傷心
「この前の戦跡を見た上が今度白色突撃章をくれるそうだよ。」
「・・・。」
「それと階級がひとつ上がるそうだ。よかったな。」
「・・・。」
この前の戦闘から、ずっとこの調子である。
確かにこのくらいの年齢の女の子に、あれは辛いか・・・。
「休暇、申請するか?」
「いえ・・・結構です・・・。」
どうしよう・・・俺は傷ついた部下の心ひとつ癒せない上司なのか・・・。
「確かに最初は傷ついてどうにもならないようなことになるかもしれない。俺もそうだった。だが、いずれ慣れるさ。軍人なんて・・・そんなもんさ・・・。」
そう俺が言い終えると、わかばはこちらをキッとにらみつけてこういった。
「人を殺すことに抵抗がなくなることを軍人になるというのなら、私は軍人にならなくていいです!」
そういって執務室を出て行ってしまった。
やってしまった・・・。そんなつもりじゃなかったのだが・・・。
自分が軍人になって初めて人を殺したときはどうだっただろうか・・・。
ダメだ・・・。もう何年も前のことになるから思い出せない・・・。きっとつらかったんだろうが、慣れとは怖いものだ。
まあいってしまったものは仕方がない。それに今の彼女には心を落ち着かせて、一人でゆっくりと考える時間が必要なのかもしれない。
「そんなことより、休暇を取らせてやらないとな。いくらいらないといわれたからってこのまま休暇をとらせないでいると絶対に彼女は壊れてしまう。」
もしかしたらもう壊れているのかもしれないけど・・・。そんな不吉なことが頭をよぎる。
「いや、壊れていない。まだ間に合う。」
そんな懇願にも似た叫びを口から絞り出す。
「うわ…。この書類の山から休暇届を見つけなくちゃいけないのか…。」
ついでに溜め込んでいた書類仕事を片付けちまうか。そう思い書類の山に手を伸ばしたそのとき。
「人事異動のお知らせ…?」
2日前に送られてきた書類の束の中にそれは入っていた。簡略化された書類だったが、きちんと上のはんこも押してある、正式な書類だった。
「ふーん。わざわざこんなところに異動…ねぇ…。」
中々不思議なことをするもんだな。ところで一体どんなやつが来るんだ?
「えーと、役職は…。救護兵!?」
ちょうどいいじゃないか。救護兵なら多少はショックについての知識もあるだろう。それにもしそういう方面の知識がなかったにしても同年代の話し相手が出来る。今の彼女には何でも話せる友人が必要なのかもしれない。
どうやらその子が来るのは1週間後らしい。とりあえず彼女にも伝えておくか…。そう思って俺は執務室を出た。