ぶらり戦場途中下車の旅
列車にゆられながら前線へと送られていく。二等車ではあるもののずいぶんと上等な列車だ。なにより『J.S』を積み込むための車両がある。
私たちの異動は『J.S』もいっしょに動かさなくてはいけないため列車に積み込むのだが、なにせ精密機械だ。『J.S』を積み込める列車がない場合は現地まで乗っていくことだってあるらしい。それに比べたら列車にゆられているだけで目的地までつける今みたいな状況はとても幸せなものだ。
「『J.S』乗っけられる列車を手配するのすごく苦労したんだからな」とは司令の談だ。開戦してから『J.S』の需要はうなぎのぼりで当然それに伴って『J.S』を乗せられる列車もたくさん求められると言うことだ。
その立役者が口を開く。
「あー、君たち…いや、正確に言うとわかばだけなんだが、まあいい。君たちには前線で別のことをやってもらいたいんだ。」
「別のことですか、一体どんな任務なんです?」
「あまり大きな声では言えないんだが、『J.S』の新システムを試してもらいたいんだ。」
「新システム…ですか…。」
一体何をさせられるのだろうと少しおびえた表情を見せるわかば。
「そうだ。天才と言われている軍の技術部の開発局長が提案したシステムだ。成功すれば今までの『J.S』のシステムを根底から覆すような発明になるそうだ。」
「なんでそんなシステムの実験台に私が…?」
自分が選ばれた事実が信じられないという表情のわかば。
「ああ、その点は心配しないでくれ、『J.S』に載っている人員のデータをもとに選考した10人のうちにわかばがいたと言うだけだ。一人なわけじゃない。」
「はあ…。そうですか。」
「そんなわけで、目的地に着いたらすぐに現地の開発研究所に向かってくれ。他の9人もおそらく到着しているはずだ。」
「わかりました…。」
『J.S』を根底から覆すような新システム…。一体どんなシステムなんだろう…。戦闘面については何も問題ないと思うんだけど…。
「ああそうだ、開発局長の乃木洲氏は少し特殊な人間だからな、気をつけるといい。」
会う前からそんな不安になるようなことをいうのか、まったくこの人は…。
おかげで楽しい列車の旅が台無しになってしまったじゃないか。
そんな話をしていたら目的地のキリサメにたどり着いた。キリサメ地方は前線ではあるものの小康状態に陥っている地方で、だからこそ兵器の開発研究が行えるのだと言う。
その拮抗して膠着した戦線を動かすために『J.S』を持つ私たちの部隊を投入してみようと言った試みのようだ。
かくして私たちは前線での楽しい生活を送るようになったのであった。