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鎮静のリング (一人称ver)  作者: 天野鉄心
2/6

雇傭兵

 じいちゃんの足に合わせ、僕にとって今日二度目の神殿入り。

 礼拝堂へ着くと、じいちゃんは顔色を失い「なんということだ……」と弱々しく呟き、床にへたり込んでしまった。

 信徒に説法をし、僕らにミッダの伝承と教えを語り、村長や村人たちの相談に助言する普段のじいちゃんからは考えられない姿。

(何か言わなければ……)

 司教として厳然たる態度を崩さないじいちゃんの、これほどの動揺を目にして、僕も気焦りしてしまっている。


 しかし口からでたのは、「昨日までは、確かにあったのに……」という慰めにもならぬ言葉。


 情けない。

 今朝、目が覚めるまで、こんな事が起こるとは予想していなかった。

 このあと何が起こるのか、これから何をすればいいのか、分からない。


 と、視線を彷徨わせた僕の視界に、ミッダ神像の首もとの輝きが映った。


「じいちゃん! あれ!」

「……お、おおっ」


 僕の叫び声にハッとしたじいちゃんは、神像を見やり、その首に掛けられた金色(こんじき)の宝具を見付け、声をあげた。

 ミッダ神像に安置されている七種の宝具『ア・ミッダ』のうちの一つ『鎮静の鎖輪(リング)』だ。

 伝承では獰猛な巨獣たちの巨躯に巻き付き、荒ぶる悪心を封じ込めた宝具とされている。


  じいちゃんは祈りの姿勢に座り直し、ミッダ様に感謝を述べ、僕の方へ向き直る。


「かの宝具が盗まれずに留められたことは、まさに神のご加護。

 不埒な輩どもも、かの宝具の効果ゆえ手出しできなかったのであろう。

 しかし、悪党どもが盗んだ宝具で悪事を企てたり、かの宝具を再び盗みに来るとも限らぬ。

 お前にかの宝具『鎮静の鎖輪』を託す。その身にたまわってお守りし、盗まれた宝具を取り戻すまで肌身から放さずにおれ。よいな?」


  じいちゃんの危惧は、すぐに信じられなかった。

 しかしミッダ神教の最高位にあるライル司教が厳命するのだ。

 その命令と懸念を疑う余地はない。

  僕は「かしこまりました」と答え、ミッダ様へ(うやうや)しく(こうべ)を垂れた。

 宝具の一つを護衛する重大な使命と、宝具を肌身に着けるこの身に過ぎた光栄を詫びるためだ。


 じいちゃんもミッダ神像へ触れることを詫び、大人二人分の高さにある『鎮静の鎖輪』を台を使って取り外し、奪われた宝具を取り返すことを誓って、僕に振り向いた。

 僕は虎皮の首巻きを解き瞑目して待った。

 初めて聞く祈りの言葉とともに、首に鎖輪がかけられたが、そのままでは僕の膝まで垂れてしまう。

 じいちゃんはまたミッダ様に詫びながら、二重三重と鎖輪を巻き付け、シャツと首巻きで隠すように命じた。


  「一度、村に戻ろう。今後の方策を検討せねばならん」

「はい」


 重々しいじいちゃんの言葉に、僕は短く答えるしかできなかった。


 ※


 村に戻ると日も高くなっていて、荷車や馬車が走り、工房からは作業の音や職人らの声がした。

 じいちゃんと僕は何食わぬ顔ですれ違う人たちと挨拶をし、家に戻った。


 母さんも村長への報告を終えて帰ってきていて、「領主様には村長から伝えてくださるそうです」と返答ももらい、「夕刻には訪れられるから」ともてなしの支度を始めていた。

 僕らは拭えぬ不安を抱えながら、家事や家で出来ることをして、領主様の到着を待つ。


 日が沈みきった頃。村長と三人の男女がやってきた。

 風貌は、金属鎧を身に着け帯剣した青年と、不思議な形の長い杖をついたフードの老人。そして戦士風の軽装で、この地方では珍しい金髪の女性。

 三人の装備に、王の軍章・貴族の家紋・領主の印章などがないことから、雇傭兵(こようへい)だとわかる。

 傭兵だけではなく、金しだいで官民問わず一時雇いで働く、俗に言う『何でも屋』だ。

  青年はグレイグ、老人はボロアー、女性はルーシアと紹介された。


  じいちゃんがため息混じりに村長に問うた。


「どういうことかな?」

「それは……」

「領主殿の判断だ」


 言い淀んだ村長に代わって、グレイグが断じて続ける。


「領主殿の私兵をへんぴな村の要請で動かすことはできん。自警団や治安兵を集める理由もない。国から与えられている官軍を動かすには、許可を取らにゃならんし、それこそ時間がかかる。

 だから俺たちが雇われた。

 ま、俺たちも『何かが起こったら対処してくれ』としか聞いてないがな。

 不服か?」

「……不服はない。しかし、不足はいなめない」 「その理由は?」


 青年の応答に、じいちゃんが濁して答えると、ボロアーが問いを重ねた。

 その老いて張りのない声から、フードの中身は年老いた男性だと分かる。おまけに理屈っぽいことも。


「コヨーテにやすやすと話せない類の話だ――と言えば納得してもらえるかね」

(わし)は元王朝魔術師じゃ。雇われ者と同じにされては、ここまで足を運んだ無駄も含め、司教殿の無礼は看過できんな」


 コヨーテとは雇傭兵の蔑称だ。『金しだいで犯罪も請け負う一部の無法者』への揶揄(やゆ)として定着している。その他にも『草でも死骸でも腹に入れて食いつなぐ』という侮蔑と嫌悪もあると聞く。

 じいちゃんは雇傭兵らを怒らせるために()()()蔑称を使い、雇傭兵の介入を破談させ、官軍の動員を急がせたかったようだ。

 でも、老人は『元王朝魔術師』と明かし、『何が起こるか察している』と匂わせてきた。

 王朝とは、現王政権が建つ以前に広範囲を治めていた政権で、三十年前に滅んだ。

 だけどその歴史は長く、軍事や魔法・産業・学問・制度などを格段に発展させたらしく、現王政権が引き継いでいるものも沢山ある。

 ボロアーが王朝に仕えていた魔術師であったなら、ミッダ神教とその伝承も知っているだろう。

 

 じいちゃんが腰を折り非礼を詫びて言う。


「失礼した。

 ア・ミッダの伝承をご存じならば、隠し立てすることは適うまい。

 ミッダ神像に安置されていた宝具が盗まれた――失われたということは、伝承にある七種七頭の巨獣の解放、または復活を予感させる。

  これに対処するには、相応の人手と能力を要すると想像できる。

 伝承ではミッダ様のお力で巨獣を封じたとされておる。

 失礼ながら、御三方だけでそこまでの重荷を跳ね除けられるかは明白。

 先ほどの態度を詫びるとともに、重ねて、命を粗末になさるべきではないと、申し添えさせていただく」


 じいちゃんの明らかな拒絶に村長は慌て、雇傭兵の三人はそれぞれ違った反応を表した。

 グレイグは怒りと反発をあらわにし、ルーシアはつまらなそうな顔で腕組みしている。

 そしてボロアーは、小さく鼻で笑って言い返した。


「ならば、伝説級の魔物退治の依頼をしてみるかね? 司教殿の眼鏡に適う能力者は、いくらで雇えるだろうか。

 その理屈であれば、領主殿がミッダの神を連れてこなければならない。

 儂らを追い返すということは、そうした意味となるが、構わないか?」

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