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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若 ちい


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3話 実家への帰還、あるいは経営権の奪取

夜会会場を飛び出し、馬車に揺られること三十分。

 辿り着いたのは、王都の一等地にそびえ立つローゼンバーグ公爵邸だ。


深夜にもかかわらず、屋敷の灯りはこう々と点いていた。玄関をくぐるなり、重々しい足音が響く。


「セシリア! 戻ったか! 卒業パーティーで婚約破棄を言い渡されたというのは本当か!?」


現れたのは、私の父であり現当主のヴィクトール・ヴァン・ローゼンバーグ公爵。

 熊のような巨体と、厳格な面持ち。彼は娘の醜聞を聞きつけ、今にも王宮へ怒鳴り込みに行かんばかりの形相だった。


「ええ、本当ですわ。お父様、夜分に騒がせて申し訳ありません」


「申し訳ありませんだと!? 貴様、公爵家の面汚しめ! 王家に捨てられ、これからどうするつもりだ! 修道院へ行く覚悟はできているのか!」


父の怒声。前世の私なら、ここで震え上がって謝罪していただろう。

 だが、今の私にとって、この「父」という存在は——**『交渉相手クライアント』**でしかない。


「修道院? いえいえ、そんな生産性の低い場所、私のキャリアプランには入っていませんわ」


「……何だと?」


「お父様。単刀直入に申し上げます。今回の婚約破棄、我が公爵家にとっては『絶好の売り時』です」


私は父の書斎へスタスタと歩を進め、勝手にソファに腰を下ろした。呆然とする父を尻目に、机の上の地図を広げる。


「王太子エリオットは、感情に任せて最大株主である我が家を切り捨てました。これは契約違反にあたります。今なら、王家に対して莫大な『違約金』と『利権の譲渡』を要求できますわ。……お父様、泥舟おうじと一緒に沈むより、今のうちに債権を回収して独立したほうが賢明だと思いませんか?」


「……セシリア、お前、本当に私の娘か? 憑き物でも落ちたような……いや、何かが乗り移ったのか?」


「強いて言えば、『合理性』が乗り移りましたの。……さて、本題です」


私は地図の一角、王国の最果てにある広大な土地を指差した。

 そこは、魔物が跋扈し、土地は痩せ、犯罪者の流刑地とさえ言われる呪われた領地——「ローゼンブルク領」だ。


「ここを、私にください。相続権の放棄と引き換えに、この領地の完全なる統治権を要求します」


「正気か!? あそこは万年赤字のゴミ溜めだぞ! 騎士団ですら維持を諦めた場所だ!」


「ゴミ溜めかどうかは、私が決めます。お父様、貴方は有能な経営者ですが、リスクを取りすぎる癖がある。ここは私に投資してみませんか? 私があの地を『王国一の納税額を誇る経済特区』に変えてみせましょう。……失敗したら、その時は好きに修道院へ叩き込んでくださって結構ですわ」


私は不敵に微笑んだ。

 父は、娘の瞳に宿る圧倒的な「自信」に気圧されたように、数秒間沈黙した。


「……ふん。いいだろう。どうせ持て余していた土地だ。好きにするがいい。だが、人手はどうする? 誰もお前についていく者など——」


「それは心配ご無用です。……マックス、入りなさい」


私が指を鳴らすと、扉の影から一人の老執事が姿を現した。彼は屋敷で最も「口うるさく、効率に厳しい」と煙たがられていたベテランだ。


「お呼びでございますか、セシリアお嬢様。……いえ、『CEO』とお呼びすべきでしょうか」


「ええ、どちらでもいいわ。マックス、例の『有能だがはみ出し者』のリストは?」


「準備できております。給与三倍の提示に、全員が二つ返事でついてくるでしょう」


父が目を見開く。私が短時間で、屋敷内の「不遇な有能者」たちを一本釣りしていたことに驚愕したらしい。


「さあ、お父様。書類にサインを。私は明日、王都を発ちます」


「ま、待て……セシリア。お前、本当に……」


父は、震える手で譲渡書類にペンを走らせた。

 彼の目には、もはや娘を不憫に思う色はなかった。むしろ、恐るべき新進気鋭の「怪物」を見るような畏怖が混じっていた。


「……行け。ローゼンバーグの血が、その地をどう変えるか……見せてもらうぞ」


こうして私は、わずか一晩で「没落予定の令嬢」から「領地の絶対支配者」へとジョブチェンジを果たした。


翌朝。

 荷馬車を連ねて王都の門をくぐろうとした私の前に、土煙を上げて一騎の馬が駆け寄ってきた。


「待ってくれ! セシリア嬢!」


現れたのは、昨夜、再起不能なほど言葉で叩きのめしたはずの騎士・アルヴィスだった。

 鎧もつけず、息を切らした彼は、私の馬車の前で勢いよく飛び降りた。


(……チッ、また不良債権が来たわね。時間の無駄だわ)


「何の用かしら、アルヴィス様。これ以上私に構うなら、不法占拠で訴えますわよ?」


私が冷たく言い放つと、アルヴィスはなぜか――膝をついた。


「……昨夜の言葉、一晩中考えた。俺は、自分の甘さを知った。貴女のような高潔で、真実を見抜く女性にこそ、俺の剣を捧げるべきだと確信したんだ!」


「は?」


「貴女が行く辺境は危険だ! 俺を、貴女の『盾』として連れて行ってくれ! 無給で構わない! 貴女の厳しい指導を仰ぎたいんだ!」


彼の瞳は、獲物を狙う獣……ではなく、崇高な師を仰ぐ信者のようにキラキラと輝いている。


(無給? 労働基準法も真っ青のやりがい搾取を自分から? ……いえ、待てよ。近衛騎士団トップの戦力を人件費ゼロで使えるのは、経営的にはアリかしら)


「……いいでしょう。ただし、私は貴方を『騎士』としてではなく、『警備用重機』として扱いますわよ。いいかしら?」


「重機……!? よく分からんが、光栄だ! どこまでもついていくぞ、セシリア!」


こうして、望んでもいない護衛を一人引き連れ、私の「覇道」は王都を後にした。

 目指すは、最果ての魔境。

 そこが私の、帝国の礎となる場所。

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