表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

異世界転移の物語

シュウ・ラングランと云ふ男

作者: 魔弾の射手

 前前作であるDer Freischützに登場したいらん子ことシュウ・ラングランさんのバックボーンです。そして意外なところにつながっています。他のと併せて読んでいただければ嬉しいです。

 結局のところ、何が何で何がどうつながってどう終わるのかが分からないシリーズものですが、大丈夫です。終わりは決めてますので。いつになったら終わるか分からないのがネックなんですがねww



 思えば、私の人生というのはおおよそ普通の人間が辿るような平穏で、安穏とした物ではありませんでした。


 幼少期には家族と共に生活していましたが、それもおぼろげにしか思い出せず、いつの間にか私はとある施設にいました。

 首には逃走防止用の首輪がかけられ手首には番号が印字されて、私が何処かのなにがしかの者に誘拐され、数十人規模の同年代の少年少女と共に監禁されているのを理解しました。


 ある時に仕立ての良さそうなスーツを着た男がやって来て言いました。


『君たちにはこれから殺し合いをしてもらう。二人一組になって片方を殺した者から順にこの部屋から出られる。生きたければ殺せ』


 男の後ろから作業着を着た男が数名、木箱を持って来たかと思うとそれを我々の目の前の床にたたきつけて割りました。

 ガシャガシャというプラスチックや金属が床を跳ねる音によって、それが紛れもなく武器なのだと言うことを私は理解しました。そしてそれと同時、私は相方をいち早くに探しました。生き残るためにも如何にも貧弱そうな人間を選ぶのは、このような状況で生き残る上では必要なことです。


『相方が決まったなら、早い者勝ちで武器を取り、殺せ。それ以外に君たちに生き残る術は無い』


 言うが早いか、周囲の子供たちは言われたとおりに相方を見つけ出し、私もまた、とても戦えるような状態ではない少女を相方に選びました。

 ガリガリにやせ細った体で、よもや生き残れるなどとは思いません。今だって意識を繋いでいるのが精一杯という体です。ならば私が生き残るためにも、彼女を踏み台にする以外に無い、私は冷静にそう判じました。

 子供たちが駆け寄るよりも早くに、私は木箱のあった場所に駆けより、そして一つの拳銃を手にとって、その重さに戦慄するよりも先に少女を撃ち殺しました。

 痺れるなどという表現では足りない激痛が指の先から肘の軟骨を、肩や肩甲骨にまで響き渡り、やはりテレビの様にはいかないのだと理解しました。だってほら、テレビの向こうの俳優さんがああいう打ち方しているのに腕を痛めている様子ないじゃないですか。


 それからしばらく、呆然とその場に佇むうち、先程の男が私の前にやって来て合格だと言いました。私は先程撃ち殺した少女を見ましたが、とても今しがた殺されたとは思えない安らかな顔で死んでいるのが、今もなお鮮明に記憶しています。

 何に合格したのかはわかりませんでしたが、これで家に帰れるのだと、幼心にそう思っていました。ですが、今の捻くれている私だからこそ気が付けましたが――いえ、聡い方なら誰でもわかりますが――男は一言も家に帰すなどとは言っていなかったのです。

 それから我々はまた地獄を経験しました。


 ナイフを一本、訓練用のラバー素材のものを渡され、けれど当たれば痛いのだろうと言うのは簡単に予想が付きました。

 広い訓練場の様な所に一人一人通され、毎日そこで訓練を受けさせられました。異国の背の高い男が、我々が持っているのと同じラバーの訓練用ナイフを持って待ち構え、その男からナイフの使い方を学びました――言葉と身体、両方でね。

 唯一救いだったのは、監禁されている部屋では一食も貰えず、用をたすにもバケツにそのままぶち込まなければいけない環境から、一日二食食事を与えられ、相も変わらず子供で溢れている部屋に水洗便所が付いていたことでしょうか。少なくとも以前よりは衛生環境だけは良くなりました。


