低層タワー攻略編
タワーと呼ばれるものが出現して約半世紀。現実世界は急激に変化していった。魔力や魔法、レベルなど空想の中のものが突如、溢れ出してきたのだ。
その恩恵を受ける人たちを探索者と呼び、その探索者がタワー内で得られる物資が新しい技術を生み、生活を豊かにしていった。そして、いつの頃からか、タワーの攻略自体が一種のエンターテイメントとして扱われるようになった。
そんな中、大和 友介は探索者ではなく、携帯電話向けのゲームプログラマーとして会社員を務めていた。特に未来への目標が無く、日々仕事をこなすだけ。背が低いことが少々コンプレックスな位で、平凡と呼べる男だった。
そんな彼にも昔は探索者へ憧れがあった。しかし、10年前に有名な探索者がタワー攻略中に命を落とすという事件があり、それをライブ配信で見ていた20才の俺は、探索者の仕事が命のやり取りであるという事実を突きつけられて、将来の選択肢として選ぶのに、二の足を踏んでしまったのだ。
それでも探索者へのあこがれは捨てきれなかったので、その気持ちをタワーの攻略配信を見ることで埋めている。その中では命の危機に会うことはあっても、命を落とす事は無くなっていた。今では安心して見ることが出来るエンターテイメントの一つになっている。
その中でも「安井都 さくら」さん、というのが今の推しである。さくらさんは、剣術の達人でもあるため立ち回りが美しく、見ている側も楽しめるのが特徴である。たまに、パーティーメンバーとのやり取りで抜けている所が出たりと、ギャップを感じるところがまた良い。
そうして、花粉が飛びきって太陽の暖かさを感じるようになった季節。何時ものように定時での退勤後、コンビニ弁当とご褒美のコンビニスイーツを買って帰り、夕食を食べながら配信を見て、週末の休日へ向けて布団に潜り込んだ。
週末のその日は、携帯の着信を知らせる振動で目が覚めた。目が覚めて間もない頭で携帯をみると、画面に表示されているのは「非通知」。非通知なら出なくてもいいだろう。と、無視を決め込んで二度寝しようとしたが、数分間、その振動が鳴り止むことは無かったので、諦めて通話に出ることにした。
「はい……。もしもし?」
『よかった……! 繋がった……!』
その相手の声は、安堵の声を発した。焦っているようだが、凛として快活さを感じさせる声色をしている。
「……どちら様でしょうか?」
布団に包まり眠気眼をこすりながら、問い返す。
『助けてほしいの!』
「それなら警察に掛け直してください」
『けいさつ? それは出来ないの! 私は今、塔に閉じ込められているから!』
塔?タワーに閉じ込められている?おかしなことを言う。探索者の知り合いなどいないので、間違い電話だろうとあたりをつける。
「それならタワー管理局に掛け直してください」
『かんりきょく? だから! それは出来ないの! こうやって繋がったのが奇跡なんだから!』
「なんで俺に繋がるんですか……?」
『それは奇跡としか言えないけど……』
「本当にどちら様で?」
この状況に理由が解らず、改めて問い質す。
『私はエヴァンジェリン。塔に囚われたお姫様よ!』
「自分でお姫様とか言うんだ」
『ふざけないで! いいから助けに来なさいよ!』
「助けにって……、どのタワーにいるんですか?」
『高い塔の最上階よ』
高い塔の最上階? 高層タワーのことか? 高層タワーの最上階なんて、未だ誰も到達していない場所だぞ? そんなところから、電話が来るなんてありえないだろ。
「俺は探索者じゃないんで無理ですよ。他の人を頼った方がいいのでは?」
『そこをなんとか! この念話が駄目なら、もう私には手が無いんだから!』
自分には関係なさそうだなと思って、別の人へ誘導しようとしたが、その後に続く言葉を俺は想定していなかった。
『あなた、探索者に憧れていたんでしょ? 今がその時じゃないの?』
「なんでそれを……」
