ようこそ異世界へ 2
召喚。事故。帰れない。
召喚。事故。帰れない。
三つの単語が、グルグルと頭を廻る。
視線を下に向ければ、愛用の勉強机が目に入った。
何も変わらない、やたらとデカくて古臭い、いつも通りの見慣れた机だ。
こうして視界を机の上のみにとどめていると、自分が今異世界にいるだなんてとても信じられなかった。
「此度の事は、全てこちらの責任である。そなたには不自由のないよう出来る限り取り計らう故、安心するがよい」
影がさし、ふと顔を上げると、いつの間にかすぐ側に立派なヒゲを蓄えたオジサンが立っていた。
年齢はよく分からないが50歳くらいだろうか?髪と髭は濃い金髪で、瞳は綺麗なエメラルドグリーン。
周りの人に比べても、一際豪奢な格好をしている。
「わしは、ルードルフィ・エルガルド・ソル・アルタヴェルガ。このアルタヴェルガの王である」
王様!!
「そなたは名を何と申す?」
「えっと……」
王様相手に名乗るのだから、椅子から立ったほうがいいのだろうか?
もしくは跪いたりしなくてはいけないのだろうか、と一瞬色々考えてしまったが、こっちは被害者の立場なんだからまぁいいかと、座ったまま答えた。
「一ノ瀬莉緒です。こちら風に言うならリオ・イチノセですけど」
「リオか……突然の事でそなたも混乱しておろう。部屋を用意す故一旦休むがよい。先程も言うたが、こうなったのもこちらの責任。そなたには出来る限りの事はしたいと思っておる。案ずるな」
簡単に言えば「悪いようにはしないぞ」ということか。
どうやら衣食住の心配はしなくていいらしい。
身一つでほっぽり出されることはなさそうだと分かり、少し安心する。
「父上!」
その時、人垣の向こうから鈴を鳴らしたような声があがった。次の瞬間、人垣がさっと割れる。
近づいて来たのは、流れる金髪が美しい、まるで妖精のような美少女であった。
「事の次第を説明するお役目を、このティアにお与え下さいませ。いきなり見知らぬ場所へ連れてこられたのです。さぞ心細い思いをしていることでしょう。見れば、わたくしとあまり年も変わらぬ様子。娘同士の方が心安いのではないかと思います。そもそも今回の事は、わたくしの誕生祝いの場で起こったこと。わたくしに出来る事があるのならば、誠心誠意をもってして差し上げたいのです」
美少女は私と目が合うと、安心させるようにニコリと微笑んだ。
父上ってことは、この美少女は王女様か。
けぶる睫毛に薔薇色の頬、ふんわりと腰まで流れる髪はハチミツ色。瞳は王様と同じエメラルドグリーン。その可憐な造作は、まるで精巧に出来たビスクドールのようだ。
しかも、なんだか花のようないい匂いがする。もし自分が男だったら、この瞬間惚れていただろう。
「うむ、確かに娘同士のほうが気も安らぐかもしれぬが……。そうだな、この場はお前に任せようティア。だが、あまり気負い過ぎるのではないぞ。無理のきく身体ではないのだからな」
「わたくしは大丈夫ですわ。ただお話しをするだけですもの」
王様は一瞬何か言いかけたが、言葉を飲み込むと、固唾を飲んで見守っているギャラリーに向き直った。
「今宵はこれでお開きとする。皆のもの大儀であった」
人々が一斉に王様へ頭を下げた。
「リオ・イチノセよ」
「は、はい」
「不測の出来事あるが、我が王国は其方を歓迎しよう。そうだな……ルーラレイト卿を其方の後見とする。卿もそれでよいな?」
「仰せのままに」
王様の言葉に、銀髪青年が頭を下げた。