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2 法の番人


「わおわおわお……何の騒ぎよ?」

 侵入者の男達に床に押さえ込まれた私の口から、当惑の声が漏れる。

 十人以上もいる、武装した男たちだった。男たちは私や部屋の機器にサブマシンガンの銃口を向けて、用心深く辺りを検分していた。その動きから判断するに、彼らは兵士だろう。


 と、部屋の空気が変わったのに私は気づいた。

 部屋の中の兵士たちが直立して、背筋を伸ばす。

 屈強な男たちが左右から私を掴んで、引き起こした。

 部屋に兵士たちのボスが入ってきたのだ。

 ぱりっとした軍服に光り輝く肩甲と勲章を付けた男だった。大きな軍帽を被り、黒い眼帯で片目を覆っている。冷酷かつ傲慢な笑みを顔に浮かべていた。

 この男は、政治将校に違いない。

「これはこれは--」

 磨き上げられたブーツで段ボールを小突きながら、将校は気取った声をあげた。

「我らが偉大なる政府の、栄光ある布告から一時間と経たないうちに、これほどの獲物が見つかろうとは! 兵士諸君、見たまえ。悪質な自炊業代行業者だ。言い逃れもできない装備だな。まったく大したものだ」

「食べていく為よ……」

 私は苦々しげに漏らした。

 いろいろ反論したいのだが、急な展開に私の頭は痺れて、ついていけていなかった。

 将校は侮蔑を含んだ視線で私を見た後、すぐに目を逸らした。

「食べていくためなら、社会の規範たる法を犯してもよいのか? 否! 自炊行為は、著作権を踏みにじる極めて悪辣な犯罪である。初犯といえども、酌量の余地はあるまい! このような不正は許容されないのだ!」

 将校は演説をするかのように声を張り上げ、両手を振り回した。

「我が国が強国として成長していくためには、厳正なる法治こそが不可欠なのだ! 特に情報を司る著作権は大切である! きちんとした著作権があってこそ、子供は勉学に励み、成長した暁には国のために命を捧げることができよう! 諸君、このように法を破る者は駆逐されねばならぬ!」

「将校閣下、ここでこの女を殺しちまいましょう! 裁判など時間の無駄です! 法を破る毒虫に生きる資格はありません!」

 やけに純粋で、狂信的な目つきの兵士の一人が言う。周囲の兵士が同調して力強く頷く。私はぞっとした。

 将校は顎に手を当て、長考した。

「……一理あるな。我が国の司法機関に不必要な負担をかけるべきではないかもしれぬ」

 将校が、にやりと笑って言う。

 その声に応じて、周囲の兵士たちがサブマシンガンに手をやり、安全装置を解除した。

 一方、ショックから立ち直りつつある私の中では、新たな感情が膨れ上がっていた。

 それが、恐怖というよりも、怒りであることに私は気づく。

 こんな勝手なことを言う奴に殺されてはたまらなかった。

「食べていく為って言ってるでしょ!」

 気がついたら、私は怒鳴っていた。

 もう何年も大声を上げたことのなかった私の発した怒声は、自分でも驚くほどに鋭利だった。

 それは狭い部屋に響きわたり、部屋の中の人間を硬直させた。将校が部屋に入ってきたよりも場は緊張して、誰も動けない。

「放して」

 私の怒りを潜めた声に、兵士はびくっとふるえる。私は兵士に掴まれた両手をふりほどく。

「見てて」

 私は裁断機へと歩み寄った。部屋の人間の視線が、私の一挙手一投足に注目している。

 私は、裁断機の下のコンパートメントから麺の詰まったパックを取り出す。スーパーマーケットで売っている麺だ。それを、裁断機の上にぶちまけた。

「裁断機はこうやって麺を切ったり、野菜を刻んだりするためのものよ」

 言いながら裁断機のハンドルを上下させる。大量の紙を裁断するためのブレードは、麺を容易く刻んでいった。

 細かく切った麺を掴んで、大型スキャナーへと運ぶ。

 スキャナーの出力を全開にセットして、麺をスキャナーの開口部へと注いだ。

 ついでに、キャベツやセロリ、ニンジンもコンパートメントから取り出して、刻んで、スキャナーに入れた。

 スキャナーは見事なスピードで材料を飲み込んでいく。

「スキャナーは炒め物をするのに最適なの。焼き肉だってOKよ。高性能だから」

 そう言って、牛肉もスキャナーに入れた。頃合いを見計らってソースもスキャナーに入れる。

 すぐに、おいしそうな匂いが広まり始める。

 スキャナーの下から、湯気を立てながら調理された麺が出てきた。

「はい、焼きそばの出来上がり」

 私は紙皿に盛りつけ、兵士たちに手渡していく。

 それから、割り箸も配った。



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