『私の「遠見とうみの力」で断片的にだけど、あなたの過去が見えたわ。私があんたを導く。そうすれば、あんたは探索者として誰よりも高みにいけるわ!』
探索者として高みいける。それは俺の心の琴線に触れる甘い言葉だった。何より、自分が危機的状況にあるにも関わらず、自信を持った凛とした鈴のような声を発する少女の容姿は綺麗なんだろうな、と勝手に想像して顔が緩んだのもちょっとあった。
「……わかった」
『ありがとう!』
そうして、週末の朝に起こった不思議な電話の会話から、俺は探索者としての歩みを進めることになった。どうやら「塔の少女」とは携帯電話を通してしか話せないようなので、無線式イヤホンを付けて、まずは低層タワーに向かうことにした。
探索者にもなっていないLv0の人間が、いきなり高層タワーになんか行ったら、そもそも管理局に止められるだろう。
動きやすいように上下ジャージ着替えて、スニーカーにサコッシュのみの軽装でアパートを出る。一番近い低層タワーは最寄り駅のバスロータリーからバスで15分位の所にある。タワーは人が集まる場所に出来やすいので、都内だと比較的近くに在ったりする。
低層タワーは探索者全員の始まりの場所であり、そこをクリアしてようやく一端の探索者と認めてもらえるのだ。
最寄り駅のバスロータリーに歩いて行く間、彼女にいろいろと質問をした。
・名前は?:エヴァンジェリン・フォン・リューネベルク。
・出身は?:リューネベルク魔導皇国の第四王女。
・年齢:女性に年齢を聞くのは失礼って習わなかったの?
・なぜこんな事に?:ベットで眠って、起きたら何故か塔の中に居た。
「リューネベルク魔導皇国なんて聞いたこと無いけど」
『……なら世界そのものが違うのかもね、塔自体が異世界そのものだから、それで繋がっているのかも知れない』
彼女もこの状況をよくわかってないみたいだ。彼女の「遠見とうみの力」も、見えるものがかなり限定されるようで、俺の周辺とタワーの中以外のことはよく見えないようだ。
15分ほど歩き最寄り駅に着いた。駅前のロータリーからバスに乗り、低層タワー前で降りる。タワーの前には必ずタワー管理局の施設があり、そこからでないとタワーには入れないようになっている。また、探索者に関する事務関連もそこで行っているので、まずはそこで探索者登録をしないといけない。タワー前の施設に入り、探索者登録の窓口にいる事務員に話しかける。
「すみません、探索者登録をしたいのですが」
「かしこまりました。身分証をお持ちでしょうか? ……確認出来ました。では、こちらの水晶に手をおいてください」
窓口の机の上には、ボーリングの玉ほどの水晶が置いてあり、そこに右手を置く。と、火傷のような熱い痛みが一瞬はしり、右手に円形の入れ墨のようなものが出来ていた。
「これで探索者登録は完了です。タワーへの入口はあちらになります」
なんかこう、儀式っぽい感じで登録がされるのかと思っていたが、あっさりと事務的に終わった。躊躇っていた探索者なのに、なるのはほんの一瞬だった。
そうして、案内板の通りにタワー入口に向かっていると、途中に売店があるのを見つけた。そういえば、なにも武器を持っていないのに思い当たったので、売店に並んでいる鉄の片手剣を手に持ってみる。自分の腰くらいまでの長さで、軽く振ってみた感じ木刀位の軽さしか無かった。
ちょうど良さそうなので購入する。お値段は良いお値段したが、自分を守るものなのでケチるものどうかと思って購入した。カードで。
タワー入口は先程の右手に施された証がないと開かないようになっている。タワーが出現した初期はいろんな人が入れたため、それが社会問題になったため今は厳重に管理されている。入口にある機械に右手をかざすと円形の印が光り、扉が開いていく。おぉ、と感嘆しながらそれを見る。入口から先は異世界に通じているのか、扉の先には光が通らない闇の幕が降りていた。その幕を通りタワーに入る。
