9話 覇王の凱旋と、新たな不良債権
王宮での「交渉(蹂躙)」を終え、私は王都の街中を馬車で移動していた。
窓の外を見れば、そこかしこに「ローゼン・オイル」の看板が立ち、商人たちが私の名前を冠した新商品を競って売り出している。
「……ふん。市場が私を求めている。心地よい景色だわ」
「流石ですわ、セシリア様! 王太子殿下をあんなにコテンパンにするなんて!」
向かいの席で、リリィが目を輝かせながら私にすり寄ってきた。
……そう、リリィだ。彼女はエリオットを見限り、交渉の直後に「私もセシリア様の下で働きたいですぅ!」と泣きついてきたのだ。
「寄るな、リリィ。貴女のあざとい香水の匂いで、私の経済分析が鈍るわ。……それに、貴女を雇うメリットが今のところ見当たらないのだけど?」
「そんなぁ! 私、お茶を淹れるのと、男性を油断させるのだけは得意なんです! セシリア様の覇道の『潤滑油』にしてください!」
「……不採用。と言いたいけれど、広報の捨て駒くらいには使えるかしら。マックス、彼女を『窓際族』のさらに外側に配置しておいて」
「承知いたしました、CEO」
馬車が王都の正門に差し掛かったとき。
凄まじい勢いで追いかけてくる数騎の影があった。
「セシリア嬢! 待ってくれ!」
「セシリア! 私を置いていくな!」
アルヴィス、ディートリヒ、そしてカイル。
王国を支えるはずの若き天才たちが、なりふり構わず馬を飛ばしてくる。
「……何よ。用件は終わったはずよ? 債権の回収は計画通り進んでいるわ」
馬車を止めさせて外に出ると、彼らは一斉に馬から降り、私の前に跪いた。
「……俺は悟ったんだ。王宮の腐った空気の中にいても、俺の剣は錆びるだけだ。セシリア、君の作る『新しい世界』。その最前線で、俺の筋肉を使い潰してほしい!」
「アルヴィス……貴方、また筋肉の話? 効率が悪すぎるわ」
「私は、君のその冷徹な合理性に恋をしたのだ。……いや、敬服したと言い換えてもいい。カイルと共に、君の帝国の法典を整備させてくれ」
「……殿下に仕えるより、セシリア様に搾取される方が、よほどクリエイティブな人生を送れると確信しました。……どうか、僕を君の『資産』に加えてください」
……溜息。
前世でも、有能だが扱いにくい部下はたくさんいた。だが、ここまで「自分を酷使してくれ」と願う変態的な集団は初めてだ。
「……いいでしょう。ただし、私の下で働く以上、一分の無駄も、一ゴルドの損失も許しませんわよ。……休日は年に一日。給与は成果報酬制。……文句はあるかしら?」
「「「ありません!!!」」」
三人の返事が、王都の空に響き渡る。
私は彼らを一瞥もせず、馬車に戻った。
「マックス。……予定を変更よ。辺境の領主館を解体して、この大陸で一番高い『ローゼン・タワー』を建設しなさい。……頂上から、私の帝国を見下ろすためにね」
「畏まりました。……いやはや、CEOの覇道は、止まる所を知りませんな」
馬車は夕日に向かって走り出す。
その背後には、キラキラした瞳で主を追うイケメン軍団と、ちゃっかり馬車にしがみついているリリィの姿があった。




