求める世界を追い続け
(ここ…どこ…だ?)
(僕は…いったい…どこを歩いて…るんだ?)
石で出来た暗く、冷たい封鎖的な道を、僕は歩いていた。
(僕は、なぜこんな所にいるんだ?)
答えは斜め前を歩いている、二人いる兵士の一人が持っている鎖だった。
その鎖は僕の両手の手錠と固く繋がっている。
(そうだ、僕はもうすぐ死ぬんだっけ……。
はぁ…、あの子に会いたいなぁ……。)
最近まで世話をしてくれた、女の子を思い浮かべ、短い溜め息を吐く。
(繋がっている兵士が、あの子だったらまだいいなぁ)
現実逃避気味にそんな事を考える。
「おい罪人!もうすぐ着くからな」
鎖を持っていない方の兵士が、こちらを向いて威圧的な声を出す。
(言わなくても分かってるってのに)
目の先にはこの道の出口から漏れる光が見えている。
「まぁ、楽しかったかな」
顔を上げ自嘲気味に呟く。
出口は光で溢れていた。
だが、兵士は出口より十歩程離れた所で立ち止まる
「これで、罪人の目を塞ぐ」
そう言い、兵士が腰から布を取り出し、僕の
目に当てる。
生地が分厚いのか、今まで見えていた光が閉ざされる。
「よし、それじゃあ行くぞ、付いて来い罪人」
兵士がそう言った後、手錠に引っ張る感覚がし、付いていく。
外に出たのか、今までよりも強い風が服を撫でる。
そして、数々の視線が僕を向いていた。
畏怖、憐憫、嘲りなどの様々な視線。
だけど、僕にわかる一つだけ同じな事は、どんな視線も、僕を助けることは無い、という事。
そんなことを考えながら、手錠の動く方へ付いていく。
それからしばらくし、僕は木材で出来た台の上に連れてこられた。
絞首か、斬首か僕は判決を静かに待つ。
僕は騒がないし、暴れない。
だって、彼女が見ているかもしれないんだ。
好きな子に見栄を張ってもいいだろう?
本当は、笑って微笑んであげたい、ありがとう、楽しかったよって笑い掛けたい……笑うのは流石に気持ち悪いかな?
「あ…れ……?」
そんなことを考えていたからなのか、少し目が潤んでいた。いや、涙が流れていた。
君には最後まで、好きだって言えなかったなぁ。
「これより、罪状を述べる」
今までの兵士とは違う豪華な服装の男性が広場に響き渡る大声で述べていく。
これで最後
神様、願わくば彼女の未来が明るくありますように──。
『その願いが叶うかは君次第かな』
突然、僕の横に幼い子供が音も無く現れる。
『こんちはソラ君、僕はハイト、神様だよ』
神様は驚き過ぎで声も出さず、動けなくなっている僕を気にせず自己紹介を始める……っていうか誰も気付いていない?
『うん、認識阻害の魔法を掛けているから、ある程度は大丈夫だよ』
神様が心の声に答えを返す。
『まぁ、色々聞きたいことがあると思うけど、今は勘弁ね』
僕の正面に周り神様が両手を合わせている。
なんか不思議な感じだ。
「──よって、罪人ソラを斬首とする」
今になって聞こえてくるのは僕の罪
『じゃあ質問だ、──君が今求めているものはなんだい?』
求めているものかぁ、何もないなぁ、まぁ最後だしちょっとかっこ良いこと言おうかな……。
力……はなんか在り来たりだなぁ
愛……は言っている自分が恥ずかしいしな
求めているもの……求めているもの……、あっ…これなら良いかも。
「僕が今求めているものは 消去 です」
『……分かったよ、君の本心がどんなでも、その言葉だけは、面白い』
少しの間、無言で僕を見ていたが、すぐに微笑んだ顔になる。
どうやら、神様の琴線に触れたらしい。
僕も嬉しくなり、つい顔が緩んでしまい、兵士や広場の人達をきみ悪がらせてしまった。
罪人を裁くのは死刑執行人だ、覆面をした大柄な人で、手には持たれている大き過ぎる斧が、ガッ、ガッと下に当たるたび音を立てている。
僕は手錠を掛けられ、座らされ、顔を下にして頭を出す。
もう、近くに神様はいない。あの後すぐに何処かへ消えて行ってしまった。
「罪人、最後に言い残すことはあるか」
罪状を述べていた人が聞いてくる。
ありがたい、彼女に言えなった事をここで言ってしまおう。
「──さん、僕は貴女の事が大好きでした。」




