14話 覇道を阻む「鉄のカーテン」
北の軍事帝国ガリア。
彼らは、セシリアの経済支配を危惧し、ついに「物理的な市場介入」……すなわち武力による宣戦布告を行なった。
タワーに届けられた最後通牒には、傲慢な文字が並んでいた。
『セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。貴殿の魔導オイル独占は、世界の平穏を乱す暴挙である。……直ちに技術を無償開示し、全資産を我が帝国へ委ねよ。さもなくば、大陸最強の鉄騎兵一万が、貴殿の砂上の楼閣を粉砕するだろう』
私は、その紙を迷わず魔導シュレッダーに放り込み、細切れになった紙屑を窓からバラ撒いた。
「……武力? 暴力? 時代遅れも甚だしいわ。戦争なんて、現代においては最もコストパフォーマンスの悪い投資よ」
私は緊急の「経営戦略会議(軍事評議会)」を招集した。集まったのは、アルヴィス、ディートリヒ、カイル……そして、ゴミ拾いの作業着のまま、誇らしげに清掃用トングを手にしたエリオットだ。
「セシリア様。ガリアの鉄騎兵は、特殊な耐魔導合金で覆われた無敵の軍勢です。……俺が一人で、全員の鎧を剥ぎ取ってきましょうか?」
アルヴィスが、血管を浮き上がらせて進言する。
「……いいえ、アルヴィス。暴力はダメ。血を流せば、戦後処理の医療費と賠償金で利益が吹っ飛ぶわ。……ディートリヒ、ガリア帝国の主要取引銀行と、その出資者のリストを出して」
「すでに用意しております、セシリア。……彼らの軍資金の八割は、我が社の『ローゼン・カード』の決済ネットワークを経由しています」
「素晴らしいわ。……カイル、ガリアが使っている鉄騎兵の動力部。あれの特許権、昨日付けで私が買い取ったわね?」
「はい。ガリアの技術者が隠れて開発していた術式ですが、資金難に陥った彼らの下請け会社から、市場価格の三倍で強引に買収完了しました。……現時点で、ガリアの鉄騎兵が起動するたびに、我が社に一秒一〇〇ゴルドのライセンス料が発生する計算です」
私は不敵な笑みを浮かべ、エリオットに視線を向けた。
「エリオット。貴方は……そのトングを持って、ガリアの最前線キャンプへ行きなさい。そして、彼らが捨てたゴミを拾いながら、こう告げるのよ。『私の主人は、貴方たちの命に一ゴルドの価値も見出していない』とね。……時間を三時間だけ稼いできて」
「……ゴミ拾い外交か! なんという高度な戦略……! 行ってくるよ、セシリア! 君の冷たい言葉を、ガリアの皇帝に叩きつけてやる!」
エリオットが、ゴミ袋をなびかせて颯爽と走り去っていく。
「さあ、諸君。……戦争を始めましょう。ただし、剣ではなく『計算機』でね。……ガリア帝国の経済を、今日一日で倒産させてあげるわ」
私はキーボードに指を置いた。
ローゼンブルクの覇道は、今や一国の軍隊などという「小さな暴力」では止められない。
世界というシステムそのものを人質に取った、最凶の悪役令嬢による「経済制裁」の幕が上がった。




