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【完結済】没落令嬢のしれっと王国買収  〜前世の知恵でインフラを独占。契約魔法で国ごと差し押さえます。文句は契約書にどうぞ〜  作者: ろいしん


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第6話 皇帝への買収提案


 帝国へ行く。

 そう決めたはいいが、問題は山積みだった。


 まず、どうやって皇帝に会うか。

 個人商人が、大陸最大の軍事大国の皇帝に謁見など、普通はできない。


 私はまず、ガス取引で知り合った帝国側の担当者に連絡を取った。


「皇帝陛下に謁見?」


 帝都のとある商館。

 私の目の前で、帝国商人のセルゲイが眉をひそめた。

 四十代の恰幅のいい男。ガス取引の仲介で、何度か顔を合わせたことがある。


「ヴォロディナ嬢、あなたは正気か?」


「正気よ。だから、方法を教えてほしいの」


「方法も何も……」


 セルゲイは、溜息をついた。


「皇帝陛下は、今、西方戦争の真っ最中だ。外国の商人に会う余裕などない」


「でも、会う価値がある話を持っていれば別でしょう?」


「……何を持っているんだ」


 私は、少し迷った。

 ここで国債の話をすべきか。


 いや、ここで手の内を見せすぎるのは危険だ。


「それは、陛下に直接お話しするわ」


「……」


 セルゲイは、しばらく私を見つめていた。

 それから、ゆっくりと口を開いた。


「謁見を取り付けることは、できなくはない」


 私の心臓が、跳ねた。


「本当?」


「ただし、条件がある」


 セルゲイは、指を三本立てた。


「一つ目。謁見のための献上金。最低でも千ディナールは必要だ」


 千ディナール。手元の六千から、大きく削られる。


「二つ目。帝都までの旅費と滞在費。これも五百ディナールはかかる」


 残り四千五百。


「三つ目。私への手数料。五百ディナール」


 残り四千。


「そして————」


 セルゲイは、真剣な目で私を見た。


「もし陛下の機嫌を損ねれば、あなたは投獄される可能性がある。その覚悟はあるか?」


 私は、深呼吸した。


 帝国の牢獄。異国の地で投獄。

 最悪の場合、帰ってこられないかもしれない。


 だが————


「覚悟はあるわ」


 私は、革袋をテーブルに置いた。


「二千ディナール。謁見と旅費と手数料。これで足りる?」


 セルゲイは、革袋を持ち上げ、重さを確認した。


「……いいだろう。二週間後に、謁見の手配をする」



   ◇



 それから二週間。


 私は、凍えるような寒さの中、帝都へ向かっていた。


 馬車の中は、ウライアよりさらに寒い。

 指先が凍りつきそうだ。息が白い。


 持ってきた資金は、残り四千ディナール。

 そのうち千ディナールは、皇帝への献上金として持っている。


 つまり、自由に使える金は三千ディナール。


 これで国債を買えるとは思っていない。

 まずは交渉のテーブルにつくこと。それが目標だ。



   ◇



 五日後。私は、ラディア帝国の帝都に到着した。


 雪に覆われた巨大な都市。

 ウライアの王都とは比べ物にならないほど、大きく、豪華だ。


 石造りの建物が整然と並び、通りは真っ直ぐに伸びている。

 王都の煉瓦や木造とは違う。すべてが石と鉄で造られ、冷たく、威圧的だった。


 街の中央には、黄金のドームを戴いた宮殿がそびえている。

 玉座の間に至る大通りには、軍旗が等間隔に並び、兵士が警備についていた。


 ウライアが「人間の街」なら、ここは「国家の機械」だ。

 大陸最大の軍事大国。その威容が、目の前に広がっていた。


 セルゲイの手配で、宿と謁見の予約は取れている。

 問題は、その謁見で何を言うかだ。


 私は、宿の部屋で作戦を練った。


 皇帝ダリウス三世。

 戦場を何度も駆けた、老練な君主。

 経済にも詳しいと聞く。


 そんな相手に、どうやって国債を売らせるか。


「……直球で行くしかないわね」


 私は、持ってきた資料を整理した。


 ウライア国債の情報。返済期限。利息。担保。

 すべて、帝国側から漏れ聞いた情報だ。



   ◇



 翌日。私は、帝国宮殿の謁見の間にいた。


 巨大な広間。金と白で彩られた壁。天井には豪華なシャンデリア。

 廷臣たちが、ずらりと並ぶ。


 そして————玉座に座る男。


 鋭い目つき。灰色の髭。戦場を何度も駆けた者特有の威圧感。

 ラディア帝国皇帝、ダリウス三世。


 私は、深く頭を下げた。


「ヴォロディナ商会の代表、ユリアーナ・ヴォロディナでございます」


「ほう」


 皇帝が、興味なさそうに私を見た。


「ウライアの商人か。何の用だ」


「単刀直入に申し上げます」


 私は、顔を上げた。


「陛下が保有されている『ウライア王国の古い国債』————あれを、お譲りいただきたいのです」


 謁見の間が、静まり返った。

 廷臣たちが、顔を見合わせる。


 皇帝の眉が、わずかに上がった。


「……国債だと?」


「はい。ウライア王国が、かつてラディア帝国から借り入れた債務。利息も含めれば、相当な額になっているはずです」


 私は、準備してきた言葉を続けた。


「ですが、回収は困難でしょう。ウライアの評議会は腐敗しきっています。支払いを求めても、のらりくらりとかわされるだけ」


 皇帝の目が、わずかに細くなった。


 図星だ。


「私が、キャッシュで買い取ります」


 私は、懐から献上金の袋を取り出した。


「まずは手付金として、千ディナールを————」


「笑わせるな」


 皇帝が、低い声で言った。


 私の言葉が、止まった。


「千ディナールで三百万の債権を買う?」


 皇帝は、鼻で笑った。


「それは『手付金』ではなく、『侮辱』というのだ。利息だけでも年間何万ディナールになるか、計算したことがあるか?」


「それは……」


「そして」


 皇帝は、玉座から身を乗り出した。

 その目は、氷のように冷たい。


「ウライアの小娘が、帝国の外交カードを握ろうとする? 誰に使われている。ヤノフか? それとも西方諸国の回し者か?」


「いえ、私は————」


「黙れ」


 皇帝の声が、広間に響いた。


「我が帝国が、属国の借金証文をどう扱おうと、それは帝国の問題だ。外国の商人が口を挟む余地はない」


 私は、言葉を失った。


 皇帝は、国債の価値を理解している。

 その上で、拒絶しているのだ。


「陛下、お聞きください。私の提案は、帝国にも利益が————」


「利益?」


 皇帝の目が、細くなった。


「小娘、お前は帝国の内情を知っているような口ぶりだな。我が帝国で西方戦争の軍費が足りないとでも言いたいのか?」


「いえ、私はただ————」


「連れ出せ。二度と謁見の間に入れるな」


 兵士たちが、私を取り囲んだ。


「お、お待ちください————!」


 私は、兵士に腕を掴まれた。

 抵抗する間もなく、謁見の間から引きずり出される。


「陛下! お話を————!」


 扉が、目の前で閉じられた。


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