シグレ戦線異常なし①
「こちら司令部、聞こえるか?どうぞ。」
「こちらヴァルキリー。感度良好、どうぞ。」
無人の荒野を『J.S』に乗りながら駆ける。どうしてこんなことになっているかというと、物語は数日前にさかのぼる...。
~数日前~
「そろそろ訓練にも慣れてきたころだろうし実戦を考えてるんだが、どうかな。」
「実戦…ですか…。」
少し空気が重くなる。やはり実戦となると緊張せざるを得ない。
「実戦って言ってもそこまで大変な戦場じゃないよ。優秀な人材をいつまでも訓練だけさせておく理由はないって上から言われちゃってさ。」
どう?と問いかけるような目つきで司令官がこちらを見てくる。
「御命令とあらば。」
実戦は経験しておくに越したことはない。私はそう思っていたのだ。このとき司令官の言葉を愚直に信じてしまったのが間違いだったのだ。言質を取っておくか、しっかりと確認しておけばよかったのだ。回想終わり。
「まさに無人の野を行くがごとく…だな。」
司令官が苦笑しながらそう呟く。確かにいくら戦場といってもこんなところで経験値など増えるわけがない。ここで1時間楽しくピクニックをするより基地で1時間訓練をしたほうがよっぽど自分のためになる。せめて敵兵の一人でも出てきてくれたり障害物のひとつでもあってくれたら少々歯ごたえもでるのだが…いけないいけない。平和なのはいいことだ、うん。
そんなこんなで本当にここは戦場なのかと疑問に思うくらい、もしかしたら罠ではないかと疑うほどに静かなところを『J.S』に乗って走り回る。聞こえてくるのはキャタピラの音とキャタピラが巻き上げる砂、そして踏まれて苦しみの声を上げる石の音くらいである。敵軍の声も、もちろん砲撃の音も聞こえてこない。待ち伏せか?実は息を殺して私が罠に引っかかるのを待っているのではないか?そんな疑心暗鬼まで起こる始末。ジーク○○とまでは行かないにしろ多少の声くらい聞こえてもいいのではないかな。
ただ敵兵を後ろからちょっとつついて帰ってくるだけの簡単なお仕事。そう思っていたのだけれども想像していたよりも簡単な仕事になりそうだった。ここまで簡単なんだったら私みたいに軍学校で色々勉強してこなくてもアルバイトで何人か雇えばよかったんじゃないか?人がいないんなら何人か紹介しましょうか?軍学校で落ちていった友人たちでもこのくらいの仕事なら出来るのではないか。そんなどうでもいいことを考えるくらいにはひまになっていた。
「偵察部隊が言うにはこの先30分くらいは何もないそうだよ。」
さらに追い討ち。いや、確かにいつ来るのかわからないよりは心臓にいいけど心臓によすぎてとても眠くなってしまうなあ。
まあ30分後に気を引き締めればいいか。そう思いながらだらだらと野を駆け巡るのであった。