二日目の…
「ナギ様!
起きてください!!」
「…ん……母さん…あと五分…寝かして…」
「まぁ! わたしはナギ様の母君ではありませんよ!」
……え?
あたしは、白地に青い魚模様のベッドで寝ているはずなのに
うっすら開いた目にはピンク色が見える。
いつもと違い、布団はフカフカだった。
あたし…布団のシーツ変えたっけ?
つか、母さん今夏休みだから起こしに来ないはずだよね…?
それ以前に、『ナギ様』って何?
疑問を感じつつ、あることを思い出した。
………………『ナギ様』はともかく…
今日は部活じゃないか!!!
あたしは図書部に通っている。
行かないとうざい友人が電話を掛けてくる。
アレ? うざい友人って
友人じゃなくね?
ま、いいか
「ナ、ナギ様?」
いや、『ナギ様』じゃな………………あ!?
あたしは、異世界にいることを思い出した。
部活なんかもう行かなくていいんだよ――――――
あ、起きないと。
「おはよう
えっと……アンナさん」
ゆっくり起き上ったあたしは、朝の挨拶をした。
眠いので、元気にあいさつは無理だった。
ベットから近くにあったドレッサーの前に立つ
寝癖がついていないことを確認する。
「あ、ヤバ」
どうやらローブを着たまま寝てしまったため、くしゃっとしわが付いている
「ナギ様」
「ん?」
アンナさんに声を掛けられ、振り向いた。
手にかわいらしいドレス
あたしに着ろと?
「きっと、お似合いになりますよ!」
**** 魔王様視点
ナギと出会って一夜明け、俺はいつも通りに自分の部屋で仕事をする。
書類に目を通し、名を書くだけだが量が異常だ。
机に残る莫大な書類にため息をつく
ナギにプロポーズをした時の事が頭をよぎる
あの時は「友達から」と言われ、わけがわからなかった。
それ以前に、自分がナギに持った感情自体が理解できない。
仮面がどうのこうの
意味がわからない
ペンをインクにつける。
「!」
ペンがひっかかり、インクをこぼしてしまった。
白い紙が、黒色に染まっていく。
俺は片付ける気が起きなかった。
自分は嘘をついている
皆は俺を『やさしい魔王様』としているが、本当は違う。
俺の望みに背く者がいれば、本当は殺してやりたい。
だが、そんな事をすれば、誰も俺に近付かなくなるだろう。
恐れの対象にはなりたくない。
なんだか、考えているだけで自分を見失った。
ため息をついて、インクを片付け始める。
幸い、インクの残量がわずかだったために
書類を一枚ダメにしただけで済んだ。
インクで黒くなった手を見つめる。
「やほー!
フォル………うわ!」
ナギがノックもなしに部屋に入って来た。
そして、俺をみるや否や悲鳴を上げる。
「ちょ、真っ黒じゃん!」
慌てて駆け寄って来てハンカチで俺の手を拭いた。
ナギの手は温かかった。
ただぼんやりと、ナギを見つめる。
美しかった。
「こんなんで良いかな?
うん、綺麗になった。」
俺の手から、ナギの手が離れた。
「ありがとう ナギ」
「ん、別にたいしたことはしてないよ」
ナギは淡いピンクのドレスを着ていて、昨日とは違った感じがする。
「あ、変かな?」
ナギは俺の視線に気づいたようで
顔を赤らめた。
「いや、変じゃない
凄く似合ってる。」
本音を口にするとナギはもっと赤くなった。
「ちょっと、散歩にいこうか」
とりあえず、友達とはこんな感じなんだろうか?
***
噴水の淵に座り、耳を済ませる。
鳥のさえずりが聞こえた。
何でもないような音でも、じっくり聞けば美しい。
さっきまで息苦しい部屋にいた俺は言いようのない解放感に
胸が軽くなった。
「へへ、自由って感じだね?」
笑いながらナギは俺に声を掛ける。
「あぁ、俺は今自由だ」
慣れない笑みを浮かべると
さらにナギは笑い返してくれた
立ち上がり、クルクルと回りながら俺から距離を取った。
そして城壁を背にもう一度笑った。
俺も釣られて笑った。
「あ、やっと笑った。」
「……?…」
俺はそんなに笑わなかったのだろうか?
首をかしげる。
「なんか、難しい顔してたからね!」
ふふふ、とナギは笑う。
俺も頑張って笑おうとした刹那、ナギめがけて矢が飛んで来た。
「ナギ!!!」
「へ?」
叫びながらナギを庇った。
そして、矢が飛んで来た方を睨む。
城壁の上に何者かがいた。
右手をかざし、衝撃波を当ててこちら側に落とした。
「え、ちょ…何!?」
現状把握ができないナギはパニックに陥った。
落とした敵は男、地面に叩きつけられたにもかかわらず、
何食わぬ顔で立ちあがった。
俺は奴の方へ数歩移動してナギから距離をとる。
殺気の塊である男は静かにこう言った。
「その女を渡して貰う」
……なん…だと?…
体に、何かがこみ上げて来た。
中途半端なくせに若干長いww
誤字脱字がありましたら
指摘してくださるとありがたいです。