 そうしてまたしばらくすると、我々は本物の軍用ナイフを渡され一人一人別の訓練場に通されました。そこには我々と同年代程度の少年が一人、私が持っているのと同じ軍用ナイフを持って佇んでいました。

 室内に設けられていたらしいスピーカーから初めて殺しを経験した日に聞いた男の声が響きました。


『君たちの目の前にいるのは君たちの先輩だ。今から君たちには彼らと殺し合って貰う。制限時間は5分だ。健闘を祈る』


 男の声が切れるのと同時、少年は私に突っ込んできました。ナイフの刃が寸でで避けた私の髪を何本か持っていき、頬に傷を残しました。

 それからの少年の動きは速かったです。動作を途中で止めることなく鮮やかな動きでナイフを脇の下に持っていき、右半身が前に出るのに従い無様に避けた私の腹に彼の膝が喰いこみました。

 胃の内容物が出てきそうでしたが、それより早くに私の身体は反応してナイフをナイフで受け止め、お返しとばかりに彼の頭に回し蹴りを放ち、そのまま横に回りそうなのに従って一回転、勢いのついたナイフが彼の首に一筋の傷を作りました。

 深々と刺さりながらも勢いのついたナイフは止まらず、私を追うように動いていた彼の腕にまで刺さり、その腕にもまた歪な一筋の傷を作りました。

 銃などでは感じられない、自身の手で人を殺した感覚。血の匂いと骨髄より滴り落ちるあぶらか脳汁か、不快なツンとする匂いが目の前から、そして私の身体を真っ赤に染め上げより一層その匂いを強くしました。

 それまで私達は生きるために、何の意味があるのか分からないままナイフの使い方を習っていました。けれどこれでまさか本当に人を殺すなど、夢にも思わなかったのです。


 それから数年の間、男女別に分けられた私達はあらゆる拷問に耐えるための訓練を、自白剤を打たれても意識を繋ぐ方法を、暗器の扱い方から始まった暗殺術に始まりあらゆる技能を仕込まれました。

 女性の方は、大人たちの話を聞く限りでは半分は駄目になってしまうことを前提で集めたらしいですが、その末路は悲惨でした。

 当時少女だった彼女らに、性的拷問に耐える訓練という名の元に、CIAの実働部隊の人たちの慰安のための道具とされていたのです。

 薄い壁越しに聞こえる、破瓜はかの痛みに泣く少女の声。やがて段々と泣き声は弱まり、いつの日か生々しい喘ぎ声が薄い壁を隔てた向こう側から聞こえてくるようになりました。自身の身体を物の様に扱われる、それがどのような精神的苦痛を伴うのか、男の私には幸か不幸か何一つ分かりませんでした。分からなくて正解でした。

 年頃も年頃の彼らは、毎日同じ時間に行われる集団強姦レイプのお零れに与ろうと、壁に耳を張り付けその喘ぎ声を聞いて、時折聞こえる悲鳴を耳にして己の欲望を満たしていました。

 私は部屋の中では一番の実力のため、壁の向こうで何が行われているか、どのような惨劇が繰り広げられているのかをある時あの男に見せつけられました。


『これを見てどう思う、シュウくん』

『――彼女たちは、失敗作なのですね?』

『……流石だ。男子部屋一の秀才なだけはある。そうその通り。彼女たちは性的拷問に耐える訓練に合格できなかったたちだ。それでもああいう用途にだけは使えるのでな、有効活用させてもらっている』

『――0823……アイナはどうなりましたか』

『そう言えば君はあのアイナとか言うCIA候補と――彼女なら部屋の隅、後背位で盛っているよ』


 男女別に分かれる前、分かれた後、時々時間があるとアイナは私の元にやって来て故郷の話を、家族の話をしていました。ドイツ系にしては日本人よりの顔立ちで、聞けば三代以上前の何処かで日本人の血が入っているそうで、気軽に日本語で話せる数少ない存在でした。

