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ようこそ異世界へ 3

王様が護衛の騎士と共に部屋を出ると、それを合図に周りに居た人々がぞろぞろと退出しはじめた。


残されたのは、私、王女様、王女様のお付きの侍女3人、それと扉で睨みを効かす護衛の男2人である。

銀髪青年も王様と一緒に出て行ってしまった。


「わたくし達も部屋を変えましょうか。ここでは落ち着かないでしょう」


「あー……その前に、この机はどうなるんでしょう?」


一緒に異世界召喚された愛すべき勉強机は、わたしの尻を乗せたまま、変わり無く部屋の中央に鎮座している。

特別価値のあるものではないが、元の世界から持ってきた唯一のものだ。処分されたらかなわない。

なにより、この机の引き出しの中には、私の子供ともいえる作品達が詰まっているのだ。

興味本位に誰かに見られたら、今後の私の異世界生活に差し障りがあるかもしれない。


「宜しければ、リオ様のお部屋に運ばせましょうか?部屋は……そうですわね、輝きの間がいいわ。あそこならばわたくしの部屋からもそう遠くありませんし、きっとリオ様も気に入られるはずです」



桃色のふんわりしたドレスを着た王女様が、ニコニコと愛らしい笑みを浮べて手招いた。

見れば、いつの間にか窓辺に置かれたテーブルの上に、ティーセットが用意されている。

足が沈みそうなくらいモフモフな絨毯の上を歩いて王女様の正面に座ると、テーブルの側に控えていた侍女さんがお茶を注いでくれた。その流れるような無駄の無い手つきは、メイド喫茶のメイドさんとは風格が違う。もの凄くプロって感じだ。


「まずは自己紹介を。わたくしは、アルタヴェルガ王国第二王女、シェスティア・エルガルド・リル・アルタヴェルガと申します。どうぞティアとお呼び下さい」


うん、この国の人の名前がやたら長いのはよく分かった。ありがたくティアと呼ばせてもらおう。


「よろしくティア。わたしは一ノ瀬莉緒…えーと、こっち風に言うとリオ・イチノセかな」


「まぁ!リオ様とおっしゃるのですか。このアルタヴェルガには、リオ様と同じ名前のお花がありますのよ。紫色のとても綺麗なお花ですの。よければ今度お見せしますわね」


まるで宝物を見付けたみたいに瞳を輝かせたティアは、すぐに表情を戻してコホンと一つ咳払いをした。


「あの、リオ様。わたくし実は少々気になっていることが……」


言い淀むティアに、わたしはハッと目を見開いた。


「……まさか!この召喚の事故には何かしらの陰謀が隠されているとか!?」


「そ、そんなっ、違いますわ!」


「そうなの?」


「もちろんですっ。そうではなくて、その…リオ様が身につけていらっしゃるお召し物のことです。リオ様のお国では、女性がそのような格好をされるのは普通の事なのでしょうか?」


「格好って?」


「だからその、……そういう足が見えるような裾の短いお召し物のことです」


ティアはカッと顔を赤らめ、両手をほほに当てて俯いた。

えーと、なんなんだ?その反応は。ごめん、まったく理解出来ないや。


「別に、変なところはないと思うんだけど」


わたしが今着ているのは、近所のスーパーでママが買ってきたスウェットの上下だ。

膝丈のパンツなので、確かにティアが言うように足は多少露出しているが、そんな歩く強制わいせつ罪みたいな格好ではない。

色はねずみ色だし、だいぶくたびれているので、ティアからすれば乞食のように見える可能性はあるが。


「あっ、もしかして。この国では足を出すのがNGだったりする?」


「えぬじー?」


「えっと、やっちゃいけない事っていう意味」


「いえ、特にやってはいけない、という事ではないですけれど、その…はしたないですし…」


なるほど、そういうこと。

確かにティアも侍女の3人も、足がきっちり踝まで隠れている。

この国の人の価値観じゃ、へそ出しやホットパンツで普通に外を出歩く日本の女の子は、ハレンチ極まりない露出狂ということになるのだろうか。


「まぁ、ほら、わたしの服のことはこの際横に置いといて、ティアには他に色々と聞きたいことがーーー」


「そうですわ!」


突然ティアが立ち上がった。


「わたくしのドレスを今すぐ持ってこさせましょう。袖を通していないものが沢山ありますの。背丈もそれほど変わりませんし、リオ様ならきっとお似合いになるわ」


「えっ?」


「遠慮なんてなさらないで。あぁ、どんな色のものがいいかしら。リオ様は髪も瞳も夜の女神リセラのごとき漆黒であらせられるから、青系統のお色が合うのではないかしら」


あぁティアさん、すっごく目が輝いてますね。

でも、あなたのドレスは確実にわたしには合わない思うんですよ。

主に胸とウエストの部分においてですけど。(遠い目)

貧乳寸胴の幼児体型がそのドレスを着こなすなんて無理っす。マジ無理っす。


「……コホン、恐れながら姫様」


先程お茶を注いでくれた侍女が、うやうやしく口を開いた。


「まずは、リオ様が知りたいと思われるであろう事…召喚の術やリオ様が現れた時の経緯などをお話して差し上げたほうが宜しいかと存じます。お召し物に関しましては、早急に仕立屋を呼び、新しく作らせましょう」


ナイスっ侍女!グッジョブ侍女!


差し出がましい事を申しました、と侍女さんが頭を下げると、ティアは恥らうように頬を染め、そのまま椅子にストンと腰を下ろした。


「……駄目ですわね、わたくし。夢中になるとつい周りが見えなくなってしまって。ローラの言う通りです。申し訳ございませんでした、リオ様」


「ティア…」


「わたくしのドレスで間に合わせようなど、リオ様に失礼ですわよね。ローラの言う通り、直ぐに仕立屋をお呼びし、生地や形などリオ様に本当にお似合いになるものをーーーー」


そっちかよ!!!


「えーと、ティア、その気持ちだけで十分だから。それより召喚の事故ってのが起きた時の事が知りたいんだけど、一体何があったのかな」


慌てて口を挟むと、ティアは少し残念そうな顔をしたが、直ぐに表情を戻し、静かに語り始めた。


「そう…あの時は確かーーーー」


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