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ソードランス・ディアボロス―蒼の叛旗―  作者: 豆腐(税込108円)
第1章:絶望からの旅立ち(過去編その1)
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【第7話:手段-ぶき-】

「で……作戦というのがこれか」

「そうよ。武器を作らなきゃ。相手は人間とは言えど強靭な肉体と堅牢な鎧を持つ騎士よ?」


 木屑、ボロ布、壊れた家具。生い茂る草木。腐った作物や肉が使い物にならない廃材に混ざっており、独特な異臭を漂わせていた。

視界いっぱいにゴミの山。

 足場自体がゴミで形成されている。

 そこに浮浪者たちがゴミの山に潜む「金になるゴミ」を探して群がっていた。


「ゴミの山から武器を作るって言ってもな」


 ここはグルガルンの郊外にある巨大なゴミ山だ。都市部で出たゴミは川に投げ捨てられたり、わざわざ捨てに来る者たちがいたりで、ここに流れ着く。その殆どが使い物にならないものだが、ごくまれに金になるものが拾えるらしい。

 アリサもグルガルンに来てからはずっとここでゴミを拾い続け、金になるものを探し続けていた。腐敗臭なんて慣れたらどうってことないし、ここをうろつく浮浪者は皆ゴミ山に視線がいってるため、比較的安全であると判断した結果のようだが……そこまで飢えに苦しんだことのないファイナにとっては異様な光景でしかなかった。


「アリサは体を売って生計を立てていたわけだろ?」

「うん、そうよ」

「それで食っていけなかったのか?」

「私は奴隷。奴隷に渡す金なんてないし、一日一個パンがもらえる日があればラッキーだって感じかな。それに―――」


 ふと瞳から一筋の涙が流れたのに気がつき、アリサはそれを拭って続けた。


「パン一つじゃ、あの子は育てられなかったし」

「そうか……」


 アリサは悲しみに暮れる暇があればとテキパキとゴミの山を漁り、使えそうな廃材やらを持ち出していく。さすがに金にはならなさそうだが、武器にはなりそうなものだと彼女は語っていたが、ファイナには何が何やら分かず呆然とするほかなかった。

 容赦なく照りつける日射しのなか、二人は黙々とゴミ山を漁っていった。使えそうなものをアリサに見せては「これはちょっと違う」と突き返されたり、「これは使えないけど売れる」と換金所まで走らされたりと忙しかったが、これも自分の目的のためだと思えば苦ではなかった。


 日も沈みかけた頃、ようやくアリサは作業を切り上げて、ゴミ山から拾った廃材やらを住処にしている路地裏へと持って帰って広げた。ファイナとアリサは売れるゴミで何とか買うことのできた一個のパンを分け合って食べながら、それら廃材と睨み合っていた。


「できるだけ長さがあって、細いほうがいいわね……」


 アリサは細いながらも真っ直ぐ伸びた木材を手に取って、その先端に鋭い鉄片を突き刺して即席の槍を何本も作り出した。


「なるほど槍か! だが、それでは奴の頑丈な鎧を貫けんではないか?」

「そうね。できればガルドムが鎧を脱いだ時を狙いたいものだけど、奴は女と交わう時も鎧は脱がないほど用心深い性格らしくね。城の中で寝泊りしているから寝込みも襲えないし、どうしても鎧を着た奴と対峙しなければならない……だからこそ」


 長さのバラバラな5本の槍を作って地面に置くと、アリサはボロ布で作った袋の中から毒々しい赤色の木の実を取り出して、ファイナに見せた。


「鎧の隙間からでしか、奴にダメージは与えられない。そこで毒よ」

「毒……たしか聞いたことあるぞ。エリーザ姉ちゃんはこの木の実を見ても決して食べちゃいけないと言っていた」

「そう。これは「カブトトリの実」といって、即効性の猛毒を持つ木の実よ。これを槍の先端に塗りこんで鎧の隙間から突き刺してやれば、数十秒も経たないうちに奴は毒死するはず!」


 アリサは手際よく木の実を剥くと、毒が自分の手に付かないように石同士で慎重にすり潰していった。すり潰した実の汁の部分だけを抽出し―――と、先端にある鉄片を毒槍に加工していく。ファイナは目の当たりにしたことがないほど高度な技術を見ているようで、終始圧倒されていた。


「凄いな……」

「5歳になるまで使われていない古い書斎に閉じ込められて育っていたんだけど、暇だから書斎の本を読みあさっていたの。帝国直属の武器職人の家に書斎だったから、殆どが武器や防具に関するものだったけどね。そこで知識だけは仕入れていた」

「じゃあそれを職業にすれば良かったんじゃないか?」

「無駄よ。帝国じゃ、赤い目と銀色の髪のせいで忌み子としてしか見られないし、どこも雇ってはくれない。かといってこの街に武器を必要とする者はいないからね。騎士たちも帝国から支給される武器や防具で間に合っているわけだし。こんな知識、今この瞬間になるまで無駄だったわ。腐った鶏肉と交換してやりたいぐらいだったのよ」

「そうか、じゃあこれから活かしていけばいいな」


 日が暮れ、焚き火をして二人は暖を取る。ファイナは燃え盛る火の中に右手を突っ込んで、その向こうにいるアリサの肩に置いた。


「今こうして、貴様の知識が活きているんだ。たとえ貴様が忌み子でも活かせる場所はあるはずだ」

「その場所に、ファイナが連れて行ってくれるの?」

「ああ、約束する」


 アリサは絶望の中でも強く生きるファイナについて行けば、何かが見つかるかもしれないと確信していた。この少女の道を阻む者がいれば、自分はどうやって手助けができるだろう。彼女のために武器を作り、戦略を立てるか。まだ見通しは立っていない。だが間違いなく、アリサにとってファイナは今まで出会ってきた誰よりも強く誇り高い存在であった。


「……にしても、大丈夫?」


 焚き火の炎が容赦なくファイナの右腕を焼いており、心配になってアリサは言った。


「これか。どうやら私はサラマンダーという種族らしくな。何でも炎を司る竜人らしい」

「そういえば角以外に尻尾も生えているね、ファイナって」

「魔族が人間の支配を受けるようになるまでは、翼もあったらしい。その翼を羽ばたかせて天高く飛翔し、竜にすら姿を変えることができたという言い伝えだ」

「ドラゴンか……」

「まぁ今となってはトロールやオークの次にタフな体を持ち、炎にはめっぽう強いだけの魔族でしかないんだがな」

「でもいつか、翼を取り戻して竜になれるかも」

「そんな力があれば、是が非でも手に入れてやるさ。どちらにせよ、もっと力を手にしなければならん。もう誰にも奪われないための力を、な」


 ファイナは炎の中で右拳を握り締めた。6歳の瞳には大きすぎるほどの野望が詰まっているように、アリサには見えた。それを手にする日は来るのだろうか。

見届けるまで死ねない、そうアリサは思った。


「準備はできたか」

「ええ。毒槍は全部で5本。1本でも突き刺されば殺せるわ」

「わかった。じゃあそろそろ行こうか」


 ファイナはアリサとともに立ち上がると、足で砂をかけて焚き火を消した。

 復讐は何も生まない。しかし心の奥底で燃え盛る憎悪は消える。ファイナが槍を手にする理由はそれだけで十分であった。

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