シグレ戦線異常なし②
「そろそろ敵陣地に着くはずだ。気を引き締めろよ。」
「了解。」
敵陣地を迂回し、後ろを取り、後ろから突っついて撤退するといった経験値を積ませるだけの訓練のような実戦。
おそらく楽勝だろう。そう考えていたが、流石に敵陣だ。少しくらいは防御するモノがあっても不思議ではない。が、何もなかった。見渡す限り何もない。敵陣地の近くのはずなのに敵の一人すらいない。そう思っていたら。
「ザ…もうす…ザザ…敵じ…ザ…気をつけザ…」
ノイズが入った。
「なんですか!?もう一度お願いします!ノイズがひどくて聞き取れません!」
「敵のザザ…妨がザザ…電波状況がザ…いザ…」
聞き取れない。どうしたらよいのだろう。あと少しで敵陣だというのに。おそらく敵軍の通信妨害だろう。まさか電波を潰しに来るとは。いや、考えてみたら当然のことだ。ここは敵地なのだ。妨害くらいされて当然というものだ。
そんなことを考えていた所為だ。気付くと敵が目の前にいた。知らぬ間に敵と交戦していたのだ。
「ひぃっ…。」
殺される…!そう思った瞬間体が動いた。人間の体は実によく出来ていて、生きるということに貪欲だ。私の体は私の意志とは無関係に、ドリルを構え、突撃を敢行した。濃密な弾幕を防御壁を展開させ弾きながら進み、ドリルで一番近くにいた敵兵の体を貫く。ズブッ・・・という感触が手に伝わる。だがしかし体は止まらない。突撃の勢いそのままにさらに体の深くまでドリルを差し込む。そのまま右手を大きく振り、ドリルに刺さった敵兵の体を乱暴に投げ捨てる。ブースターを起動。まるで猪かのような勢いで加速し。そのままドリルで敵兵をなぎ払う。吹っ飛んだ敵兵に向けて左手の機関銃を構え、乱射する。ばらばらになって散らばる敵兵だったモノ。残弾がなくなるまで打ちつくす。正気に戻ったころには、戦場に、何輪かの真っ赤なバラが咲いていた。
「え…?」
「これ…私が…?うそ…。」
認めたくなくても右手にはまだ、敵兵の体をドリルで貫いたときのあの感触が残っていた。
彼らだって人間だ。友人だっていただろう。恋人や妻や、子供がいたかもしれない。幸せな人生を歩んでいただろう。軍人ゆえの苦労もあったかもしれない。だが、彼らは人間だった。国を愛し、友人を愛し、恋人を愛していた。その彼らの日常を、私が奪った。私が、私の勝手で、私の都合で。
「あ…、ああ…。」
私が悪いのだ。私が殺したのだ。私が彼らの未来を奪ったのだ。私が…。
「あああああぁぁああああああああぁぁああああああぁあああああぁぁぁあ!!!!」
めをとじると、みえてくる。おともだち、たくさん。まっかなはな。おはな。