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(´・ω・`)最強勇者はお払い箱→魔王になったらずっと俺の無双ターン  作者: すみもりさい
第八章:(´・ω・`)魔王は神殿で無双ターン
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魔王は部下を労う


 火山島にある〝グリア〟遺跡の攻略は、一週間が経過してもまだ先が見えなかった。

 

 どの程度の広さで、最深部にある神殿がどこなのか?

 それらをつかむための調査は、十五のパーティーを組んで地図を作成しながら進めている。順調であったものの、思いのほか遺跡自体が広い。 

 

 遺跡は巨大な蟻の巣のようだった。

 巨躯のゾルトでも窮屈ではないものの、いくつもの分岐があり、進んでいくと行き止まり。 

 壁面からうっすら光がにじみ出しているので明かりの心配はなかったが、遺跡に潜む守護獣には少々手を焼いている。

 

 ペネレイは新調した鎧に身を包み、半透明のマントをひるがえしながら洞窟を進む。手には巨大な金棒。

 彼女の後ろからは、巨躯のゾルトが周囲を気にしつつ続く。こちらも半透明の布を体に巻きつけ、両手にそれぞれ戦斧を握っていた。

 

「お嬢、そろそろですぜ」


「ああ。どこから出てくるかわからないからな。左側の警戒を頼む」


 歩幅を気持ち狭くして、慎重に進んでいると。

 

 ゴッ、と音が鳴り、ペネレイの頭上から岩が降ってきた。直径で1.5メートルほどの、天井の窪みに潜んだ岩型の守護獣――ボム・ロックだ。

 

 ペネレイは前に大きく飛んで避ける。着地と同時に振り返ると、左右の壁からもゴロリと同型の守護獣が現れた。二体が彼女に目を剥き、にたりと大口を歪める。

 

「ちっ、分断されたか。仕方がない。素早く対処するぞ」


 ボム・ロックはある程度の手傷を負うと自爆する。ぴったりくっつかれていなければ致命傷にはならないが、洞窟内では破片を食らって消耗は免れなかった。


「了解しやした、お嬢」


 ゾルトが咆哮を上げた。洞窟内を揺るがすような振動に、ペネレイに向いていた二体のうち一体が、くるりと反転する。

 

「せいっ!」


 ペネレイは自身に正対する守護獣へ突き進む。金棒に魔力をこめ、渾身の力で上段から打ち付けた。

 歪な笑みが砕け散る。中心の『核』が破壊され、ボム・ロックは破片すら残らず消え去った。

 ほぼ同時に、ゾルトも戦斧で一体を倒す。

 残る一体はどちらに対応するか迷った様子だ。

 

「ゾルト、来い!」


「へい!」


 ゾルトがボム・ロックに突進した。しかし戦斧は振るわず、するりと横を通り抜け、ペネレイに合流する。彼女は踵を返し、二人してすたこらと奥へと走った――。

 

 

 しばらく進んだところで、二人は立ち止まる。

 

「やはり追ってはこないな」


持ち場(・・・)からは出てこねえってのは本当みたいですねえ」


 守護獣は出現場所から一定範囲を超えて移動しない。

 これはガリウスの推論だ。

 

 勇者時代、イビディリア遺跡に挑んだとき、そんな感想を持った。

 悪霊獣に支配されたイルア遺跡では執拗に追いかけてきたり、遺跡の外にまで飛び出してきたりしたが、ここグリアではイビディリアと同様の行動を取るらしい。

 

 ただ、彼らは消滅すると一定期間をおいての復活となる。

 不在となった場合はどこかから補充されてくるので、一日も経てば再びさっきのように現れてしまう。

 

 追ってこないのならば、極力戦闘は避けるべし。

 その指示の下、ペネレイたちの部隊はなるべく戦わないようにしていた。


「とはいえ、そろそろ次の出現場所だ。警戒態勢に入ろう」

 

 ボム・ロックは洞窟内の壁面を加工できるようで、ある程度の出現場所は記録できても上や横、あるいは下のどこから飛び出してくるかわからない。

 

