オープニング
秋の風が吹く。俺は結構この時期の風が好きなのだ。身も心も引き締めてくれる、厳しくも優しいこの風が。それは追い風の時もあれば向かい風の時もある。でもやはり俺たちと同じ地上にいる。だが今俺は風に当たるためにこんな夜更けに寝床を抜け出してきたわけじゃない。あの大嫌いな星を眺めに来たのだ。
空には満天の星が輝いている。俺はあの星が嫌いだ。綺麗ではあるが、ただ空から輝き下ろしてくるだけのあの星が。この地上の理不尽さなど我関せずと己が輝きを俺たちに誇ってくるのが、妬ましくて、そして責められているようで。
「ヘクター、また寝てなかったのか? 星は嫌いなんだろ?」
バリスの声だ。トイレの帰りだろう。特に目も向けずに答える。
「ああ、嫌いだ。でもたまには見てやらねぇと可哀想だろ?」
「別にお前に見て欲しくて光ってるんではないだろう。明日もまた訓練だ。少しは寝ておけよ」
「へいへい。因みにバリスは夜這い帰り?」
ふん、と後ろでバリスが鼻をならす。
「なわけ無いだろう。トイレに起きたらヘクターが居なかったから様子を見に来たんだ」
「お前の場合無いとは限らないからあっしは怖いでやんすよー。ま、俺も流石に眠いし宿舎に戻るか」
「その方がいいだろう。でないと明日、また遅刻するぞ」
そう言うとバリスは欠伸をしながら宿舎に戻っていった。その後姿を見送り、そろそろ俺も寝ようと思いつつ最後にもう一度空を見上げる。レグネルが出ていた。レグネルは季節に関わらず夜明け前に現れる星座で、その中でも一際明るい星が「バリス」だ。
そう、きっとこの物語の主人公はバリスなのだ。俺では無い。それでも、いや、だからこそ俺はあいつの一番の親友で、戦友で、相棒であり続けようと思う。バリスの横で少し控えめに、だが確かに輝くフィアレルの星のように。
これは俺、自称名脇役の語り部ヘクターが綴る、俺たちレグネルがこのトルキスの地を魔人から取り返すまでの軌跡の物語だ。