人間失格
「はあ…。やってしまった…。」
悪いのは自分なのに、つい司令官にあたってしまった。
自己嫌悪に陥る。
ふと目を閉じて、自分のこれまでとこれからについて考える。
その瞬間頭によぎる不安、絶望。思わず声を上げる。
「ああ、あああああ。」
目をつぶるだけで頭の中にフラッシュバックしてくる。あの赤い光景。そこら中に散らばった敵兵だったモノ。私が殺した、私が奪った命。
「うわ、うわあああ。」
残された家族や恋人はどうする?私が偶然そのときその場所にいなかったら生きられていた命。そんな罪のない命を、私は奪った。私が奪った。
「あぁぁああああああああぁああああぁぁぁあああ!」
もうだめだ。もう耐えられない。私はとてもとても罪深くなった。いや、今まで意識していなかっただけで、私はとても罪深かったのかもしれない。私は今まで、直接的でないにしろ牛や豚や鶏の命を奪ってきた。これは罪だろう。何もしていない。何の罪もない動物の命を奪い。喰らってきた。人は生きるためだというが、そもそも生きなくてもよいのではないか。私が生きるために、他の生き物を殺してもいい理由はあるのだろうか。
私は、罪人だ。誰も私の咎を赦すことは出来ない。それほどまでに大きな罪を、一人で背負うには大きすぎる罪を、私は背負った。
いつかはこの気持ちを忘れてしまうのだろうか。軍のイヌとして敵兵を殺し続けていたら、いずれは消えてしまう感情なのだろうか。私はこの気持ちを忘れたくはない。何十、何百と殺すことがあったとしても、この気持ちを持ち続けていたい。この気持ちを持ち続けているうちは、私は人間でいられるから。
「おーい!わかばー!」
私を呼ぶ声が聞こえて、振り返ってみると、そこには司令官がいた。
「人事異動があって、この隊に、新しい人が来るんだってさ。」
司令室からここまで走ってきたのだろう。肩で息をしながらそう話す司令官。
「それで、どんな人なんです?」
どうせ男の人だろう。うちにはこの突撃タイプの『J.S』のほかには『J.S』はないし。
「それがな・・・。女の子なんだよ。しかもわかばと同じくらいの。」
一瞬何を言っているのかわからなかった。それくらいに唐突の知らせだったのだ。
「え?けどうちには私が使っている突撃タイプの『J.S』しかないじゃないですか。」
「だから『J.S』ごと異動して来るんだよ!しかも最新型だぞ。最新型!」
「へぇ~。なんて子ですか?」
「蓮頭小豆って子だ。役職は衛生兵らしい。」
「らしいって…。」
「しかたないだろ、俺も、さっき書類で見たばっかりなんだから。それより1週間後に来るらしいから、心の準備くらいはしておけ。」
そのあと何個か司令官に質問をしてわかったことは、私より2歳年上だということと衛生兵としての成績は優秀だということくらいだった。
新しい人が増えるのはよいことだ。特に衛生兵は今不足しているからとても嬉しい。
1週間後を楽しみにしておこう。