低層タワーの中は、いわゆる迷路のようになっていて、石畳の通路で構成されている。明かりは松明や謎の光で照らされていため、光源には困らない。しかも、タワーは入る毎に迷路が変わるため、マッピングが意味をなさない。毎回手探りで進むのが一般的な攻略方法だ。
しかし、俺にはナビゲーターがいるので、相手に声をかける。
「頼みますよ?」
『まかせて!』
自信に満ちた声に逆に不安になったが、立ち止まっている理由には行かないので、鉄の剣を持って眼の前の通路を進んでいく。
慎重に歩いて真っ直ぐに進んでいると、十字路にたどり着いた。音を立てたら、俺の目の前にある曲がり角から魔物が飛び出してくるのではないか、と、鉄の剣を持ちながら立ち止まっていると、イヤホンから声が聞こえてきた。
『その右手にゴブリンがいる』
ゴクリと喉がなる。魔物に出会う恐怖と戦いながら、まずは首を先に出して右の通路の先を見る。すると、首を出した道の半ばに、おとぎ話や、ゲーム・漫画でしか見なかった魔物「ゴブリン」がいる。
「はぁ……!はぁ……!」
その姿をみて、慌てて首を引っ込める。恐怖と興奮が入り混じった呼吸が口から漏れだす。イヤホンから音が聞こえるが、脳がその情報をシャットダウンして、通路の先に居るゴブリンに全神経が集中している。
「それ」は画面越しに見たときに感じる小物感は全く無かった。存在しているというだけで空気に圧があり、更に手に持っている棍棒がこちらへの攻撃の意思を感じさせ、恐怖を抱かせる。
初めて眼にする魔物に俺は完全に足がすくんで動けなくなってしまった。手に持っている鉄の剣なんて、なんの役にも立たないとさえ思えてしまう。だが、イヤホンから聞こえた大きく力強い声は、その恐怖に打ち勝てと言ってくる。
『あんなの、雑魚なんだからさっさと倒しちゃいなさい!』
「……っ! あぁぁぁぁぁぁっ!」
その言葉に押されるように俺は声を出してゴブリンへと駆け出していき、鉄の剣を思いっきり上から振り下ろす。防がれようが何度でも振り下ろす。恐怖と興奮で自分が何をしているか、きちんと理解出来ていないまま、同じ動作を全力で繰り返す。ついには鉄の剣から鈍い感触を得て、ゴブリンの頭に剣を当てることが出来た。これ幸いにと相手が動かくなるまで鉄の剣を振り続ける。
どれくらい剣で殴っただろうか、ゴブリンは動かなくなると床に向かって倒れ、濃い霧になり、その霧は俺に吸収されていく。その後には、親指くらいの魔石が転がる音が響いた。こうして、俺の初めての魔物退治は、傍から見れば無様に見えるが、怪我なく終えることが出来た。
ゴブリンが消えた後の俺は全身が汗をかいていて、呼吸が乱れ視界が点滅している。そんな状態の中でも、イヤホンから聞こえる声は歓喜の声を上げていた。
『やったわね!』
「はぁはぁ……、レベルアップは……しなかったですね」
『レベルアップにはあと1匹位、倒す必要があるわね』
あんな恐怖をまた味わうのか……。
それでも魔物を倒したという実感が、探索者として前に進んだ、という感動が恐怖を押しのけてくれていた。行く所まで行ってやる!そう覚悟して、エヴァンジェリンの指示に従って通路を進んで、更にゴブリン1匹を見つけた。
戦闘が2回目だったこともあったのか、恐怖が消えたわけでは無いが、突進して振り下ろすだけの不格好に倒すことは無く、ある程度冷静に相手の防御が弱い所を狙って剣を振ることが出来た。そして、2匹目を倒した所でそれは起こった。霧が体に吸い込まれていくと、体が熱くなり、体の節々が痛くなる感覚があった。その反応が終わると、体は軽くなっているし、なぜか、少し背が伸びた気がする。
『レベルアップした?』
「体の奥が熱くなっていく感じがしたから、多分したと思います」
『ステータスが見れるはずよ。声に出してみれば?』
「ステータス・オープン」
―――――
大和 友介 Lv1
剣術 (1)
―――――
ステータスが表示され、Lv1と記載されている。どうやら無事にレベルアップ出来たみたいだ。剣術のスキルが付いているのは剣で倒したからだろうか。
『どう?私の力も捨てたものじゃないでしょ?』
