ようこそ異世界へ 1
人間、あまりに想像外の事が起きると、頭が働かなくなるらしい。
とりあえず言いたいのは、「ここはどこ?」だ。
どこかの宮殿の一室のような、やたら豪華な部屋に私は居た。そのうえ、見知らぬ外国人達に囲まれている。
とりあえず、お菓子を取ろうと間抜けに上げたままの左手を、そのまま頬に持ってきて抓ってみた。……痛い。
これはアレだろうか、大掛かりなドッキリ的なものだろうか。そのうちプラカードを持った陽気な人が現れて、この状況を説明してくれるのだろうか。
見渡すと、誰も彼もがポカンと口を開いて私を凝視していた。
全員まるで中世ヨーロッパの貴族のような格好をしている。
もしかしたら、どこかのコスプレ会場に紛れ混んでしまったのかもしれない。
その時、近くにいた男がすっと進み出た。
「私は青の宮廷魔術師、エルレイディオ・ルーラレイトといいます。私の言葉が解りますか?」
私の目から視線を逸らさず、真っ直ぐ見つめてくる瞳は、美しいアイスブルー。
年の頃は20代前半位だろうか。
とんでもない美形である。
肩にかからないくらいの髪は、艶々キラキラの銀髪。
絶妙に配置された全てのパーツが完璧で、男臭さはあまり無く、まるで精巧に造られた人形のようだ。
是非とも漫画のモデルにしたい容姿である。
とにかく、一人でも日本語が通じる人がいてよかった。
「あの、ここはどこなんでしょうか?家に帰りたいんですけど」
「申し訳ありませんが、それは無理です」
「………………は?」
なにやら理解し難い言葉が聞こえたような気がするが、幻聴だろうか?
「よく聞いて下さい。貴女は、私と赤の魔術師の召喚術の事故により、誤ってこの世界に召喚されてしまいました。事故による召喚故、貴女を戻す手立てがありません」
ファンタジーな単語の羅列に、頭がクラクラする。
誰かがすぐに「なーんちゃってね」とか言ってツッコんでくれるのを待ったが、誰も何も言わなかった。
重苦しい空気だけが充満している。
「此処は一体どこなんですか?」
もう一度、問う。
考えなくない可能性が、脳裏をよぎる。
銀髪美形が、まるで死刑宣告のようにゆっくりと言葉を紡いだ。
「ここはレスタリア大陸の西、アルタヴェルガ王国……貴女のいた世界とは別の世界ですよ」