いざ、シノツク戦線
「こちらヴァルキリー。敵交戦予測時刻は?」
「こちら司令部。偵察部隊によるとあと500mほどで交戦だそうだ。油断するなよ。」
「了解。このまま直進する。」
「健闘を祈る。」
前回とさほど変わらない状況で前進し続ける。変わったところといえば、後方に衛生兵の小豆ちゃんが待機していることと、使用する電波を変えながら交信しているために今回は妨害電波の心配がないことだ。
電波の心配をしなくていいというのは、精神衛生上とてもいいことだなあと思いながら前進していると、敵影が見えた。前進を止め。報告する。
「我、敵影を発見す。」
「了解。敵軍に発見されぬよう、後方から回り込んで交戦されたし。」
「了解。」
命令だから。そう心を押し殺す。私は軍人だ。軍人は命令に従わなくてはいけない。
だから…。戦わなくてはいけないのだ。たとえ、私がどう思おうとも…。
敵影前で大きく旋回し後ろに回る。
「後方を取った。これより、殲滅する。」
左手の機関銃を構え、乱射する。点よりも線。線よりも面。面よりも空間。私が発射した弾丸は濃密な弾幕となって敵陣に降り注ぐ。いわゆる奇襲だ。後ろをとって面制圧する。文字に起こすととても簡単に見えるが、これが中々難しい。奇襲をするためには敵の後ろを取らなければいけないのだが、敵さんも簡単に後ろを取らせてくれるわけじゃない。その点機関銃はいい。一瞬で制圧するのに適した武装だ。
「トラトラトラ、我奇襲に成功す。」
「了解。そのまま殲滅されたし。」
「了解。」
銃身加熱する前に撃ちつくした機関銃をパージし、マジックハンドを装着する。奇襲後の接近戦においてはこれが一番適している。しかも安心と信頼の国産だ。
敵兵の腹をつかみそのまま握りつぶす。流石の国産だ。馬力が違いますよ。
マジックハンドがうなりをあげ、まるでスクラップ工場のマシンが車をぺしゃんこにしていくかのように敵兵をジャンクにしていく。
「まったく、自国民を肥料として荒野にばら撒くなんて、連合側にはずいぶんとたくさん人員がいるもんだなあ。」
皮肉交じりにそう呟く。まったく、未来の若い人材をこんなところで無駄遣いできる人員の豊富さには羨みを覚えるね。うちじゃあ私みたいな少女が戦っているというのに。
敵兵が破れかぶれに銃を乱射する。それを防御壁ではじきながら、アームでつかみ、ドリルで黙らせる。実に効率的だ。
戦争なんて勝手に大人だけでやっていればいいのに。大人の都合に子供を巻き込まないでいただきたい。
私みたいな子供らしくない子供ならいざ知らず。私の軍学校の同期はみな子供らしい子供であった。まったく困ったものだ。
そんなことを考えているうちに、敵部隊は壊滅した。『J.S』というものはやっぱり戦場を変えてしまったらしい。私のような子供でさえ、一つの部隊を蹂躙することが出来るようになったのだから。
後に残ったものは、血と、肉片と、ばら撒かれた銃弾だけだった。
不思議と、心に来るものがなかった。もう慣れてしまったのだろうか。慣れたくないといったばかりなのに…。人の順応能力は恐ろしいものだ。もう、同族殺しという点で、人間ではなく獣になってしまったのかもしれないが。