対策
僕が答えると、方針は決まったとばかりに、ボロアーが村長に「聞いてのとおりだ」と告げた。
領主への報告と支援要請を代行してもらうよう付け加えもした。
村長は慄きながらも請け負った。
じいちゃんも母さんに指示を出した。
ミッダ神教にとって、七種七頭の巨獣の復活が確実となった今、その暴挙と災禍に対応し封じる義務があるのだ、と。
ラーテルをどうにかすれば片がつくわけではないのだから、当然か。母さんに各所の教会へ伝達と注意喚起をして回る役目が託された。
そして話題はラーテル対策へと進む。
グレイグがボロアーとじいちゃんに問う。
「で、その坊やと宝具とやらがが対抗手段だとして、どうやって戦う? どこに現れる?」
「そうね。私と彼は、役に立たなかったのよ」
ルーシアの乾いた悲観に、グレイグが不満げな目を向けたが、ルーシアは気にしてない様子。
ボロアーが数秒、黙考してから応じる。
「……宝具で打倒できるとしても、子供一人に任せるわけにいくまい。
それに、わざと喰われて中から決定打を放つなど、訓練もしていない者にできるものか。
儂たちは、少年を護り、宝具も護り、巨獣打倒の援護をしてやらねばなるまい。
まだ依頼は終わっておらんよ」
ボロアーの念押しに、グレイグが「追加料金ももらわにゃ、命が足りねぇな」と愚痴か冗談か分からないものをこぼして、ルーシアも軽く肩をすくめる。
昨夜のボロアーの魔法は、巨獣の喉に大穴を穿ち、その威力は全員が目にした。
グレイグも、剣では傷一つ付けられないながらも、巨獣の足元に飛び込む胆力はすごい。
ルーシアも臨機応変な戦い方や、攻撃的な魔法と治癒魔法を行使できることから、一般的な雇傭兵より有能なんだろう。
昨夜の短い戦いでこれだけのことが見て取れたことは、ラーテル討伐にとても心強いものだ。
と、じいちゃんがボロアーに向けて問うた。
「しかし、領主殿が私兵ないし官軍を出してくださるにしても、しばらく日数がかかると思われる。到着を待つのは、得策とは思えんが?」
「で、あろうな。ラーテルがアワーリティアであるなら、準備を急がなければなるまい」
ボロアーは即応し、また村長へ申し出る。
「村人の中で、弓や投石が得意な者を数名、集めることは可能だろうか?」
「ははぁん。つまり、俺と嬢ちゃんが近距離に張り付いて注意を引くから、遠くから手助けしてくれってわけだ」
「命を賭けるのは私たちだけでいいということよ」
ボロアーの意図をグレイグとルーシアが補足した。
続けて、じいちゃんも付け足す。
「ラーテルはパッシュと宝具のみを狙っているであろう。『強欲』とは、そういう執着心が強いのだ」
ようやく意味を理解した村長が「急いで当たってみます」と応じた。
僕は、じいちゃんのの言葉で、ふと、昨夜の出来事を振り返っていた。
ラーテルに咥え込まれた際、声や音ではないものが聞こえていたことを思い出したからだ。
禍々しい邪念ともいうべきものが、〈ガラクタもろとも喰ってやる〉と宣告した。
(だとしたら、おびき寄せれるんじゃあ?)
そう思って声に出す。
「僕が、開けた場所で囮になれば、ラーテルからやってくるのではないでしょうか」
僕の思い付きに、じいちゃんは目を見開いて動揺し、ボロアーは不敵に口元を歪めた。
「少年にその覚悟と肝っ玉があるのかね?」
「……あります!」
辛辣なボロアーの問いに動揺したけど、僕ははっきりと言い切った。
この対策は、そもそも鎮静の鎖環で獣を退治しようというものだ。もう、僕が弱気になってる場合じゃない。
けど、じいちゃんは心配顔で念押ししてきた。
「パッシュ。命がけになるぞ。よいのだな?」
「ラーテルは僕を喰おうと欲しています。この宝具も……。逃げても隠れても、命がけであることに変わりありません」
僕は思ったままを返し、覚悟以上に大事なことを思い付いていた。
「――それに、ラーテルが真に『強欲』なら、近隣に被害が出る前に討たねばならないでしょう。それには僕と宝具が無防備であるほうが良いはずです」
僕の言葉に、ボロアーは「もっともだな」と同意してくれ、それを目にしたじいちゃんも「ミッダ様の加護を」と祈った。
話はまとまった、とばかりにグレイグが僕の肩を叩いて「俺たちが守ってやるから心配すんな」と自信の笑みを見せた。
※
方針と対策が決まれば、そこからは早かった。
昨夜、ラーテルが現れた村の外れに、わずかばかりだが果実と家畜の肉を供え、僕は宝具を携えて近くで待機する。
雇傭兵の三人は、村長の呼びかけで集まった勇敢な村人十数人を三等分し、村の領地を示す柵の近くに分かれて身を潜める。
ラーテルが現れればグレイグとルーシアが牽制に出て、前もって決めておいた合図で弓矢や投石の援護をする手はずだ。
もちろん、昼のうちに村長の使いが領主のもとに走っており、母さんもすでにミッダ神教の小教会に向けて馬で駆けている。
ミッダ神教の司教であるじいちゃんは、「念のため」と囮の供物に祈りを捧げた聖水をかけラーテル討伐の補助を施し、自宅で討伐の成功を祈祷している。
ミッダ神教の信仰厚く、村人らの結束、そしてボロアーら雇傭兵の頼りがいがあってこそ、夕刻までにここまでの準備が整えられたといっても間違いないはずだ。
(パラ・ダミア コクォーロ デ・イ スクゥーウ)
僕は、ラーテルが現れるまで、一心に祈りの言葉を唱え続ける。
邪念や、討伐の成功。それか討伐失敗への不安を捨て去るために。ただ一心に。
砂地から日光の熱さが和らぎ始め、夜のとばりが落ちてきた頃――。
寒気に似た邪な気配がふくれあがった。
……シャアァァァ……ッ
明らかな警戒心と敵意がむき出しになった、威嚇の音。
僕は直感的な確信を得た。
(来た!!)




