義兄と私と乙女ゲー
この世界を形造っているゲームの名前は
『彼と私の300日』
私、名取 朱音はその事に気づいたのは、いつもの様に友達と話をしていた時だった。内心甦った記憶に対して冷や汗をだらだらにしつつだが。
私の内心とは裏腹に入学式は何事もなく終わり、 私はすぐさま家に帰って自室にこもると、思い出した事を全てメモした。 ゲームの事から自分の前世のことまで全て。
まるで何かに追われるかの様に何枚もの紙に書き記しやっと一息つく。
自分は本当にゲームの世界に転生してしまったんだな・・・
思わず苦笑してしまう。 それからふと自分が今置かれている状況が気になりメモの最後にまとめてみると、今私が考えなきゃいけないことは二つある事がわかった。
一つ目はヒロインの事。
まぁこのゲームは誰かが死ぬ系のバットエンドは無かった筈だから、今はひとまず大丈夫だろう。
それは一旦横に置いておくとして、大切なのはもう一つの方だ。
重要なもう一つ事と言うのは晶兄の事。
私には晶兄、本名 名取 晶という私より一歳年上の、血は繋がっていないが大切な兄妹がいる。だが彼はこのゲームではヒロインの攻略対象の一人なのだ。
晶兄のバットエンドは確か、 晶兄が退学になる話のはず ・・・絶対に阻止しなければ!
うん、頑張ろう。
私は全力で決意した。
〈コンコン〉
「朱音、入るぞ」
唐突にしたドアからの声に少し驚きつつもメモを机の引き出しに隠しす。
「どうぞー」
入ってきたのは思った通り晶兄だった(噂をすればという奴だね)。前世を思い出した私から言うと、前世で一番好きだったキャラが自分の兄であると言うことが不思議に感じる。晶兄はかっこいいと思うし、凄くモテる。 容姿は髪、瞳共に茶色で、凛々しく整っている。しかも彼は顔がかっこいいだけではない。頭もそこそこ良く、 しかも空手部で黒帯という文武両道。そりゃあモテるよね。かく言う私も空手は中学までやっていて一応黒帯を持っているけどさ。
まぁモテるからこそ攻略対象なんだけどね
そう思いつつボーっと晶兄の顔を見ていると
「どうした?朱音」
晶兄は不思議そうに聞いてきたので、あわてて
「何でもない!それより晶兄こそどうしたの?」
「ん?あぁそうそう、実は頼みたいことがあってさ」
「また!?・・・で、今度は何?」
「ところで朱音さ、入る部活決めた?」
「いや、まだだけど」
「俺、空手部だろ?」
「・・・うん」
何か嫌な予感が・・・
晶兄は顔の前に両手を合わせると
「頼む!空手部のマネージャーしてくれ!!」
と頼んできた。
今度はそれか。
「はぁ、やっぱりそんな事だと思った」
ズバリ嫌な予感的中。
そんな優秀な私の兄は、
実は家では何かに付けて私に頼み事をする達なのである。義母曰く、「晶が頼み事するのはあの子なりの甘え方なのよ。
そもそも晶は信頼した人じゃないと絶対に頼らないしね」だそうだ。それが本当の事かはわからないが義母が言うからそうなのだろう。
「・・・わかった。やるよ。マネージャーだね」
・・・まぁ結局そんな兄の頼みを聞いてしまう私も私なんだけど
私がOKを出すと晶兄はまるで子供の様に喜びながらも
「ありがとう!さすが俺の自慢の妹!!」
と私を持ち上げるのを忘れないのはさすがだと思う。
「た・だ・し、月1で何かおごってよね」
まぁ私も即座に条件を出したからどっちもどっちか。
晶兄は私の条件に、ニヤっと笑った。
「大変な頼みをしているのはこっちなんだし、そんなのおやすい御用だ。
そうだな、部活が休みの日に、学校の近くに在る喫茶店のパフェでどうだ ?」
「よし、乗った!交渉成立だね。それにしてもパフェか、楽しみだな」
私がパフェに思いを馳せ
ていると、いつの間にか隣に居た晶兄が私の頭を数秒優しい手つきで撫でると盛大に兄バカ発言をした。
「朱音がうれしいなら俺もうれしいよ」
この話をしてから数日後私はから空手部の女子マネージャーになり、自分が三年生として引退するまでの約三年間マネージャーとして忙しい毎日を送ることになるのと同時に、マネージャ ーになった事によって、攻略対象の一人である彼に出会うことになることはこの時の私は知るよしも無かった。