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永遠のエレメント ~the eternal knight~  作者: wlmtnk
第一章 ~始まる、運命~
9/11

魔女と人間と忍び寄る影






曲線を描く緩やかな坂道の両脇に並ぶ数多くの露天商、おそらく、商店街だと思われるエリアを抜けると、今度は開けた空間が薫の眼前に広がる。



広場だろうか。

中心に色とりどりの花を咲かせる円状の花壇が広がり、周囲にはこの広場を取り囲むように建物が並んでいる。人通りは一際多く、小綺麗な服装をした人々から、みすぼらしい服装の人々まで、貧富の差も関係なく、多種多様な人々が各々の目的をこの場で果たしているように見える。ある人は食事をとり、ある人は物乞いをする。それはこの街の姿の縮図のようにも見えた。

建物の高さも比較的高く、大きなものが乱立している事を見ると、この街の中心街でもあるのかもしれない。



「あそこがギルドよ」



レフィアは大きな建物の一つを指差す。

それは三角屋根を持ち、石を積み重ねて作られている建物だった。



「あそこでなら情報も集まるし、護衛も見つかるはずよ」



レフィアはそれだけ言って、そのギルドと呼ばれる建物に歩み寄っていく。



彼女は先程以降、あまり口を開かない。

“人間不信”。今さらになって昨日のローザおばさんの言葉が薫の頭に響く。



(でも……)



昨日までのレフィアの様子には“人間不信”に当たるような振る舞いはなかったように思える。

確かに、高圧的で、心を許しているようには見えなかったが、それもある程度は常識の範囲だと感じた。むしろ、親切とさえ。



もしかしたら、レフィアは“人間不信”である事を隠していたのかもしれない。

それが、今日になって溢れ出したのかもしれない。



だとすると、その変化の原因となったのは、魔力聖珠(ディアボリー)に関する事にあったのかもしれない。



考えても、明確な答えが出てきてはくれない。

それでも、薫はとにかく考える。この胸に残るもやもやとした感情を明らかにする為に。



「早く、置いてくわよ」



「あ、うん」



先を行くレフィアの催促を受け、薫も慌ててギルドに駆け寄る。

その扉をレフィアが開き、導かれるままに薫は踏み込んだ。



ギルドの内部は比較的簡素なものだった。

細く長い構造の途中にいくつかのテーブルが並んでおり、その奥にカウンターのようなものがある。また、二階までは吹き抜けとなっている為、三角屋根の形状があらわになっていた。



加えて、人で賑やかな広場に面しているからか、ギルド内部は非常に活気があるように見える。

机上で雑談を交わす人々や、隅に設置してある掲示板のようなものを熱心に見つめる人々。老若男女問わずに集うこのギルドというものは、広場の賑わいの中心にさえ思えた。










それにも関わらず、



レフィアがテーブルの隙間を通り抜け、カウンターに辿り着くまでの間に、その賑わいは囁きへと姿を変えてしまっていた。



ただ、「……魔女だ」、「魔女が来たっ……」といった言葉だけがその場には無数に残るのみ。



その中を平然と歩いていくレフィアの姿に薫は戸惑いを感じながらも、今はただその背中を追いかける事しか出来ない、そう思い込んで彼女の後を追った。



「……こいつに情報に詳しい者と護衛を用意させて欲しいんだけど」



レフィアはカウンター前で黒い帽子を深く被る初老の女性らしき人に、平然と話しかけていた。



「……予算は?」



「こいつは魔導師でもコネクターでもないから無償護衛の申請が可能なはずよ。情報料は出来高払いとして請求しておいていいわ」



「…………了解した。夕方までに契約をしておく」



「あと、先方の仕事は?」



「上々の成果。暫くはなし」



端的な会話。

それだけ済ますと、レフィアは女性に背を向け、ギルドの入口へと足早に戻り始める。



慌てて薫もその背中を追いかけようとした時、何か硬いもので背中をつつかれる感触がした。

咄嗟に振り返ると、そこには木製の杖をこちらに差し出している先程の女性の姿があった。



「……魔女には気をつけなさい。あれは決して人を信じない」



「何を言って……」



追及するより先に、女性は一瞬で姿を消していた。

これも、魔法だろうか。今となってはあまり驚かなくなった自身に驚きつつも、薫はレフィアを追いかけた。



“魔女”、その言葉にひっかかりを感じながら。










―――――― 



早足で外にでたレフィアの後を追い、薫も外の広場へと駆け出る。

そんなレフィアはただ沈黙を貫き、その姿は慣れきっているように見えて、寂しく思える。



「……レフィア、その、……」



「あんたの護衛は夕方には準備できるわ。情報も有能な情報屋が紹介されるはずよ。だから、夕方にまたここに来るといいわ」



広場の中心の花壇の側で立ち止まり、振り返ったレフィアの表情は勝気そうな大きな瞳を持った、いつも通りとも言えるのかもしれないものだった。



「……うん、ありがとうな。お前はこれからどうするんだよ?」



「村に戻るに決まってるじゃない。付き添いとかはもうしないわよ。あんたに迷惑がかかるしね」



「……迷惑?」



「……さっきのギルドでの様子を見たでしょ、私が魔女って呼ばれてるところ。私は他人には何を考えてるのかわからないだろうし、加えて私には大きな力がある。人は手に負えない脅威を恐れ、蔑視するものなのよ。だから、私は魔女なの。それは一緒にいるあんたにも影響するかもしれないのよ」



