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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若 ちい


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5話 覇道への第一歩:イケメン騎士団長の勘違い

領地到着から一週間。

 ローゼンブルク領は、劇的な変貌を遂げようとしていた。


「おい! そこ、資材の搬入ルートが三センチずれているわ! 往復のロスが積もり積もれば、一ヶ月で一時間の損失よ! 直しなさい!」


私の怒声が、建設中の魔導蒸気ポンプ小屋に響き渡る。

 領民たちは、かつての死んだ魚のような目ではなく、今は軍隊のような規律正しさでテキパキと動いていた。なぜなら、私の指示通りに動けば「腹一杯の飯」と「安全な寝床」が確実に手に入るという、前世のホワイト企業も驚きの福利厚生を実感したからだ。


そんな中、土煙を上げて一隊の騎士たちが領地に乗り込んできた。


「セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ! 王都より、貴女の様子を……な、なんだこれは!?」


先頭に立っていたのは、銀髪をなびかせた怜悧な美形――王宮騎士団の副団長、ディートリヒだった。

 彼はエリオット王子の側近であり、私を「高慢な悪女」として誰よりも嫌っていたはずの男だ。


「あら、王宮の犬が何の御用かしら? 今、私は分刻みのスケジュールで動いているの。挨拶なら三秒以内で済ませてくださる?」


「不遜な……! 貴女が領地で横暴を働いているとの報告を受け、調査に来たのだ。……だが、この活気は何だ? 魔物の死骸が等間隔に並べられ、住民たちが異常な速さで石を運んでいる……。貴女、彼らにどんな呪いをかけた!?」


ディートリヒが剣を抜き放ち、私に切っ先を向ける。

 その瞬間。


「……そこまでだ、ディートリヒ」


横から現れたのは、ボロボロのシャツ一枚になり、泥にまみれて巨大な岩を担いだアルヴィスだった。


「……ア、アルヴィス!? 貴様、近衛の誇りはどうした! なぜそんな無様な格好で岩を運んでいる!」


「無様だと? 笑わせるな。俺は今、人生で最も『充実』している」


アルヴィスは岩をドスンと地面に置くと、恍惚とした表情で自分の筋肉を見つめた。


「セシリア様は仰った。『貴方の筋肉は、王都の飾りではなく、この地の礎になるためにある』と。俺は今、彼女の緻密な計算に基づき、最適な角度で負荷をかけ、領地の防波堤を作っている。……これは、愛の共同作業だ(※ただの重労働です)」


「愛だと!? 貴様、正気か……っ」


ディートリヒが絶句する。

 私はため息をつき、ディートリヒの目の前まで歩み寄った。そして、彼の持っている剣の「重さ」を指先で弾く。


「ディートリヒ様。そんなに暇なら、貴方も手伝ったらどうです? その銀髪、夜の工事現場で反射材として使えそうですわね。……今のこの領地には、貴方のような『立っているだけの置物』に支払うコストはありませんの」


「お、置物……っ! この私を!」


「ええ、置物。あるいは、私の覇道の邪魔をする不法投棄物。……どちらか選ばせてあげますわ。三、二——」


「……待て! やってやろうじゃないか! 私が貴女の不正を暴くまで、ここで監視してやる!」


プライドを刺激されたディートリヒは、怒りに任せて上着を脱ぎ捨てた。

 私は内心でほくそ笑む。


(よし、高給取りの王宮騎士を、また一人タダ働き(インターン)で確保したわ。人件費削減、順調ね)


夕暮れ時。

 泥まみれになりながら、なぜか「セシリア様のために効率を上げるぞ!」と競い合うアルヴィスとディートリヒ。

 それを見守る領民たちは、「ああ、あの高貴な方々までもが、セシリア様の崇高な理想に心酔している……」と、さらに勘違いを深めていく。


私は領主館のテラスから、夕日に染まる領地を見下ろした。


「ふふ……。いいわ、この調子よ。まずはこの領地を、王都を凌駕する『独立経済圏』にする。そして、私を捨てたあのバカ息子たちが、泣いて縋ってきても絶対に許さない。……私の辞書に『情け』という文字はないのだから」


セシリアの瞳には、夜明けよりも明るい「覇道」の光が宿っていた。

 イケメンたちの熱すぎる視線と、領民たちの狂信的な忠誠を背に受けながら、悪役令嬢による「世界掌握」の序章は、ここに幕を閉じる。

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