「たしかに。でも、流石に疲れた。今日はここまで」
『えー』
「いいから、帰りの指示も頼むよ」
『ぶー』
不満を言いながらも、魔物と会わないように指示をしてくれてタワーから脱出することが出来た。施設を通る途中、鉄の剣を持ったまま外に出ることに気がついたので、売店で収納する袋を買う。
タワーの外に出ると日が傾いた頃のようだった。中で体験した事を思い返すと何時間も中にいたように感じが、それくらい強烈な探索者の一日目だったのだ。
タワー前からバスに乗り最寄り駅からの帰りは、これからの事に付いて話し合った。彼女は、ずっとタワーの攻略に当ててくれると思っているようだ。
が、ただレベルが1上っただけの探索者が専業でいくには心許ないので、しばらくは兼業になりタワーにいくのは、週末の2日だけということを伝えると、不満の声を上げられた。実際に動くのこちらなのだ、主導権はこちらにあるのでそれは認めてもらった。
後、明日に関しては、買い物と魔法についての検証をしたいので、タワーには行かないことも伝えた。これにも不満の声を上げたがしぶしぶ納得してくれた。
夕食を買うためにコンビニに寄った際にレベルアップのせいか、いつもよりお腹が空いていたので、弁当を2つとアイスとコーラを1Lも買った。
『何!? この商店は! すごく明るいし商品も沢山ある!』
コンビニが珍しいようで、イヤホンから質問攻めにあった。
アパートに着いたら、風呂で冷や汗を流してさっぱりして、寝間着に着替えた。温めた弁当を食べたら満腹になったからか、ようやく緊張の糸が切れたらしく一気に眠気が襲ってきた。いつもより寝るには早い時間だったが、眠気には勝てずに布団に潜り込んだ。布団に包まれた安心感か、夢を見ることも無く泥のように眠りについた。
*
次の日。日が昇って数時間たった頃、携帯の振動で眼を覚ました。画面には「非通知」の文字。昨日の事は、夢だったのではないだろうかと思いながら電話にでると、元気な朝の挨拶が返ってきた。
「……もしもし」
『おはよう!今日も元気に塔へいくわよ!』
「今日は行かない。いといろとする事があるって昨日話しただろう?」
『そうだけどさー。塔に行ってもいいじゃない』
電話の向こうから不満げな声が聞こえてくるが、無視だ。今日はこれからの探索に向けて、準備をする日すると決めたのだ。
まずは着替えて、家電量販店に向かう。着替えた服がなんか小さく感じる。昨日のレベルアップで背が伸びたせいだろうか。
今回の目的はイヤホンを新しくするためだ。
『今使っているのじゃ駄目なの?』
「これでも問題は無いだろうけど、声をちゃんと聞くとなると、ノイズキャンセリングがあったほうがいい」
電話の向こうで、のいずきゃんせりんぐ?と疑問符を頭に浮かべている絵が浮かぶ。選んだのは、ノイズキャンセリングが一番強い、大手メーカー製の無線イヤホンだ。これと、シリコン製のイヤーピースをあわせて、激しく動いても外れないようにする。結構良いお値段したがカードで払った。これからのことを考えると、これまた仕方がない。
家電量販店から家に戻ってきて、次に行うのは「魔法」に関することだ。こちら側では、魔法はマジックアイテムを装備することでスキルが生えて、定着するまで使うことで、魔法使いになれるのが一般的である。
ただ、エヴァンジェリンから聞いた方法だと、マジックアイテムが必要無く、魔石があれば魔法のスキルが使えるようになる、とのことだ。ので、その方法を試すことにした。家にある机に前の椅子に座り尋ねる。
「魔石をどう使うんだ?」
『まず、魔石の中にある魔力を感じ取るのよ。手に持って集中して』
そう言われれ、ゴブリンを倒した際に手に入れた魔石を手に持ちそれに集中する。すると、魔石の中に点のような光を感じた。
「なんか光みたいなのを感じる」
『それが自分の心臓に移動するようにイメージするの。そして、その光が血管にそって全身に行き渡るようにさらにイメージする』