「別に、俺は迷惑なんか……」



「何? それとも子供みたいに付き添われたいわけ? 可愛いお子ちゃまですねー」



「そ、そんなわけないだろっ」



「はい、ならここからは一人で頑張るのよ。幸運と元の世界への帰還を祈っておくわ」



レフィアが浮かべた笑顔。

それは初めて見る表情で、薫は素直にそれがとても可愛らしく、綺麗だと思った。



「あ、ああ。本当に色々とありがとな」



「別に、ローザおばさんの指示だから仕方なく世話しただけよ」



大きな碧の瞳が存在感を増している、勝気で生意気なレフィアの表情。

それは、昨日出会った時と同じで、どこか安心感を与えてくれた。



「…………でも、私も、楽しーーったーーしれない。ーーが変なやつだったから……」



囁き声のようなレフィアの言葉。

完全に聞き取る事は出来なかったが、レフィアの表情は寒々しいものではなく、暖かみのあるものだった事には確かな安心感を持つ事が出来たような気がした。










「い、いた! レフィアっ!」



聞き覚えのある声がした。



「ロ、ローザおばさん!? どうしたの!? 街に来るなんて珍しいけど」



声の主はローザおばさんだった。

だが、どこか様子がおかしい。声に元々の穏やかさはなく、すっかり荒立ててしまっている。

表情にも余裕がなく、息を切らし、激しく呼吸をしているその姿には異常性を感じずにはいられない。

レフィアも同じ考えのようで、ローザおばさんをどうにか落ち着かせようと、その肩を支えていた。



「はあ……はあっ……。レフィア、村に、……帰っちゃいけない!!」



肩を震わせ、顔を伏せながら放たれたローザおばさんの言葉。

それは聞いた事もないような真剣な大声で、薫は思わず萎縮してしまう。



「ど、どうしたの、ローザおばさん? 村で何かあったの?」



レフィアも戸惑ってしまっているようで、その声は僅かに震えているようにも聞こえる。



「そ、それは……それはっ……」



ローザおばさんはそこで顔を伏せ、肩を震わせるのみになってしまった。

それは何かを言いそうになって、言い淀んだような、そんな印象を受ける言動だった。



「まあいいわ、とりあえず様子を見に行くね」



「だ、駄目よ!! あいつらの目的はきっとあなたっ…………」



「な、何を言ってるの? 村で何があったの!?」



レフィアが問い詰めても、ローザおばさんはただ首を振り、肩を震わせるだけ。



「とにかく、私は村に向かうわ。あんた、ローザおばさんの事見といてくれる?」



「い、行っては駄目! お願い、行かないで!! お願いだから!!」



「村に何かあったのなら、私がなんとかしなくちゃダメなのよ。だから、行くね」



ローザおばさんの悲痛にも思える叫び声を振り切って、レフィアは駆け出してしまう。

一瞬だけ見えたその表情は寒々しさを感じさせる、冷たい無表情だった。



薫はただそれを見送る事しか出来ない。

何をすればいいのか、わからないから。



追いかけていって何が出来る?

いや、追いつく事さえ困難であろう。



それならば、出来る事をやるべきであろう。つまり、ローザおばさんの様子を見ておく事が今すべき事。

それは、レフィアからの頼まれ事でもあるのだから。



「落ち着いて下さい、一体何があったんですか?」



「行かせちゃ駄目っ、あの子を、止めないとっ!」



ローザおばさんはふらふらとしていて、疲労困憊な状態にも見えるというのに、レフィアの後を地に足のつかない様子で追いかけようとしていた。

薫は慌ててそんなローザおばさんを制止し、真正面から向き合う。



「お願い、あの子を行かせないで……、このままじゃ、あの子はっ……」



涙ぐみながら地面に崩れ落ちてしまったローザおばさんを落ち着かせながら、薫は彼女からどうにか情報を聞き出そうと考える。



何があったのか。

それがわからなくては何も始まらない。

それが恩人とも言えるレフィアの事なら尚更だ。



何が出来るのかはわからなくても、次の出来る事をやりたいという衝動が薫の心を満たし始めていた。



「お願いです! 何があったのか話して下さい!」



「……それは、村が、村がっ……」



どうにか一定の落ち着きを取り戻してくれたローザおばさんは、ゆっくりと話し始めてくれた。



「……村が、襲撃されたの……。襲撃犯達の目的は、きっと、レフィア……。



このままじゃ、あの子は……。



お願い、あの子を止めて……。

あの子を、助けてっ!!」













ーーーーーー


気付くと、駆け出していた。



追いつけるかもわからないのに、何が出来るかもわからないのに、何の力もないのに、襲撃犯という言葉に恐怖さえ感じるのに、身体は動き出していた。



考えるよりも先に心が命じたかのように、薫は駆け出していた。


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