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寄るなイケメンっ!私は私の道を行くー覇道を極めし悪役令嬢ー  作者: 折若 ちい


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2話 寄るな無能、その時間がもったいない

「……セシリア、今なんと言った?」


静まり返った夜会会場で、エリオット王太子が間抜けな声を漏らした。

 私の放った「無能」という言葉が、よほど脳に響いたらしい。処理落ちした古い魔導具のように、彼は口をパクパクとさせている。


「耳までお悪いのですか? 補聴器の予算を国家予算に組み込むよう、財務卿に進言しておきますわ。……さて、長居は無用です。撤収しましょう」


私が踵を返そうとしたその時。

 ガシャリ、と重々しい金属音が響いた。


「待て! 不敬だぞ、セシリア嬢!」


立ち塞がったのは、先ほども口を出してきた近衛騎士団長の息子、アルヴィスだ。

 彼はその自慢の体躯で私の行く手を遮り、正義感に燃える瞳で私を見下ろした。その背後には、同じく「リリィ派」を公言する宰相の息子、カイルも控えている。


「殿下への無礼、そしてリリィを泣かせた罪……。公爵令嬢といえど、タダで帰すわけにはいかない。今すぐ跪いて謝罪しろ!」


アルヴィスが腰の剣の柄に手をかける。周囲の令嬢たちが「きゃあっ」と短い悲鳴を上げた。

 だが、私の心に湧き上がったのは恐怖ではなく、純然たる「苛立ち」だった。


(……ああ、本当に。この国の教育カリキュラムはどうなっているのかしら)


私はゆっくりと扇子を閉じ、アルヴィスを冷徹な眼差しで射抜いた。


「アルヴィス様。今すぐその手を剣から離しなさい。それとも、ここで私を斬るおつもり? 丸腰の、しかも王家への最大出資者の娘を?」


「それは……貴様が不遜な態度をとるからだ!」


「不遜? いいえ、これは『事実』の指摘ですわ。貴方は騎士団の次期エースと持て囃されていますが、昨月の演習報告書を拝見しました。……ひどいものですわね。補給路の確保を軽視し、突撃の勢いだけで勝とうとする。もしあれが実戦なら、貴方の部隊は三日で全滅、兵站の損失は国家予算の〇・五パーセントに相当します」


「な……っ、なぜ貴様が演習報告書の中身を……!?」


「数字は嘘をつきませんもの。我が家が納品している軍馬と食料の消費データを見れば、貴方の無能な指揮など一目瞭然です。……そんな低い生産性の殿方に跪く時間は、私の人生に一秒たりとも存在しませんわ」


次に、私は後ろで知的な笑みを浮かべていた宰相の息子、カイルに視線を移した。


「カイル様、貴方もです。隣の男爵令嬢に鼻の下を伸ばしている暇があるなら、現行の関税制度の欠陥を修正してはいかが? 貴方がリリィ様に贈ったその首飾り、密輸ルートのロンダリング品ですわよ。法を司る家の者が、犯罪組織の資金源に加担するなんて……滑稽を通り越して、もはやホラーですわね」


「……っ!?」


カイルの顔から余裕の笑みが消え、紙のように白くなった。


「さて。これで満足かしら? 私を足止めする一分ごとに、ローゼンバーグ家の損失は増え続け、それは巡り巡って貴方たちの首を絞める借金となる。……寄るなと言ったはずよ、イケメン(不良債権)共。私の視界に入るなら、せめて年利十パーセント以上の利益を生んでからになさい」


私はアルヴィスの横を、肩をかすめるようにして通り抜けた。

 彼らは一言も言い返せず、ただ呆然と立ち尽くしている。


会場を出ようとしたその時。

 背後から、リリィの震える声が響いた。


「セシリア様……っ! そんな、ひどいです! 皆さんは、私を守ろうとしてくれているだけなのに……! お金や数字が、そんなに大事なんですか!?」


お決まりのヒロイン台詞。

 私は足を止め、振り返らずに告げた。


「ええ、大事ですわ。愛ではお腹は膨れませんし、国の防衛もできませんもの。……リリィ様、貴女のその『愛され力』が、いつか帳簿上の赤字を埋められるようになるといいですわね。期待はしていませんが」


今度こそ、私は会場を後にした。

 夜風が心地よい。前世で数千人の社員を路頭に迷わせないために戦っていた頃に比べれば、こんなガキ共の相手など、赤子の手をひねるより容易い。


だが、私は気づいていなかった。


「……何だ、あの女……」


会場に残されたアルヴィスが、自らの震える手を見つめていたことに。


「……あんなにも正確に、俺の弱点を。……あんなにも鋭く、俺の存在を否定して……」


屈辱に震えているはずの彼の頬は、なぜか微かに上気していた。


「……あんなに厳しい言葉を投げかけられたのは、生まれて初めてだ。……セシリア、お前は……お前だけは、俺を『騎士団長の息子』としてではなく、一人の『戦士』として……(※勘違いです)」


そしてカイルもまた、眼鏡の奥の瞳を怪しく光らせていた。


「僕の不祥事を一瞬で見抜く観察眼……。リリィにはない、あの圧倒的な強者のオーラ。……ああ、素晴らしい。彼女に踏みにじられながら、共に国の再建を議論できたら、どんなに知的興奮を得られるだろうか……(※かなりの勘違いです)」


王太子エリオットに至っては、「無能……無能と言われた……この俺が……。だが、あの蔑むような瞳、悪くない……」などとブツブツ呟き始めている。


覇道を突き進もうとするセシリアの後ろで、重度の「勘違い」という名の猛毒が、攻略対象たちの脳を侵食し始めていた。

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