 二人は慎重に進み、今度は分断されることなく彼らの隙をついて、さらに奥へと進むことができた。

 

 そうして――。

 

 

「熱い!」


 洞窟を抜けると、広大な地下空間にたどり着いた。

 壁面からの光を受け、赤いマグマがゆったりと流れている。まさに灼熱地獄の様相であった。

 

 息を吸って喉が焼けるほどではないものの、立っているだけで汗が噴き出てくる。

 水の精の羽衣(ウンディーネ・マント)を身に着けていなければ、数分の活動で体力が持っていかれるだろう。

 

 

「十二班の報告通りだな。この先に神殿がある可能性は高いが……」


 ペネレイは地下空間の奥に目を凝らすも、はっきりとはしない。

 今彼女たちが立っているちょっとした広場の先は、幅二メートルほどの道が蛇のようにうねって続いていた。左右は切りたって、下はマグマ。落ちたらひとたまりもない。


 だが臆してはいられなかった。

 今回の任務は、遺跡の最奥にある神殿の発見と、可能ならその完全攻略。


(これしきのことで、多忙なガリウス殿の手を煩わせるわけにはいかない!)


 ペネレイはしたたる汗を拭いもせず、前に足を踏み出した。

 

「私が先行して道を確認する。合図したらゾルトは周囲を警戒しつつ、後に続いてくれ」


「守護獣が出てくるとしたら、上ですかねえ?」


 天井までは二十メートルほどある。

 

「あの高さから細い道を狙って落ちてくるのは難しいだろうな。仮にそうであっても、落下までに十分戦闘態勢は整えられるよ」


 注意すべきは足元だ。バランスを崩されて道から落とされる危険がある。大柄なゾルトよりも、身軽な自分なら対処できるとの自負がペネレイにはあった。

 

 慎重に歩を進める。

 前方の道を金棒でゴンゴンと強めに叩いた。

 守護獣が壁や地面に擬態していれば発見は難しいが、衝撃を与えれば堪らず姿を現すかもしれない。出現の直前にはわずかに魔力が感じられるので、それを見逃さないよう、ペネレイは神経を研ぎ澄ませた。

 

 三十メートルほど進んで立ち止まる。

 

(ここまでは大丈夫、と思うが……)


 守護獣がゾルトだけを狙う可能性は低い。侵入者を長く見過ごして進ませるとも考えられなかった。

 

(分断を狙うとしたら、この距離が限界かもな)


 ゾルトを十メートルばかり進ませよう。それを繰り返して、徐々に奥へと近づく。

 そう決めて、振り返ろうとしたときだ。

 

「お嬢! 後ろだ!」


 反射的に振り返ると、道の左右から赤いマグマが吹き上がっていた。マグマの塊がべちゃり、べちゃりと道に落ち、それぞれ蠢いて、徐々に形を成していく。

 

 真っ赤なスライム――との印象をペネレイは抱いた。しかしマグマのようなスライム種は、彼女が知る限りは存在しない。

 

 マグマの塊は釣鐘状に形を整えた。高さはペネレイに迫る。表面は赤い粘性体が流動していて、その中心部には口らしきがにたりと穴を開けた。

 

(もしや、ボム・ロックが変質したのか?)


 それはそれで不可思議な話だが、そうと考えるに足る情報が、彼らからは読み取れた。

 

「お嬢、そいつら……」


「ああ、黒い霧(・・・)をまとっているな。悪霊化したのか……」


 赤い巨躯にはうっすらと黒い霧のようなものがまとわりついている。


「ッ!? 後ろにも来ましたぜ!」


 ペネレイは半身になり、出現済みの二体に注意を向けながら後方をちらりと見た。

 今度は飛び出したのではなく、崖を這い上って一体が行く手をふさぐ。

 

「おいおい、こっちもかよ」


 同じように、ゾルトのいる広場にも複数が這い上ってきた。

 