 自白剤や麻薬などの投与によって日に日に過去の記憶を忘れていく我々は、いえ、私とアイナはせめてもの抵抗として、お互いの思い出せるだけの過去を話して聞かせて、何処かに私達が生きていたと言う証拠を残そうとしていました。まぁ、無駄な努力だったようですが。

 その日もお互いの身の上話を聞かせ合い部屋に戻ろうかという時、アイナは私の襤褸の端を掴み言いました。会えなくなるかもしれないと、会えたとしてもその時には理性の崩壊した動物になっているかもしれないと、泣きながら私に言ったのです。

 私と同じくらいの背丈の、それでいて小さなその背を抱き何を言ってやるべきか、その涙の行方は私にはわかりませんでした。

 ただ、私の横に並んだ男にも赤い血は通っていたようで、冷血なのかと思えば中途半端に情を持ち合わせ、情にほだされるかと言えばどちらかと言えば冷徹で、男がなんなのか私にはわかりませんでした。


『……今日の夜、時間を作ろう。彼女に搾り出して貰うも良し、傷を舐めるも良し、ないしは二人専用の部屋に軟禁するも良し。日本語では何と言ったか、そうそう、善哉ぜんざいだ。所望すれば本当に彼女だけを君の傍においてやることも可能だ』

『――ありがとうございます』

『明日の明け方、答えを聞く。それまで悔いのないようにするのだな』




 約束通りに、夜半を過ぎて男子部屋が寝息に包まれた頃、男は私を連れ出すと一つの部屋に通しました。そこには足に鎖付きの枷を掛けられたアイナが、そこいらで売ってそうなソファの上に座って待っていました。


『後はお前らの好きなようにしろ。望むならこの部屋もくれてやる。それが上の命令でもあるし、俺の善意だ』


 男が扉を閉めて外からかぎを閉めた音も聞こえず、私はアイナの元に歩を進めました。まだ理性は生きているはずと、淡い期待を込めて。


『アイナ、久しぶりですね。覚えてますか、シュウですよ』


 あの部屋を外から見た時点で予想は出来ていました。いえ、これも本当に小さく薄っぺらくなった自尊心とプライドと、そして過去を壊されたくないがために言っただけの、本当は無意味な言葉だと分かっていました。

 言葉が通じる補償など万に一つもありません。性的拷問、となれば子供が予想できる以上に多くの薬品が使われていることでしょう。その総数は計りしれませんでしたが、少なくとも彼女を理性や倫理観といった檻から解き放ち、性処理のための道具とするには十分な量が用いられたことでしょう。それがあの部屋の真実だと、何となしに理解していました。


『ア……し――シュ……う?』

『ええ、そうですよ。シュウ・××ですよ』

『シュう……しゅウ!』


 拙くおぼろげになった言葉で思い出すように私の名前を呼ばれ、いつの間にか彼女を胸に掻き抱いていました。

 薬漬けにされてもなお食事は与えられていたのか女性らしい丸みを帯びた肩を、引き締まっている腰に腕を回して離さないように抱きしめて、そうしているうちにやがて彼女の方から口付けをしてきました。

 不浄に塗れてしまった身体を、消えることの無い男の欲望の味を覚えさせられた口腔のそれを揉み消すかのような激しい口付けに、私はこの命を何処に運んで行くべきなのかを、理解したような気がしました。


 やることも済んで、夜も白み始める時間にあの男はやってきました。そして迫られた選択は、少なくとも私にとっては最善であったと思います。

 夜な夜な男だけの部屋を抜けだし、彼女が一日を一人で過ごすあの部屋での逢瀬。分かっていました、彼女が私に依存していることは。そして私も彼女と言う存在に依存していたことを、誰に言われずとも分かっていました。


 やがて十年が経とうと言う頃、男子部屋の子供も女子部屋の失敗作と呼ばれた少女たちも数を減らし、残ったのは私とアイナ、そして幾名かの成績優秀者たちでした。

 実戦に使えると判断された者達から順にCIAに配属されて任務に駆り出され、アメリカという国に有益な情報を拾ってくる使い捨ての目と耳になったのです。私もその一人でした。

