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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若ちい
第4章 隣国ガリアの不当介入と関税戦争

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20話 不毛なプライドの清算

砂漠の熱風が、黄金の都エリュシオンの王宮を撫でていく。だが、つい数日前までこの街を支配していた「傲慢な熱気」は、今や完全に冷え切っていた。

 商人王ザッハークが泣きながらサインした「国家譲渡契約書」――もとい「ローゼン・ホールディングスによる全資産買収合意書」が、私のデスクの上で鈍い光を放っている。


「……マックス。フェルゼン王立銀行の金庫、中身の精査は終わったかしら?」


私が冷徹に問いかけると、マックスは眉一つ動かさずにホログラムの数値をスワイプした。


「完了しております、CEO。金塊の総重量、三千二百トン。……ですが、不純物が混ざった粗悪品が二割。さらに、過去の貿易で他国から騙し取った、魔力伝導率の極めて低い『紛い物の金』が三割。……実効資産価値としては、帳簿上の半分以下ですな」


「……プッ、あははは! 傑作ね。世界一の金保有量を誇っていた国が、実は半分が『ゴミ』だったなんて。ザッハークの経営監査、ザルにも程があるわ。……いいわ、マックス。その純度の低い金は、すべて我が社の魔導回路の『安価なメッキ用』として再利用しなさい。……『黄金の都』の看板は、今日この瞬間をもって『ローゼン・マテリアル・リサイクルセンター』に掛け替えるのよ」


「承知いたしました。……元商人王のザッハーク氏はいかがいたしますか? 現在、王宮の裏で『これは夢だ』と叫びながら砂を食べておりますが」


「……非効率ね。砂を食べる暇があるなら、その強欲な指先を使って、我が社の『砂漠緑化事業・穴掘り担当』として再雇用なさい。……ああ、それから彼が溜め込んでいた絹のドレスや宝石類は、リリィに渡してちょうだい。……あの子の『あざとさ』を維持するための広告宣伝費として計上するわ」


その時、広間の巨大な扉が左右に開き、リリィが軽やかな足取りで入ってきた。

 彼女はフェルゼン特産の最高級香油をたっぷり染み込ませたハンカチを振り回し、計算し尽くされた可憐な笑みを浮かべている。


「セシリア様ぁ! 砂漠の女の子たち、みんなお肌がカサカサで可哀想だったので、私のアドバイスでスキンケア商品を試作してみましたぁ! 商品名は『悪役令嬢の涙――砂漠に降る慈悲の雫』ですっ! 三十ミリリットルで五万ゴルドに設定してみたんですけど、どうですかぁ?」


「……五万ゴルド? リリィ、貴女にしては弱気ね。……その成分に、我が領で精製した『高純度魔導グリセリン』を〇・一パーセント配合しなさい。……そして『これを塗らなければ、貴女の肌は一晩で砂漠のトカゲと同じ資産価値になります』という恐怖訴求を広告に載せるのよ。……価格は倍の一〇万ゴルド。……売上の二割は、貴女の報酬コミッションにしてあげるわ」


「ひぇぇ……セシリア様、やっぱり悪魔ですぅ! でも、売れちゃいそうだから怖いですねぇ!」


リリィはきゃあきゃあと喜びながら、再び広報活動(という名の市場独占)へと駆け出していった。

 彼女の「無自覚な搾取」は、私のロジカルな買収をソフトに包み込む、非常に優秀なマーケティングツールだ。


「……さて。カイル、貴方もそこに隠れていないで出てきたらどう?」


天井の梁から、影が溶け出すようにカイルが姿を現した。彼の漆黒の装束には、砂漠の砂一粒すらついていない。


「お見通しですか。……フェルゼン周辺の隠密ルート、すべて掌握しました。……隣接する『聖教国』が、我が社の急成長を『神への冒涜』として異端審問の準備を始めています。……暗殺者の派遣も検討しているようです」


「聖教国……。あそこのビジネスモデルは『形のない恐怖』を売って、現世の『形のある富』を吸い上げる最古のマルチ商法よね。……免罪符だなんて、そんなペーパーレス化もされていない不透明な証券、私の手でデジタル化(魔導化)して、市場から駆逐してあげるわ」


カイルはわずかに口角を上げた。

「……貴女に狙われた国は、神ですら破産を免れないようですね」


「寄るなイケメン! 貴方のその『影からの視線』、監視コストとして請求するわよ。……それより、次の聖教国への進路。……アルヴィスの様子はどうなっているの?」


「……。あちらです」


カイルが指差した窓の外――灼熱の砂漠のど真ん中では、アルヴィスが巨大な氷の塊を担いだまま、一心不乱にスクワットを繰り返していた。彼の周囲だけ、肉体から発せられる熱気で陽炎が立ち上っている。


「セシリア! 見てくれ! 氷が溶けるスピードを、俺の心拍数と同期させて計測しているぞ! 摂氏五十度の砂漠で冷気を維持する……これが愛の……筋肉の力だあああ!」


「……もう、救いようのない馬鹿ね。……マックス、彼のその熱量を回収して、今夜の王宮の『冷房代』に充当なさい。……一ワットも無駄にしないこと。……それが私の経営方針よ」


「イエス、CEO。……効率至上主義の神髄、身に沁みます」


私は、黄金の椅子に深く腰掛け、手元のクリスタル製タブレットを操作した。

 北の軍事大国ガリアは「労働力」として。

 南の商業国家フェルゼンは「資源」として。

 私のポートフォリオは、着実に拡大している。


だが、これはまだ序章に過ぎない。

 この大陸を、そしてこの世界を、一つの巨大な「黒字企業」へと作り変える。

 かつて私を「冷酷な悪役令嬢」と呼び、追放した連中に見せつけてあげるわ。

 感情に流される「愛」よりも、冷徹な「ロジック」の方が、よっぽど多くの人間を(強制的に)幸せにできるということを。


「……さあ、次の決算バトルへ行きましょう。……聖教国の神様。……貴方の管理する『魂の帳簿』、私がデバッグしてあげるわ」


私の不敵な笑い声が、静まり返った黄金の広間に響き渡る。

 夜の砂漠は、もはや恐怖の対象ではなく、私の覇道を照らす「管理された資産」として、ただ静かに広がっていた。

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