ミドル2
朝食と準備を済ませて10時頃、全員で森へ向かう。壁の外へ出ると同時に、そこはもう人間(俺たち)の世界ではない。いや、まぁ正確には壁の中でさえ人間の世界では無いのだが、やはり常に緊張を強いられるというのは大きな違いだろう。
今から20年前だそうだ。もはや想像すらつかないが、それまでは人間が世界の支配者だったらしい。ともかくその20年前、突如異界から「魔人」と呼ばれる種族がこの世界へ襲来し、人間は皆家畜となった。
それと同時に、現れるようになったのが「魔獣」と呼ばれる獣だ。魔人と違ってストラガーなら太刀打ち出来る程度だが、それでも侮れない外敵である。今から討伐に向かう「ジャイアントアント」というのもその一種。セリアによるとジャイアントアント自体は魔獣の中で比較的弱い方らしいが、時間をかけると味方を呼んで連携してくるらしいので素早く決着をつける必要があるらしい。
森に入ると一気に視界が狭くなる。普通の人は勿論、僕らでさえもこの森に入るのは初めてだ。それでも、おそらくフレッドさん達だろう、まだ真新しいい人の踏み入ったあるから今回は迷うことは無さそうだった。
「そういえば二人はなんで今日遅れたの? 昨日皿洗い当番サボったから?」
ふと思い出したようにセリアが口を開いた。相変わらずさり気なく余計な事を言っていくな!
「あんですって!? ちょっと、カイ!!」
「だって面倒クセェし……」
「当番なんだからちゃんとやらないとダメじゃん! もう、毎回クロ姉に迷惑かけて!」
ほらやっぱりお説教が始まる。なんかコレが始まると俺たちまで微妙に居心地悪いんだよなぁ。
因みにチラッとセリアを見るとニヤニヤしてた。ワザとかよ。
「クロがやってくれるって言ってたし良いだろ別に」
「そ、そうですよ。私は別に気にしてませんし!」
「クロ姉もクロ姉です! そうやって甘やかしてるからカイは」
「それで皿洗いの件じゃ無かったなら、朝は何について起こってたんだ?」
そろそろ居心地が悪くなってきたので助け舟を出してやる。
「あ、昨日カイが歯を磨いてなかったので!」
それを聞くとほら見たことかと言わんばかりにバリスが笑う。
「ビンゴ。昨日三人でカタンをやってたら途中で寝てしまっていたからな。それを見逃すレーナじゃないと読んだんだ」
よし、折角なので俺も続こう。
「因みに昨日のカタンは5戦中3勝して俺の勝ちだぜ」
「おっさん二人が並んでドヤ顔すんな気持ち悪い」
セリアに後ろからケツ蹴られた。ってかまだおっさんじゃないし! 18だし!
「そうだぞ! それにヘクターはともかく俺はそこそこ顔も悪くはないはずだ。自分で言うのもなんだがな」
「ほんと自分で言うなよ。そしてさり気なく俺を切り捨てやがったな!」
「皆ー! お昼ごはん取ってきたよー!!」
「こっちもある程度採って来た。まったく、寄り道でもしないと皆歩くの遅すぎる」
いつの間に!? やっぱり年少組はレンジャー能力高い。
「お、いいねー! 調味料はあるから鳥はハーブで焼いて、木の実もサラダにしちゃいましょうか!」
「少し先に池を見つけた。ある程度開けた場所だったしそこで食えばいいと思うぞ」
「丁度お昼ですしね。それに少し歩き疲れました」
「大丈夫か?」
「はい。疲れたと言ってもまだ二時間くらい歩く余力はありますし」
「そうか? だがこの後戦闘もあるだろうし無理はするなよ」
気遣うバリスと微笑み返すクロ、そしてそれを複雑そうな目で見つめるセリア。年少組二人といい、色々分かりやすいよなこいつら。そんな一人仲間はずれでボッチな俺も普通に腹が減ってきてたので、ともかく休憩には賛成だった。
暫くカイに付いていくと池のほとりに出てきたのでそこで昼食を摂る。メニューはレーナが獲った野鳥とカイが採って来た山菜、あと村から持ってきたパンだ。いつも通りセリアとクロが手早く調理していく。
基本家事等は当番制なのだが、料理に関してはいつも二人がやってくれるのだ。以前日頃の感謝を込めてバリスと二人で代わりに料理に挑戦した事はあるのだが、「その気持ちは嬉しいんだけど、正直美味しくはない」と言われてしまった。クロも曖昧な笑みを浮かべていたし、それ以来料理に挑戦する気が起こらないのは分かるだろ?
食事の後、昨日の罰ということで池で使った食器を洗わせられているカイを横目に見つつ、この後の事を考える。
「確か、先輩達がジャイアントアントを見つけた場所はもうすぐだよな?」
「そうね。この場所からだと……多分後30分くらい北西に行った場所ね」
「想像以上に雑草が多くて索敵が難しそうなのが怖いよなー」
「カイとレーナならそうそうジャイアントアント如きに遅れを取る事は無いだろう?」
「多分それより、増援が来た時の発見が遅れるって事ね。私が怪我しちゃう」
「クロもな! まぁそういう事よ。バックアタックや挟み撃ちが一番怖いかんね」
「い、いざとなれば私だって自衛出来ますよ?」
「いざとなればね。ただジャイアントアント相手に後衛までダメージ受けさせたら情けないって話だ」
「それは、そうだな……」
「なんで今回はレーナには後衛に居てもらって、木の上からバックアタックの警戒に回ってもらうかと思うんだけどどう? ジャイアントアントなら前衛で抑えきれるっしょ?」
「うむ、問題ないはずだ」
「ええ、それでいいと思うわ」
「なになに、何の話です?」
年少組が戻ってきた。一通り作戦、というほど大業なものではないけど、を伝えると素直に頷いてくれた。
リーダーはバリスではあるのだが、彼は少し味方を過信しすぎる嫌いがある。またクロは人に指示出すのはすきじゃないらしく、レーナは基本アホだしカイに至っては連携何それというスタンスなので大体いつも俺とセリアで作戦を立てているのだった。そしてレーナは戦闘が始まると詠唱に集中することが多いので消去法的に俺が司令塔になる訳だ。
「それじゃあ再出発しよう。そろそろ接敵するだろうから皆気を引き締めていくぞ。レーナとカイは哨戒を頼む。」
バリスの言葉と共に出発し、そして20分後ついにジャイアントアントを補足した。