襲撃 ~ 魔力聖珠 ~
速く、もっと速く。
そう念じて、魔力を全身に込めて身体能力を最大限に高めた状態で草原を駆け抜ける。
景色が流れゆく。長い銀髪が風に流される。
疲れなどない、ただ速く、駆け抜けていく。
それでも、心がざわめくような、この嫌な胸騒ぎは消えてくれない。
ローザおばさんのあの動転した様子から考えて、何かが村で起こっている事は確かな事。
だからこそ、もっと速く。
そう何度も念じて、レフィアは草原を抜け、森を駆け抜けていく。
(村に何かあったら、私はっ……)
あってはならない事。それは、あってはならない事。
全て、上手くいっていたはずだった。もう少しのはずだった。
それゆえ、願う。
村がいつも通りの平穏を保ち続けている事を。
「こ、これはっ」
だがその願いは、脆く儚く崩れ去ってしまった。
感じたのは、異臭。何かを焦がしたかのような臭い、それでいて、感じた事のない異臭が村に近づけば近づく程、強くなってくる。
見えたのは、黒煙。森に生い茂る木々の隙間から見えたそれは、村の上空に漂っているように思える。
「そ、そんな…………」
森を駆け抜け、村の入口に辿り着いた瞬間、理解してしまった。
それはまさに、惨状。
村の家々は真っ赤に燃え上がる炎に包まれ、黒煙を上げている。
畑は荒らされ、作物は無残に散乱している。
村の皆らしきものが一体、異臭を放ちながら燃えている。
「どうして……どうしてっ……」
レフィアは顔を伏せまいと試みる。涙を流してはいけない。
悲しみよりも、憎しみ。この惨状の元凶を見つけ出す。
生存者だっているかもしれないのだから。
そう心に刻み込み、再び駆け出した。
燃えゆく家々を横目に見ながら、生存者の声が聞こえてこないかと耳を澄ませながら、駆け抜ける。
やがて、村の中心部とも言えた小さな広場に辿り着く。
憩いの場所だった広場、丘の上の自分の家を望めた場所、みんなと話して平穏で楽しい日々を過ごした村。
全てが、燃えていた。
「……ゾフレ様、生存者を発見しました」
響いた声。
素早く振り返ると、そこには白のローブに身を包んだ集団がいた。
10人程だろうか。
いや、人数は関係ない。
「次はどいつだぁ? ブツか?」
「容姿が酷似しています。おそらく、目標物かと」
集団の中から、白のコートをまとった大柄な男が現れた。
だが、そんな事は関係ない。
「……あんたらが、これをやったのっ!?」
殺す。
この集団がこの惨状を引き起こしたというのなら、皆殺しにしてやる。
「……間違いねぇ、ブツだ。捕えるぞ」
「質問に答えてっ!!」
「うるせぇなぁ……」
反吐がでそうな程、気持ち悪い笑みを浮かべるリーダー格の男。
憎しみ、殺意が湧き上がる。
こいつが、こいつらが。
「人間様が答える必要があるのかねぇ……」
確信した。
こいつらがみんなを、みんなをっ!
「殺してやるっ!!」
即座に魔器を発現し、生み出した剣を握り締め、先頭に立つ男に切りかかるーー
そんな、刹那。
「やれ」
男の声が響いた瞬間、握り締めていた魔器が消え去った。
加えて、全身に感じる奇妙な重圧。それが全身を締め付けるように感じて、地面に倒れ込んでしまった。
「っ!!」
起き上がれない。
殺したくて、殺したくて仕方がないのに、この全身にのしかかる奇妙な重圧に耐え切れない。
「何を、したっ!?」
言葉を出す事にも重圧がかかってくる。
かろうじて出せた言葉があまりに弱々しくて、それでいて身体は動かなくて、悔しさが溢れてくる。
「“氷結の魔女”であるブツに丸腰であるはずないだろうぅぅ。これは我々の秘密結界に決まっているさぁ。
魔力聖珠専用のなぁぁぁ!!」