そのとおりにイメージして、全身に光が行き渡っていくようにする。すると、心臓に火が灯るイメージが頭によぎった。
「全身に行き渡ったと思う。そしたら、火のイメージが頭によぎったけど成功した?」
『たぶん、成功してるわね。ステータスを確認してみて』
―――――
大和 友介 Lv1
剣術 (1) 火魔術 (1)
―――――
「火魔法が追加されてる」
『そう。それがあなたの魂がもつ原初の魔法。一番扱いやすい魔法のはずよ』
「なるほど」
『魔法は術者のイメージが、そのまま具現化するからどう使うか考えていたほうがいいわよ』
「わかった。ポンっと浮かんだのがあるので、タワーで試してみよう」
『ちなみにどんなの?』
「魔法剣」
そして、激動の週末が過ぎ、一応の平和な平日が戻ってくる。平日の夜は、主にエヴァンジェリンの暇つぶしに付き合った。
『ここって何も無いから暇なのよねー』
「周囲はどんな感じなんだ?」
『私の部屋がそのままあるって感じ。ベットとかも全部そのまま』
「食事とかは?」
「ここだとお腹が空かないのよ、なぜか。……お手洗いの事聞いたら怒るわよ」
『エヴァンジェリンって呼ぶの長いでしょ?エヴァで良いわよ』
「王女様を愛称で呼んで大丈夫かな」
『私が良いっていってるから良いの』
『紅茶が飲みたいわ』
「紅茶が好きなのか?おれはコーヒー派だ」
「こーひー?それどんな飲み物?」
エヴァとは友人や家族、あっちの世界の事、こっちの世界のこと、なんてこと無い世間話に花を咲かせていった。他愛もない会話だが、お互いに信頼感が積み重なっていくようでそれはそれで楽しかった。
*
探索者になった翌週の週末。鉄の剣を入れた収納袋と水のペットボトルを入れたサコッシュを持ち、新しく買ったイヤホンを付け最寄り駅のバスロータリーまで歩きながら会話していると、エヴァのいきなりな物騒な言葉に驚いた。
『今日で攻略完了するために、最上階のボスを倒すわよ!』
「おい、まだLv1だぞ! それでタワーのボスなんて倒せるわけ無いだろうが!」
『大丈夫よ! 私がいるから!』
「その自信はどこから来るんだ。……まずは魔法剣を試させてくれないか?」
『たしかに。それもあったわね』
「それの効果が確認出来たら、ボスに向かう。でいいか?」
『わかったわ。それでいきましょう』
ロータリーからバスに乗り、タワー前に着く。先週と同じように案内板に従って入口まで向かい、扉を開けて中に入る。エヴァの指示に従い進み。曲がり角を2つほど曲がったあたりで、警告する声が聞こえて来た。
『次の左角の先にいるわ』
その角からそろりと首だけを出して確認する。そこには、もはや見慣れてしまったゴブリンがいた。収納袋から鉄の剣を取り出し構えてから一度、深く深呼吸をして魔法を発動させる。
「火よ、剣に灯れ」
剣に火が纏うのをイメージする。刀身が燃え盛っているイメージだ。それが明確にイメージできた頃、目を開けると刀身が燃えている魔法剣が完成していた。
「おぉ、本当に出来るもんだな」
『なに感心してるのよ。さっさと試しなさい』
魔法剣を構え、一呼吸。意思を固めて角から飛び出し、ゴブリンへと走り出す。その足音で、ゴブリンがこちらに気付いたて振り返るが、もう目前まで迫っていた。火の魔法剣を振りかぶり、躊躇わずに一気に振り下ろす。すると、いままであった抵抗が嘘のようにするりと、刀身がゴブリンを切り裂いた。真っ二つになったゴブリンは霧になり俺に吸収され、魔石が落ちる音がした。
「マジか。こんなにあっさり倒せるのか」
いままでの苦労が嘘のように、あっさり倒せてしまったことに呆然としてしまう。
『どう。いけそう?』
「ああ。これならボスにもなんとかなるかもしれない」
あれだけ手こずったゴブリンをあっさり倒せたことが、自分の中で戦える自信に繋がっている感じがした。
『じゃぁ、これからが本番ね。ボスの部屋まで指示するわ』