 彼らは皆自分の母国に送られ政府中枢に潜り込んだり、中にはテロリストの一派や左翼団体に潜入するなど、目覚ましい活躍を見せました。それ以外に我々には生きる道は無かったから、我々は売国奴と言われようともアメリカに情報を二束三文で売り渡していたのです。


 決定的なことが起こったのが2033年、立憲労働党内閣の実質的指導者である皇飛鳥が日本国と言う国号を大日本第二帝国と改称し、破竹の勢いで経済を立て直しながら距離も方位もバラバラな各国と次々に同盟を結んで行ったことです。その勢いは異常の一言に尽き、私は即座に大日本第二帝国の中枢に潜り込みました。

 その後は経済の復興と精強な軍事力を手に入れた日本にアメリカも重い腰を上げざるを得なくなり、そして世界恐慌からまた十数年ぶりの戦争が起こりました。

 戦争の序盤から中盤は日本軍が優勢を誇りましたが、結局敗退し、二度目の占領政策と米国化の波によって日本はまた第二次世界恐慌前の世界に戻る物と思われましたが、私でも予想できないことでしたが、アプサラスによる連合国同士での焦土化作戦が始まりました。これによってCIA内部はゴタつき、そう大した時間はかからずに崩壊しました。文字通り、跡形も無く消し飛んだのです。そこに幽閉される形だったアイナを道連れに。


 濃いエーテルが渦巻く爆心地で、私はそれまでの生涯で初めて涙を流しました。本当はもっと早く、内部から瓦解させて自由を得た後に、彼女を連れて何処か他国に移り住む予定でした。それがこんな形で、アイナの命を道連れに消えてしまったことに酷い喪失感を覚え、いっその事この爆心地のエーテルを吸いこんで死のうとまで決意しました。


 結果的にそんなことは出来ず、私が元から持っている重力の魔法のおかげで私を取り巻くエーテルは常に消費されていたからです。それに絶望すると同時に、私にはまだやり残したことがあると信じ、他国や本国に生き残っているCIAの諜報員を一か所に集めて日本に亡命することを決意しました。

 そうしてアプサラスの脅威が我々を襲う前に、我々は数百人単位で結託して日本に亡命しました。その当時で30歳ほどでしょうか、我々は売国奴などと揶揄されながらアメリカの植民地の統治機構が崩壊したことで元の姿を取り戻しつつある日本に住みつきました。

 それからまた十年ほど、我々は息を潜めながらも生き抜き、私は独自に当時のCIAの情報や日本で集めた情報を照らし合わせながら一つの結論に行き着きました。

 エーテルは人為的に生まれた副産物であると言うこと、そしてそれと相反する性質を持つエーテルが存在することを。

 エルドリッジカンパニー社長、アルバート・アルドリッジとその周辺の人間の突然の失踪、それに続くエーテルブラスト。同時期に起こった当時日本国に存在した神成市の連続大量失踪事件と神成市の突然の消滅。エーテルブラストと同時に検出されているマイナス値を示すエーテルの反応、世の中に通常のエーテルを持つ人間がいる中、マイナス値を示すエーテルを持たない人間がいないはずがない。こと、全ての物ごとの特異点である日本になら。

 そう思って死に物狂いで探しました。今の風潮を止めるためではなく、私の自殺を果たす為に。いや、確かにそういう所もあったのでしょうが、そんな思想など全体の何パーセントにも匹敵しないでしょう。

