだした、そのときだ。

 信じられない言葉を、耳にした。

 

 

「食事中、か。魔族が作った不浄な物など、口にできないのだろう?」



「なに――グガッ!?」


 バチバチ、と。

 雷が体内を駆け巡った。比喩ではない。実際に小さな稲妻が彼女を襲ったのだ。

 

「カーラ様! ぐわっ!」


 駆け寄ろうとしたドルドもまた、雷に襲われた。ガリウスが腰に差す聖剣から、放たれたものだ。

 

「き、さま……、なぜ……?」


 カーラは全身が痺れて動けない中、どうにか言葉をこぼした。

 

「ルビアレス教国が俺を抹殺しようと刺客を送りこんだ、という情報を得てね」


「おのれ……。私たち、を、ずっと監視して、いたのか……」


 まさか、情報が漏れていたとは。

 敵に素性を知られていては、暗殺などできようはずがない。ところが――。

 

「いや、人相や身体的な特徴どころか、性別すらつかめていなかったよ」


 だからガリウスはあえて市井に姿を現し、自ら餌となって刺客をあぶり出そうとした。

 大部隊が展開しているとは思わない。

 人材の豊富な教国だから、少数精鋭でガリウスを狙うと考えていた。

 

「酒場に入ったのに注文した物に手を伸ばさないお前たちが、どうにも気になってね。会話を盗み聞きしていた」


「な……、だが、私たちは、お前を暗殺するとは、ひと言も……」


 会話の中には、なかったはずだ。カーラは言いかけたが、店員に邪魔されて口にはしなかった。

 

「まあ、推測の域は出ていなかったな。間違っていたら、平謝りするつもりだった」


「確証もなく、人の多い店内で、聖剣を使ったのか……? なんて、卑劣な……」


「加減はしてあるさ。暗殺を企んでいたお前らに言われたくはないな」


 ガリウスは女の髪をつかんで持ち上げる。

 

「ちなみに、もう一人のお仲間は外で捕らえてある。不届きにも店の裏で小便をしたので、少々手荒になってしまったがね。まあ、彼がいなくなったおかげで、こうしてお前たちを捕らえることができた。感謝しないとな」


 三人を一度に相手するのはさすがのガリウスも躊躇った。

 しかし一人が外へ出たので、実行に移すことができたのだ。

 

 どうやってもう一人を捕らえたと知ったのか? 店から一歩も出ていなかったのに。カーラにはわからない。

 

「では、後は頼むよ」


 ガリウスが言うと、客に紛れていた私服姿の警備兵たちが二人を後ろ手に拘束した。


「くっ、この卑怯者め! 一度も剣を交えることなく、このような……屈辱だ」


「暗殺者がよくも言ったものだな」


「正面から戦っても負けはしない! 我らには神の加護があるのだ」


 カーラを押さえていた警備兵が、あまりの気迫にのけ反った。

 他の者たちも、どこか不安そうに瞳を揺らしている。

 

(彼らも、つい最近までは唯一神信仰の信徒だったな)


 ティアリスの蛮行が知れ渡り、多くの信徒たちの心は離れていた。

 しかし長年の信仰をすぐに切り替えられるものでもない。

 

「いいだろう。正面から正々堂々、勝負してやろう。お前たちの信仰とやらを、見せてもらおうか」


 ざわざわと店内がざわめく。

 

「ちょ、ちょっとガリウス」

「調子に乗り過ぎじゃないのか?」


 リリアネアとオリビアが止めに入るも、ガリウスは手で制した。

 

「ただし聖剣は使わせてもらうぞ? 三人相手だ、それくらいはいいだろう?」


「わかった。目にもの見せてくれる」


 カーラは睨みつけながらも、内心ではほくそ笑んでいた。

 

(我らの恩恵ギフトを知らぬまま勝負を受けるとは愚かな。その鼻っ柱をへし折り、肉片残らず塵に変えてやる!)


 こうして、暗殺者たちと魔王の、正々堂々の奇妙な戦いが決まった――。


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