そうして、ボスの部屋がある10階まで進む事になった。指示したがって進んでいくが、本当に魔物に遭遇せずに階層を上がっていき最上階までたどり着いてしまった。俺の眼の前には、いかにもボスの部屋ですと言わんばかりの、重厚な扉が来る者を拒んでいる。それに圧倒されているが、イヤホンから聞こえて来る声はいつもの明るい調子で言ってくる。
『行くわよ!』
「……ああ」
火の魔法剣を準備して、重厚な扉を押し開ける、と、部屋の中央に低層タワーのボス「オーク」が座って居るのが見えた。人間の身の丈を有に超える大きさ、そして力強さを感じるその頑丈そうな体格。その瞬間、体中の毛が逆立つほどの恐怖を感じた。見ただけでわかるその迫力は、ゴブリンなんかとは比べるまでもなく、重く苦しい。その迫力に飲まれ、身動きが取れなくなっている。扉の先に進むことが出来ない。
そう固まっていると、イヤホンから声が聞こえてくる、が、聞こえてくる声がいつものとは違っていた。
『私の声を信じなさい。前に進むのです』
いつもの明るい凛とした声ではなく、冷たく透明な声。感情を動かす声ではなく、心を動かす声。イヤホンから聞こえるその声に、動かされ部屋に踏み入る。
すると、こちらに気がついたのか、オークが振り向き、殺気がこもった視線を向けてくる。それだけで心が折れそうになり、膝を屈したくなる。
オークは立ち上がり、その大きな体格に見合わない速さでこちらに突進し、手に持った大きな棍棒を振りかざしてきた。防衛本能か、死を予感したのか、俺は眼を瞑ってしまった。
が、
『左に避けなさい』
耳に付けたイヤホンから冷たくて有無を言わせぬ絶対的王者の声が聞こえた。その声が指示する通りに、左に避ける。直後、自分の右側をものすごい速さで棍棒が通り過ぎ、地面に激しい音を立てて突き刺さった。おそるおそる目を開けると自分の横すれすれに棍棒が突き刺さっている。躱せたのだ。Lv1の俺が、ボスの攻撃を。
『言いましたよ。私の声を信じなさい、と』
その言葉はまさに神託だった。聞こえてくる言葉通りにオークが動き、指示通りに動けば躱せる。
『横に振ってくる。後ろに避けて。左腕に隙が出来るから斬りつける』
『上から振ってくる。右に避けて。右足に隙が出来るから切りつける』
更には、攻撃の指示まで飛んできて、そのとおりに攻撃すれば火の魔法剣がオークに傷を付けていく。
イヤホンから聞こえてくる神託の通りに体を動かす。そうしていると、不思議な現象がおこっていった。集中力は限界まで高まっていったのか、剣捌きは鋭さを増していき、体捌きは華麗さを持つようになっていった。そして、火の魔法剣はどんどん小さくなっていた。いや、火が圧縮されていってるのだ。今や刀身は赤では無く白色をしている。
神託に従いオークを切り続けていくと、動きが鈍くなっていき攻撃も大ぶりが多くなってきた。相手に着実にダメージが蓄積されていってるのだ。最後の攻撃だろうか、棍棒を両手で持ち大きく振りかぶって全力で振り下ろすする動作が見えた。
が、神託は正しく行われた。
『左に避けて。隙ができる喉に白き剣を突き刺しなさい』
その声の通り左に避けて、オークの喉に白熱の剣を突き刺した。その剣はするりと喉を突き抜けていき、オークへの最後の一撃となった。
剣を引き抜くと、オークは糸が切れた人形のように力が抜け、膝をついて地面へと倒れていった。地面にあたる直前に濃い霧になり、それが俺へと吸い込まれると、体の奥に熱が走った。熱くて痛い。体が急激な成長痛を訴えてくる。
それは時間にして数分ほどだったろうか、その痛みに耐えた後に感じる世界は以前とは比べ物にならないくらい変わっていた。
―――――
大和 友介 Lv15
剣術 (5) 体術 (4) 火魔法 (4) 魔法剣:白華 (3)
―――――
俺は、最小レベルで、低層タワーのボスを倒すという全人未踏の偉業をなし得た。
『見事です。勇気ある者よ』
その言葉を聞いて集中が切れたからだろうか、膝から力が抜けた。堪えるために剣を杖にしようしたが、鉄の剣がグニャりと曲がってしまいそのまま座り込んでしまった。火の魔法剣で温度が高くなりすぎたせいで、鉄が融解してしまったのだ。
