10話 国家転覆の準備、完了
一ヶ月後。
ローゼンブルク領――いいえ、今は『ローゼンブルク経済特別帝国』と呼ばれるその地は、世界中の富が集まる中心地となっていた。
セシリアが発行した新紙幣「ローゼン」は、王国の貨幣を駆逐し、今や隣国でも「金の代わりにローゼンを貯めろ」と言われるほどの信用を得ている。
私は、完成したばかりの自社ビル、ローゼン・タワーの最上階から、眼下に広がる不夜城を眺めていた。
「……ふふ。ようやく、スタートラインに立ったわね」
手元の端末(魔導オイル駆動の計算機)には、周辺諸国の市場独占率が刻々と表示されている。
恋愛? 結婚?
そんな小さな幸せに興味はない。私は、この世界の理を私の「効率」で書き換える。それが私の、この世界への復讐であり、愛情だ。
カチャリ、と背後の扉が開く。
「セシリア様、本日の『罵倒タイム』……いいえ、経営会議のお時間です」
マックスが恭しく告げる。
そこには、以前にも増してやる気に満ち溢れた、アルヴィス、ディートリヒ、カイル、そしてなぜかエリオット王子までが混じっていた。
「……なぜエリオットがいるの?」
「セシリア! 私も、君の経済学を一から学び直すことにしたんだ! だから、まずはこの書類の山を、私に投げつけて叱ってくれ!」
「……寄るなイケメンっ!! 警備員! この不良在庫を今すぐシュレッダーにかけてきて!」
私の怒声がタワーに響き渡る。
だが、彼らは皆、幸せそうな顔で頭を下げた。
愛より強いのは、お金と、技術と、そして「勘違い」。
覇道を極めし悪役令嬢、セシリア・ヴァン・ローゼンバーグ。
彼女の「効率化」という名の世界征服は、まだ、始まったばかりなのだ。