 やがて当時のCIAの情報から特異な映像を見つけました。

 神成市の上空で戦いあう短髪の黒い髪の少女と、長い金髪にナチスドイツの野戦服を着た男が。

 間違いなく金髪の男が使う力がエーテルという存在そのものでした。そして反対に、膨大に消滅し続ける・・・・・・エネルギーを示すマイナス方向のエネルギー。

 矛盾していますが、そうとしか形容の出来ないエネルギー総量でした。

 まるで暗黒を桶ですくい水で薄めたかのように暗いエネルギーはエーテルを飲み込み、その力を増していき、最後は両者とも共倒れになって中空に消えていきました。

 暗黒物質のような暗いエネルギーは反物質の塊だったのか、それとも増幅装置であった少女がいなくなったからか、そのエネルギー反応はだんだんと弱くなり、もともと街のあったであろう赤く焼け爛れた街の残滓、その下の土に浸透していきました。


 まさにこの力です。これこそアンチエーテル。神成市があった場所、現在の常夜とこよ町を探せばすぐにわかりました。

 夕凪ゆうなぎ しき。アンチエーテルを持つがゆえに、幼いころより虐待にあってきた、ある意味ではかわいそうな女性。彼女を利用できさえすれば、あるいは――。

 魔法に対するアンチテーゼか、あらゆる銃を作り出す反魔法を使う、何者にも犯されないはずの彼女。その傷をえぐってでも首輪から解き放ち、そして我々全員あて馬となる。最悪、彼女一人生き残れば、それでこちらの計画そのものは成就される。きっといつか、彼らは彼らが知らないうちに彼らの身を滅ぼすであろうことを、私はなんとなしに理解していたからだ。


 見つけたのと同時、一人が言いました。このままでいいのかと。

 日本に来るまではなぁなぁで生きていたが、それでも一昔前の日本より今の日本が住みにくい場所であることは確かだ。あわよくばお前も自殺できるし、もしかすれば日本を変えられるかもしれない。やってみる価値はある。

 その言葉に、私は筋骨隆々な彼の胸板に額を押しつけました。

 別にいつ失おうと怖くないこの命にまた別の目標(生命)を吹き込んでくれたようで、彼女を失って以降胸に巣食っていた傷がほんの少し埋まったような気がして、男同士で抱き合っているという、気色悪い事実にすらふたをして、私は泣いた。


 そして計画は実行された。彼女を拉致するにしろしないにしろ、彼女がいなければ話は進まない。彼女を確保すること、それを第一の条件に捜索を兼用した虐殺が始まった。

 逃げ惑う生徒たちを後ろから撃ち殺し、日本に来て初めて学んだ魔法を以て殺す。所詮兵士ですらない少年たちが、碌な抵抗もできないまま死んで行くのを看過しながら、それでも探し続けて、やがて支給された物以外の銃声が聞こえた。

 第二次世界大戦時のドイツ第三帝国の象徴のごとき銃、ルガーP08とマウザーC96の音が、しばらくすればM870の銃声まで聞こえてきた。

 百年以上昔の、骨董品も同然な銃がいまだに稼働し続けていることは考えられにくかった。日本は今や魔法全盛。アプサラス全盛時のアメリカのように、わざわざ弾薬に貴重な資源を回すとも考えづらかった。となれば、これを出している存在は一人しかいない。

 校庭に辿り着くまでの道中には多くの仲間が横たわり、そこには頭を撃ち抜かれ、快活で、なおかつ私を焚きつけてくれた彼が居て、私は彼に六文銭代わりに五円玉を六枚握らせた。


 Kar98の銃声をバックコーラスに校庭までたどり着けば、やはりというか何というか、彼女は多くの生徒たちに囲まれそこにいた。

 何処までも無表情で、プロファイリング通りと言えて、けれども一抹の不気味さは否めない。本人を目の前にすれば、それはどんどん高まっていく。彼女はまるでどこか浮世めいた雰囲気を持っていて、彼女の周囲だけが隔離されているのではと思うほどの異質な空気は、なるほど彼女こそアンチエーテルの所持者だと理解させられました。


 自殺を目的とした彼女への勧誘。すでに多くの同志たちが息絶え、すでに最後の未練から解き放たれた。後は、彼女のもとへ還るだけだった。そういう意味で、すでに覚悟は決まっていた。

