表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若 ちい


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

6/10

6話 黒い液体は「帝国の血液」

ローゼンブルク領主館。かつてはカビ臭い書類が散乱していた執務室は、今や最新の魔導計算機と、分刻みで更新される各地の相場表が壁を埋め尽くす「司令室」へと変貌していた。


「セシリア様、失礼します。例の『検体』の精製が完了いたしました」


入ってきたのは、元王宮魔導師でありながら、あまりに理屈っぽすぎて追放されていた青年、ヨハンだ。彼もまた、私の「高給と知的刺激」という餌に釣られた有能なはみ出し者の一人である。


彼が差し出した小瓶の中には、ドロリとした不気味な黒い液体が揺れていた。


「……これよ。これこそが、この国の、いいえ世界のパワーバランスを根底から覆す『帝国の血液』だわ」


私はその瓶を掲げ、窓から差し込む夕日に透かした。

 この世界では、魔導具の動力源は「魔石」が一般的だ。しかし、魔石は天然資源であり、採掘コストが高いうえに埋蔵量に限りがある。結果として、魔導具は貴族や富豪だけの贅沢品となっていた。


だが、このローゼンブルク領の地下に眠っていたのは、前世で言うところの「石油」に近い性質を持つ魔導原油だった。


「ヨハン、燃焼テストの結果は?」


「驚異的です。既存の最上級魔石と比較して、体積あたりの出力エネルギーは約十二倍。しかも、燃焼後の魔力残渣が極めて少なく、魔導回路への負荷も無視できるレベルです。……セシリア様、貴女は一体どこでこんな術式を学ばれたのですか?」


「学んだのではないわ。導き出したのよ。……既存の魔石ギルドが利権を守るために隠蔽していた物理法則をね」


私は不敵に微笑んだ。

 前世でエネルギー関連の多国籍企業を相手に立ち回った経験が、この異世界で火を噴く。


「ギルバート、次のステップへ移るわよ。この液体を『ローゼン・オイル』と命名し、まずは領内の全家庭に無償で配布しなさい」


「む、無償ですか!? セシリア様、それでは利益が……」


老代官ギルバートが、心臓を押さえながら絶叫する。


「目先の小銭にこだわってどうするの? これは『インフラの独占』よ。一度この便利さと安さを知れば、人間は二度と不便な生活には戻れない。市場を完全に依存させてから、王都の魔石市場を叩き潰す……これが私の戦略スキームよ」


その時、ドカドカと騒々しい足音が響き、執務室の扉が勢いよく開いた。


「セシリア様! 本日の騎士団……いいえ、『土木作業大隊』のノルマ、完了しました!」


現れたのは、上半身裸に作業ズボン一丁という、およそ貴公子とは思えない姿のアルヴィスだった。その後ろには、同じく泥にまみれたディートリヒが、なぜか誇らしげに巨大なスコップを担いで立っている。


「寄るなイケメン! 汗の臭いで私の執務室の空気品質エアクオリティが下がるわ! あと、服を着なさい。視覚的なノイズよ」


「クッ……相変わらず厳しい。だが、その冷たい一喝が、疲れた筋肉に染み渡る……!」


アルヴィスが恍惚とした表情で胸筋をピクつかせる。


「セシリア、報告だ。隣接する森の開墾は予定より三時間早く終わった。……それで、次は何をすればいい? 木をなぎ倒すか? それとも、あの黒い泥水を運ぶパイプラインを素手で埋めるか?」


ディートリヒの目も、完全に「労働の悦び」に毒されていた。

 かつて私を「悪女」と蔑んでいた高潔な騎士たちは、今や私の掲げる「超効率的経営」という宗教の熱狂的な信者へと成り下がっている。


「……ちょうどいいわ。二人には『広報サンドイッチマン』になってもらうわよ」


「コウホウ……? サンドイッチ……?」


「ええ。貴方たちのその無駄に整った顔面と、筋肉という名の広告資源を活用して、王都に『ローゼン・オイル』の噂をバラ撒いてきなさい」


私は二人に、漆黒に塗り固められた美しいランプを手渡した。


「これは、ローゼンブルクの『光』よ。……これを王都の広場で掲げ、こう言いなさい。『セシリア様は、闇を払う女神である』と」


「……女神。ああ、その通りだ。セシリア様こそが、俺たちの魂を導く真の主……!」

「王太子などという矮小な男に仕えていたのが恥ずかしい。セシリア、君の言葉を世界に刻んでくる」


二人は私の机の前に跪き、恭しく頭を垂れた。

 私はその光景を冷めた目で見下ろしながら、ペンを走らせる。


「……マックス、追加の指示よ。彼らの出発に合わせて、王都の有力商人に『魔石の先物売り』を仕掛けなさい。一週間後、王都の魔石価格は暴落するわ。……その時が、ローゼンブルクが王国の首根っこを掴む瞬間よ」


「御意に、CEO」


セシリアの計算通り、歯車は狂いなく回り始めた。

 恋に浮かれ、甘い言葉を囁き合う王太子たちの頭上で、巨大な「経済」という名のハンマーが振り下ろされようとしていることなど、まだ誰も知る由もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