 ペネレイは完全に孤立してしまう。

 未知の敵が複数、しかもまだ現れる可能性は十分にあった。

 

「ここまでか……」


 ペネレイは暗く目を伏せ、小さく息を吐きだした。

 

「ゾルト、これより我らは――」


 キッと虚空を睨みつけ、

 

「出現した敵を殲滅・・し、撤収する!」


 怒声を吐き出した。

 

「承知!」


 ゾルトが戦斧を握り直す。

 

「遠慮はいらない。悪霊化した守護獣は優先的に倒すべきだ。しかし注意は怠るな。何をしてくるかわからないからな」


「へい。心得てますよ」


 にたりと笑ったゾルトに、ペネレイも不敵な笑みで応え、

 

「いくぞ!」


 眼光鋭く、背後の一体に金棒を振るった――。

 

 

 

 

 

 ガリウスは都の自宅でペネレイからの報告を受け取った。

 ピュウイを介したやり取りが始まる。


『面目次第もございません……。ご多忙のガリウス殿の手を煩わせることになってしまって……』


 壁に映し出された彼女らは、みな膝をついて首を垂れている。

 報告ののち、今後の方針をガリウスに尋ね、いたく恐縮している様子だ。


「ひとまず顔を上げてくれないか。これでは話がやりにくい」


 それだけを伝えると、ペネレイたちは申し訳なさそうに立ち上がった。

 

「まず、そう深刻にならなくていい。むしろ君たちはよくやってくれているよ。正直、この短期間で最奥に続くと思しき地点を発見したのには、驚いている」


 〝イルア〟やダニオが攻略中の〝アカディア〟は、目的の場所がわかりやすい。下りるか上ればよいからだ。〝イビディリア〟は壁の位置が変化するものの、『中心』へ向かえばよいという点でも同様だった。

 

 一方の〝グリア〟は、多くの分岐があってどこへ進めばよいかわからない。

 しかもどうやら火山島の地下全域にわたるほど広大で、多くの人員を割いてもかなりの日数がかかると考えていた。

 

「悪霊化した守護獣への対処もよい判断だったと思う。殲滅して迅速に撤収したのもそうだが、戦いながらその正体をつかんだのは大きい」


 ペネレイとゾルトは一撃でマグマ状の敵を粉砕していったが、特徴をつかむべく最後に一体だけ残していろいろ試していた。

 

 結果、ある程度削ったところで相手は自爆。

 ボム・ロックが変質したと考えて間違いないだろう。

 

『過分な評価、痛み入ります。しかし、変質はやはり悪霊化したのが原因でしょうか?』


「どうかな? 場所を考えれば、元からあそこにはボム・ロックの上位種があの姿で守っていた可能性がある。いずれにせよ問題は――」


 イルアのときのように、神殿の奥深くに強大な悪霊獣が控えている危険だ。

 

「状況から考えて、その可能性が高いな。イルアでは遺跡全体の守護獣を使役していたが、今回影響があるのはマグマ地帯から先だけのようだ。だからといって、強さがイルアに劣るとは言えないがな」


 そう伝えると、壁に映ったペネレイたちの表情が引き締まった。

 

『まずはマグマ地帯を越えましょう。道は細いですが、メンバーを厳選して少数精鋭で挑みます』


 ガリウスはふむと考える。

 悪くはない。今いるペネレイたちの部隊では最善と言えるだろう。だが――。

 

「どうせなら、より楽で安全な方法を試してみよう」


 地下の洞窟探索では除外したメンバーを、新たに派遣するとガリウスは告げた。

 

『ハーピー族、ですか。なるほど……。地下空間を飛行して!』

 

「マグマからや、念のため天井からの奇襲は警戒すべきだがね。その辺りを試してみて、大丈夫そうなら一気に地下空間を進んでいけるはずだ」


 映像のペネレイたちがわっと歓声を上げる。

 

 そうして、話し合いののちにハーピー部隊が編成され、グリア遺跡へと向かうのだった――。

 


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