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死と彼を想う瀬戸際に  作者: 彼方夢
第二章 辛すぎる社会に、少年は溶け込もうとする。

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ホスト店への襲撃


 二日後。一二月二十八日。年末となっても夜の繁華街に佇む店の中は、騒がしかったホスト店『ⅤELLIT(ベリット)』の店内で、若い女性ともはや軽薄という言葉が服を着て歩いているような男たちが多くひしめいていた。女性を口車に乗せて、酒を注文させる。ホストは歩合制だから飲ませれば飲ませるほど財布が潤う。やれ、ホストは女を食い物にする商売とはよく言ったものだ、と夏木は思っていた。


 夏木の隣に座る、金髪の胸元がはだけて金色のネックレスが主張しているのが見える、そんなホストと共に談笑しながら酒を飲んでいた。

 グラスが空になると酒を傾けて、飲酒の回転率を上げさせる。酒がなくなるとさらに饒舌になる。もう一回注文してね今度は高い酒で、と。それに呆れながら夏木はドンペリやシャンパンを注文する。


 今回、夏木がしなくてはならないことはこの店のバックヤードにいる護衛の人数を聞き出し、それを健二に報告すること。その情報を基に健二は作戦の最終準備をし、店の襲撃に移る。

 さて、どうしたものか。横の男から情報を聞き出すには、環境が悪い。周囲の目が多すぎるのだ。

 だが、それでも実行しなくてはならない。夏木はジーパンからポケットナイフを取り出し、それを男の首元にあてた。「声を出すな」と咎める。


「裏にいる『滝川会』の奴らの数を教えて」

 男は睨みつけながらも口を割ろうとしない。それに苛立って少し首を切りつける。血がしたたり落ちる。


「五人だ」


 夏木はすぐに携帯でメールを送った。が、その時出来た隙を男は逃さなかった。ナイフが握られている手を掴み、夏木の肩を押さえてそこから伸びる腕を曲げさせてきめる。夏木は関節技に呻いてナイフを落とした。

「誰か来てくれ」

 男が叫ぶと、周囲が騒然となった。二人のボーイが慌てて来て夏木を拘束したうえで立たせた。男の指示のもとスタッフルームにつれていく。部屋に入れられるなり床に投げ出された。夏木は軽く頭を打つ。痛みに悶絶しながらも部屋を見渡すと、男とボーイの他に、五人の黒ずくめの男たちがいた。『滝川会』の連中だ。

 男は傷付けられた首をさすりながら、「この女、全員でたらいまわしにするぞ」と興奮して言った。

 夏木の全身を恐怖心が走り回る。もしかしたらここで殺されるかもしれない、そんな予感。男は夏木の全身を舐めまわすように見て、にやついた。

 休憩だろう赤髪のホストが部屋に入ってくるなり、状況を男から聞き出した。下品な笑いを見せた。


「最近たまってたんですよ」

  夏木は立ち上がって、この部屋から逃げ出そうとするが、それを男に阻止されて腹部を殴られる。また地面に転がる。夏木に男は馬乗りになりシャツをぬがそうとし始める――。

 ガラス瓶の割れる音と、女性の絶叫が聞こえた。男は顔を顰めた。ボーイがホールを確認しに行く。数分後、そのボーイが血相変えた顔で黒ずくめに、

「襲撃です。多分組関係の奴らかと」

 男は夏木の顔を凝視して、「こいつ、もしかしてその組連中の仲間かもしれねぇな」と毒づいた。苛立ったのか、夏木の顔面を数発殴った。

 黒ずくめが慌ててホールへ向かう。怒号が響く。それでも、ボーイが慌てて黒ずくめでは埒があかないとわめき立てた。男は舌打ちし立ち上がった。部屋から飛び出る。

 夏木の体が震えていた。絶え間ない暴力の気配、そのどれもに畏怖していた。


 数十分後、健二がこの部屋に額に汗を浮かべて現れた。夏木の乱れた服と殴られた痕を見て驚いていた。

「夏木、大丈夫か」

「これが大丈夫に見える?」

 健二は夏木の服を正してやる。すると夏木はこの時、健二に愛されたいと思った。このすくみ上るような感情から逃れるために、健二に求められたいと。

「ねえ、がんばったんだし。ご褒美貰ってもいいよね」

「……」

「抱きしめてよ」


 健二は恐る恐るといった様子で夏木を抱擁した。夏木はそのぬくもりが感じられる人肌にすがりよっていた。


 オーナーがとっくに警察に通報したので、僕たちは逃げるように店から出た。

 上原らに別れを告げ、僕と夏木は帰路に着く。

 僕は夏木への気まずさから、煙草を吸っていた。夏木は腹部を押さえて少し顔が歪んでいる。暴行を受けたからだろう。

 夏木が息をつき、「煙草、一本頂戴」と言ってきた。渡してやると夏木はライターで火を点ける。


「ねぇ、健二は今日の仕事、どう思う?」

 どういう意味だよ、と思った。夏木が今回のことを根に持つのは仕方ないけど。

「別に……夏木には悪いと思ってる」

「そうじゃなくて。まだゲソ付けして数カ月の新人にこんな仕事を任せるなんておかしいと思わない?」

 ……言われてみれば確かにそうだ。襲撃の指揮を任される新人なんて、いないだろう。普通は数年キャリアを積んだ構成員が担うものだ。例えるなら、新人の会社員がいきなりプロジェクトリーダーに抜擢されるといったところか。

 思わず舌打ちしそうになる。どうして気付かなかったんだ。馬鹿か僕は。

「僕はもしかして、はめられようとしていたってことか?」

「そうね、多分」

 大友は、僕をはめて『多田組』から破門にしようとした。失敗することを予想して——。大友は僕を嫌っている。だから排除しようと今回これを画策したのだろう。大友は組長になることを望んでいる上昇志向の塊のような男だ。ゆえに、次期組長候補の根は積んでおきたいのだろう。


「あんたは厳しい世界にいるのね」

「まぁな」

「そんなあんたがどうして関東最強って言われるようになったのか、興味があるわ」

 その言葉に少し驚く。唐突だな。言ってなかったか、と訊くと夏木は頷いた。まあ、隠すような話でもないし、僕は語り始めた。

 どうして関東最強になったのか、その経緯を——。



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