4 外方へと拡散する
将校は、ぜえぜえと息をあえがせていた。だが、その顔には勝利の色があった。
「料理の自炊をしているということで言い逃れようとは、小癪なマネをしてくれたな。だが、貴様ごときの浅知恵で、我ら法の代行者を欺くことはできぬ!」
将校は息を整え、背筋を伸ばすと、酷薄な笑みを浮かべた。
「たった今、大臣閣下と協議して、法を更に改正していただいた。いまや、スキャンの自炊のみならず、料理の自炊も犯罪なのだ!」
「なによそれ! 滅茶苦茶じゃない」
私は腰に手を当て、将校を睨んだ。
「そんなことはない。自炊とは、内的で、社会との交わりを軽視する行為である。外食や、中食といった素晴らしい食事の方法もあるのだ。そうしたサービスを利用して経済を活性化させるのが、遵法精神に富む善き国民の役目であるべきなのだ。それなのに、家に閉じこもって細々と料理しようとは、虫酸がはしる。自炊など到底許容できぬ!」
将校は自らの演説でテンションを上げると、私に指を突きつけた。
「兵士よ、この女をとらえよ!」
兵士たちは互いに目配せしていたが、上司の命令とあれば逆らうことはできない。おずおずと手を伸ばしてきて、私の服の裾を掴んだ。
将校は笑いを抑えきれない様子だ。
「くくく……貴様のような悪質な犯罪者は断罪されるのだ。最低でも懲役20年は軽かろう。いや、それすら生ぬるいか。犯罪者は永久に排除するのがお国のためかもしれぬ」
将校は腰のホルスターから拳銃をゆっくりと抜く。そして、撃鉄を引き起こした。
「ちょっと待った!」
私は鋭く声を上げた。
兵士がぱっと手を離す。
「社会との関わりを絶って、家で料理をするのが問題なのね?」
「そ、そういうことだ!」
将校は答える。
「じゃあ、外に出るわ。みんな手伝って」
私は兵士たちの方を向いて、指示を飛ばす。
重たいスキャナーや裁断機、パソコンが屈強な兵士によって、おもてに運び出された。
私は延長コードを幾つも繋いで、外の機器を使えるようにする。それから、食材をどんどんスキャン機器に注いで、調理していった。
兵士たちは、またしても旺盛な食欲を発揮した。彼らの食べっぷりを見て、道行く人もどんどん集まってきた。あっという間に黒山の人だかりができる。
将校は怒り狂い、地団駄を踏んだが、どうにもならなかった。
こうして私のスキャン代行業のキャリアは終了。代わりに料理人としての人生がスタートした。
自炊業者たちはみんな、私の成功を真似ようと、道ばたに店を開き始めた。
それが引き金となって、冷たい整然とした街は、その様相を変えていった。
猥雑としてエネルギーに満ちあふれた、新たな都市へと生まれ変わっていったのだ。




