伝説屋敷
これは、とある人から聞いた物語。
その語り部と内容に関する、記録の一篇。
あなたも共にこの場へ居合わせて、耳を傾けているかのように読んでくださったら、幸いである。
いやあ、久々にこのあたりへ戻ってきたけれど、だいぶ建物も様変わりしたねえ。
大きいものばかりじゃない。個人商店のあとが駐車場になっているとかでも、見える景色がだいぶ変わって新鮮に思えるよ。他の変化した景色と合わさってね。
逆に新しく建ったものもあるなあ。ひと昔前は田んぼだったところに一軒家が連なっていると、だいぶ雰囲気が変わってくる。時代が進んでいるんだと感じる反面、もうあのときの景色は見られないのかな、などと感傷にひたってしまったり。
去るものは日々にうとし、というと少し変かもしれないけれど、振り返ることしかできなくなったものは、本当にそれが実在したのだろうかと、不安になってしまう。
たとえばそうだな……「伝説屋敷」て、つぶらやくん覚えているかい?
――え? 覚えていない?
うーん、君とも一緒にいった記憶があるのだけど、本当に?
実は他の地元民の友達にも尋ねたんだけど、みんな伝説屋敷のことが頭から抜けているらしくって、どうにも不思議なんだよね。僕の勝手な思い違いだろうか。
ひょっとすると、つぶらやくんなら思い当たるところがあるんじゃないかと期待したけれど……う~ん、ちょっと時間あるかい。
伝説屋敷のある、いや、あった場所に行ってみないか?
着くまでの間に、伝説屋敷の話をおさらいしておこう。
ひとことでいうと、そこは都市伝説に会える場所として、僕たちに重宝されていた。
所有者は年配の好事家さんで、伝説屋敷はその人の敷地内にある古いお屋敷だったんだよ。君も含めて、みんな覚えていないようだったけれど。
そこでは、このあたりの伝説を再現したものを展示していて、ちょっとした遊び場としても開放されていた。
伝統的なコマとかメンコとか、あそこ以外じゃそうそう見かけることはなくなっていただろう? それらをじかに触れて遊ぶことができたけれど、君たちの本命はそこじゃなかった。
それが怪談・都市伝説コーナー。僕たちの都市伝説知識もあそこで学んだものが多かったっけ。
口裂け女にテケテケ、トイレの花子さんに……赤い子や白色壊光もだったかなあ。
たぶん、おじさんもあそこに一番力入れてたんじゃない? 等身大の人形に、オリジナルの再現VTRのビデオを流すとか、とんでもないコネを持っていたんじゃないかな。
おかげで僕たちも、一般常識のノリでこれらの知識を摂取することができ、お話を楽しむことができるようになった、というわけさ。
――なに? 実際に助かったケースもあった?
それはそれは。得難い経験ができて良かったじゃないか。
と、もうすぐ着くね。このあたりだったかな。
いや~、ここは打って変わって、本当に何もなくなっちゃったね。
敷かれた砂利たちと、立ち入り禁止のロープが渡されるばかり。これも盛者必衰のことわりってやつかな。
ここの好事家のおじさん。僕たちがここを離れたあとで、どうなったかっていうのは聞いたことあるかい? ないかな?
どうやらね、場所を移すってことらしいよ。引っ越すような感じ。
もっとね、伝えないといけないとかで。どこかへ移っていったんだって。きっとどこかで構えていると思うよ伝説屋敷をさ。
さて……じゃあ、僕もここでお暇しようかな。
ん? 気づいていなかったのかい?
僕はね、君がいつぞや屋敷に来たときに、誤って飲み込んじゃったほこりの一部……とはいっても、ごくごく小さいやつだったから君は気づいていなかったかもね。
都市伝説コーナーにあっただろ? ドッペルさんの話。
ドッペルゲンガ―とは別に生まれる、自分のそっくりさん。それは自分の中へ誤って入り込んだ外よりの生命体が免疫機能による排除などをかいくぐり、長年を生きたもの。
それが生まれた地に戻ってきた時に、現れやすいってさ。
そ、僕がそのドッペルさん。帰ってきたかったんだよ、ここに。
ああ、心配しなくていいよ。君をどうこうしようという気はない。
君を通して世界のことも友達のことも、ある程度は知ることができた。ここから好きに生きていくさ。のんびりしながらね。
君も気にするな。とはいっても、この話も僕がほこりへいったん戻る時に、忘れてしまうだろうけど……。
――え? メモしてネタにするって?
ははは、やっぱ妙なやつだよ君は。自分の記憶さえもあやふやな記録に頼って、ものを書くのか。
でも、そうやって残されてきて、屋敷に飾られたものもあったのだろうね。
どこかの誰かにとっての伝説ができることを願っているよ。