 彼女がそういうことに興味がないことも、そもそも生きる理由さえないということも理解していた。どうやら、それを与える存在には出会えたようですが。

 それなら、もうこんな建前必要ないでしょう。後は撃たれて、死ぬのみ。それですべてが終わるのですから。




 やがて目的を達成し、彼女の放った弾丸に倒れると、私は何もない空間を彷徨っていました。

 暗い、何処までも暗黒が続く空間。なるほど、所詮死後の世界など宗教に過ぎなかったと自嘲すると、波に任せるように揺られました。

 何秒、もしくは何分、もしかしたら何十年と漂ううち、やがて声が聞こえてきました。それはいつかの彼女のように儚く、けれどもすぐにでも消え入ってしまいそうな、そんな声だから反応してしまったのでしょうか……。


『誰か――私を――助けて――』


 良いでしょう、助けてあげましょうとも。


 私の意識が誰かも知れない少女の身体の中に溶け込み、浸透して一体化すると、私は私ではなく・・・・・・・私は私に・・・・なっていました・・・・・・・

 最初は戸惑いましたが、彼女アイナの苦痛を追体験していると思えば痛いなんて感じられず、やがてその時が来ました。あの時の彼女と同じ力・・・・・・を得て、私と全く・・・・同じ力・・・を再現するという馬鹿な試みが。


 してやったりと思う間もなく、私は自身が生み出した暗黒の地平に落ち、彼女との契約を果たすことに成功しました。


 解離性同一性障害と嘘をつくのには少々ばかり心を痛めましたが、世間知らずな彼女との代わりばんこな人生は中々に愉快で、やがて彼女(黒崎真白)と出会いました。アイナと何処となく似た雰囲気を持ちつつも、けれど決定的に壊れてはいない存在と。


 幾度の戦乱、幾度の革命を経て、その時我々はようやっと知りました。そうか、そうだったのか、と――――




 ――その時が来て、ようやっと悟りました。




 長い旅路にゆかんとする宇宙船を見やりながら、誰からともなく悟り、冬月楓の掌にある錠剤を見つめる。




 ――私たちは




 随伴する宇宙用戦闘艦艇たちは移民船の船頭をするかのように隊列を組み、輪廻の輪から外れた私たちを置き去りにどこまでも行く。あらかじめ決められていたとでも言うように。

 アインスは敬礼を、冬月楓は軍帽を胸に、黒崎真白とシュマイザーは苦虫をかみつぶしたかのように、赤城姉妹は背後から祝砲をあげて、私もそのどれにならうべきか逡巡し、やがて空を覆い尽くす船に向かって手を振りました。これが最後だと、心のどこかで理解しながら。




 ――私たちだけは、死ぬことは許されないのだと




 私たちの、“死”を求める人生が、今始まった。







『異世界転移の物語』最終章エピソード0 ~Also Splach Zarathustra ツァラトゥストラは斯く語りき~








 ぶっちゃけ空想科学戦艦伊吹の幕間がうまく書けないんで現実逃避かねて前から書こう書こうと思っていたこれを一日で書きあげるという暴挙に及びました。おかげで自分でも何書いているのやら訳ワカメですww

 このシュウ・ラングランも、結局は人間ではない存在になってしまったみたいですね。自分が考える異能力というのは、人間離れした能力を手に入れたんだから、死という概念が遠のいても別段困ることないよね?って感じです。それの権化です。そして最終作には姿だけ登場といういやらしい終わり方です。

 何というか、愛着がわいちゃって殺すに殺せないんですよね。ですので後付け臭いと言われても前々から考えていた路線を踏襲してこういう終わり方になりました。

 ですが一つだけ誤解のないように言っておきますが、転移後の世界はあくまでもハイファンタジーですので、結局ローファンタジー系の異世界かよという突っ込みは無しの方向でお願いします。

 これからも魔弾の射手をよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