座ったことで安心したのか、全身から汗が吹き出てきて、肩で荒く息をする。水を持ってきたことを思い出し、サコッシュから取り出して一気に飲み干す。そうして、落ち着いた頃に改めて感謝を伝える。
「ありがとう、君の声が無かったら死んでいたよ」
『あったりまえでしょ! 私の言葉は正しいんだから!』
その声は、オークと戦っていた時の冷たい声ではなく、いつもの明るい声に戻っていた。その声の様子から胸をはって威張っている光景が浮かんでくる。その光景を頭にうかんで、笑みをこぼしながら天井を仰ぎ見る。
「ああ。俺、本当に探索者になったんだな」
かつて憧れたところに来れたことに嬉しさが込み上げてきて俺は、少しだけ自分の事を誇らしく思った。
30分ほど座って回復した後、こぶし大のオークの魔石を回収して広場の奥に進む。そこには台座があり野球ボールサイズのタワー・コアが収まっている。これを定期的に回収しないと、タワーから魔物が溢れてしまうため、探索者という職業が必要なのだ。タワー・コアを回収して、サコッシュに入れた。
「あ。帰りのこと全く考えてなかった……」
イヤホンから呆れたため息が聞こえてくる。
『台座の横に転送石があるでしょ?それを使えば入口まで戻れるわ。簡易版の石もあるから、どこかで購入しておきなさい』
台座の横に転送石に右手で触れると、印が反応して眼の前が一瞬暗くなる。再度、明るくなった際には、タワー1階の入口前にいた。
「便利なもんだな」
そういい、タワーを後にする。その後、施設に戻ると買取の窓口へ向かう。タワー・コアとオークの魔石を買い取ってもらうためだ。買取窓口の事務員に話しかける。
「買取をお願いします」
「では、こちらの水晶に右手を置いてください。……確認出来ました。買い取るものはなんでしょうか?」
「タワー・コアとオークの魔石になります」
そういって、サコッシュから取り出したタワー・コアと魔石を窓口に置く。
「え?……先週、探索者になられたばかりですよね?」
「はい、そうですが」
「……こちら本物でしょうか?」
疑いの目で見られている。どうやら疑われているようだ。それはそうだろう、先週登録したばかりの探索者がタワー攻略の品を持ってくるなど詐欺に見えても仕方ない。
「そちらで鑑定して頂ければわかると思いますが」
「……確認させていただきます」
そういって、窓口の事務員は、品を持って後ろに下がっていった。何やら騒がしくなっているようだが、知らぬ顔をして誤魔化す。5分位しただろうか、事務員が戻ってきた。
「……本物だと確認できました。こちらが買取価格となります。」
その値段を三度見した。130万円もの値段が書いてあったのだ。俺の給料の5ヶ月分だ。探索者になろうとする人い居なくならないのも納得だ。まさに一攫千金だ。
「そちらで大丈夫です」
「では、こちらに振り込み口座の情報に記入をお願いします」
あまりにもな金額に震える声で返答すると、口座情報を聞かれたので、振込情報用紙に自分の口座情報を書いていった。大体1週間くらいで、振り込まれるそうだ。
そうして、施設を後にしてバスに乗り込み家路に着く。先週と同じように、お腹が空いたので弁当2つとスイーツ、コーラを買って帰る。風呂に入り汗を流して、着替えてから夕食を取る。タワーを攻略した達成感からか、今日の夕食はいつも以上に美味しく感じられた。
エヴァと通話を繋ぎながら今後の話をする。
「次は30階の中層タワーになるな」
『この調子なら楽勝よね!』
「そうだといいな」
こうして、「俺達」の低層タワー攻略は完了した。
いまだ恐怖はある。だが、エヴァの指示を信じれば、道は開けるということが証明された今、俺の心にはワクワクが浮かび上がっていた。次はどんな世界を見せてくれるのだろうか。と
「まずは、溶けちゃった武器の新調からだな」
『高いのを買いましょ!』
拙作ですがよろしくお願いします




