わかば!着任します!
「大佐どの!笠矩わかば、現時刻を持ってこちらに到着いたしました!」
そういって敬礼をこちらに向けてくるのは小学校高学年ほどの年齢の女の子。
こんな前線に似合わないほどの可憐な少女は身じろぎひとつせずに敬礼をしている。
「楽にしたまえ。」
「はっ。ありがとうございます。」
軍人らしい改まった雰囲気。そんな雰囲気も少女が一人いるだけで、ずいぶんと和やかになるものだ。
「さっそくだが外に出てくれ。君の装備を紹介する。」
少女と一緒に外に出、少女になにやらごてごてした機械を見せる。
「これが・・・。」
「そう。これが『J.S』。旧式だが、だからこそ使い方もわかりやすく、壊れにくいといえる。」
『J.S』(Justice Suit)
我が国が開発したパワードスーツ。突撃、工作、治療、通信などさまざまな用途のための機械が所狭しと詰まったスーツで、これの開発によりわが国は強国へと進化を遂げた。
「聞いてると思うがこのスーツは・・・。」
「機械を詰め込みすぎて少女くらいしか装着できる人がいないんですよね?」
「ああ、そうだ。」
俺も最初に聞いたときは何を言ってるんだと思った。いくらパワーが増強されてるとはいえ年端も行かぬ女の子を前線に送るなど・・・。
「どうかなさいましたか?大佐どの。」
「いや、なんでもない。とりあえず装着してみてくれるか?」
おっかなびっくり装着する少女。機械音と共に『J.S』が動き始める。
「これは突撃兵用だ。君の特性にあっていると思う。私も実際にこれが動くところを見るのは初めてでな、訓練もかねて、ちょっと動いてみてくれないか。マニュアルは、読んできているはずだろう?」
「は、はい」
キャタピラが砂埃を巻き上げ、機械の塊が前に進み始める。
「よしいいぞ、そのまま右に曲がってみろ・・・。」
そのまま訓練を続けて一日が過ぎた。やはりこのくらいの年齢の子は成長するスピードがとてつもなく速いな。一日使っただけでもう実践投入されてもおかしくないレベルにまで達した。
明日はどんな訓練をさせようか、そんな想像を頭の中で膨らます。
「もうこんな時間か、この報告書を仕上げて寝てしまおう。」
軍人にとって睡眠は重要な要素だ。睡眠が十分に取れていないと戦場で十分な働きができなくなってしまう。
わくわくしながら眠りにつこうとしていることに気付き、頭を振って冷静になろうとする。人が一人増えた程度でここまでテンションが上がってしまうのか、私は。
できることならばあの子を戦場に送りたくないなあと思いながら部屋の電気を消す。しかしそれは叶わないことである。少女も、彼も、戦火の中に飲まれていくのであった・・・。