それは小さな日常のような
今日もいつものような朝。今朝の朝食のメニューは目玉焼きにソーセージにサラダ。パンと牛乳もついていて、おいしかった。うちの司令官はどうやら料理が好きらしくわざわざ私の分まで作ってくれた。ここは前線の中では後方であるために兵站が充実しているのがいいところだ。後方勤務は訓練に従事できるのも気が楽でいい。
「おいしかったです。ごちそうさまでした。」
戦場では食事は数少ない娯楽だ。だから司令官のご飯は何よりも楽しみなものになっていた。
食事を取った後は訓練に移る。今日の訓練は、的を『J.S』の右手についたドリルで貫くという訓練だ。操縦を主とした訓練から実戦を意識した訓練に変わっていっているということなのだろう。
『J.S』で走り回る訓練はもうすでに自分の足みたいに扱えるようになってきたので、いよいよ手のように扱えるようになろうとのことだった。別にそこまで緊張することではない。いつもと同じようにやればよいだけなのだ。
外に出て『J.S』に乗り込む。ひんやりとした感覚が私の緊張をより強いものとさせる。
「いいか、あの赤い的だ。あの赤い的を狙って一直線に突っ込んでいき、右手のドリルで貫け。落ち着いてやれば大丈夫だ。わかばなら出来る。」
「はい。」
前傾姿勢をとり、粉塵をあげながら一直線に的へと近づいていく。近づき、的まであと十数メートルとなったところでドリルを動かす。そのまま右手を後ろに引き、突きの体制になったら”一閃”。唸りを上げたドリルが的確に的を貫いた。
「よくやった!大成功だ。」
そういって司令官が近づいてくる。私の右手には、いまだに的を貫いたときの感覚が残っていた。爽快感のような、何か胸がスカッとするようなこの感覚。例えるなら「快っ・・・感・・・」だろうか。そんなどうでもいいことを考えていると・・・。
「どうした?わかば…。あ、またどうでもいいことを考えていたんだろ。」
と司令官が笑いかけてくる。司令官はいつも私の考えていることを的確に見抜いてくる。君のようなカンのいい大人は嫌いだよ・・・。
「すみません。少々考え事をしていました。」
悪いのは自分なので素直に謝っておくことにする。余計な波風を立てて後で面倒なことになってもいやだし…。
司令官ならばこの私の考えも見抜いているのだろうか。見抜かれているのだとしたら相当不利なことになるなあと思ったところでまたどうでもいいことを考え始めている自分の頭に嫌気がさして思考をストップさせた。
「まあ、訓練でこれならそろそろ実戦を考えてみてもいいな。今度どこか適当な戦線をピックアップしておくからな。初陣だ。楽しみだろう?」
正直楽しみなどではない。出来ることならば後方でずっとぬくぬくしていたい。私は軍人になったのが不思議なくらいに戦闘意欲がないのだ。だがしかし、ここで面倒くさいといっては士気を疑われてそれこそ面倒なことになりそうなので、適当に答えておく。
「ええ、今からわくわくして眠れるかどうかわかりません。」
「はは。まるで遠足前の子供だな。」
よかった。これであっていたようだ。
戦場は経験したことがないが、きっとろくな日にならないであろう。
私は私の運命をつかさどる神を憎む。