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死と彼を想う瀬戸際に  作者: 彼方夢
第二章 辛すぎる社会に、少年は溶け込もうとする。

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15/40

しんどい仕事。


 今日は雪が降った。一つ一つが純白の意思を持っているのに、どこか物憂げで儚さを湛え、そしていつか跡形もなく消えてしまう存在。雨粒の変容形と称するには、不自然さが僕には感じられた。

赤城(あかぎ)』の集会場。代々木公園の一角で、僕と北川は語り合っていた。それはどこか懐かしさを感じるもので、暴走族の頃を思い出していた。


「ほんと、ごめん。僕のせいで相原先輩を見殺しにしてしまったんだ」


 あれからもう一か月は経つ。相原は飢えに苦しみながらもうあの世に行ってしまっただろう。あの廃屋は人知れない場所で遺体が見つからないはずだ。だから警察に見つかって死亡事件としてニュースにもならない。もしかしたら死亡していない可能性も十分にあるが、それを確認しに行く勇気は自分には無い。相原の遺体など、直視出来ないからだ。


「そうか……」

 とただ一言、北川は呟いた。その一言が様々な感情を彩っているように思えて。悲しみ、憤慨、そして後悔。その感情が今北川をぐちゃぐちゃに支配しているのだろう。

 相原と北川の関係は、端的に言って師弟関係のようだった。最初、北川は相原のことを嫌っていた。しかしある抗争をきっかけにして彼は相原を慕うようになった。

「お前は悪くない。全部『多田組』が悪いんだ。だからあまり自分を責めすぎるな。今、酷い顔してるぞ」

 そう言われて自分の顔を触る。その行動を見て北川は笑った。それから煙草の箱を取り出してそれを僕に向けた。「一本吸うか?」

 ありがとうと言って煙草を貰い、口にくわえて火を点ける。煙をはき出すと緊張が和らぐ。



「初めて一ノ宮と出会った時、お前のような絶望の顔をしていた。それが胸に引っかかって、あいつを家まで送ったんだ。そうしないと、あいつは死んでしまいそうなほど脆く見えてな」



 絶望、と僕は繰り返す。江美はこれまで辛い人生を送ってきた。他人から差別を受け、そのせいで常に苦痛が側にいた。死を切望し、その機会をうかがう人生。希望なんてどこにもなくて彼女はあの日、踏切で死のうとした。

「でも、お前と出会ってあいつは変わった。明るくなったよ」

 陰鬱だった江美が、僕との交際をきっかけにして変わった。少しは生きる意味を持てるようになったはずだ。



「北川、あの嘘まだばれてないよな」


 僕の問いに北川は一瞬表情が消えた。なんのことかわからなかったからだろう。しかしその後ああ、と理解して、

「大丈夫だ。最初は不審がる様子だったけど、納得してくれたよ」

「その嘘は、あの子を守るうえで重要なものだから。くれぐれも気を付けて目を配ってくれないか」

「やれやれ、わかったよ」


 やはり、どうも乗り気ではない北川。それもそうだろう。今話している嘘とは、江美の人生を大きく変化させるもので、しかしだからこそついてはいけない嘘だった。たとえ彼女を守るためだったとしても。

 すると携帯の着信が鳴った。今は深夜一時。こんな時間に誰だと不思議に思って電話に出る。

「もしもし」

『俺だ、大友だ。今から歌舞伎町の『RED』という店に来い』

 ぷつんと通話が切れた。要件だけ言って有無を言わさないやり口は、ヤクザだなと感心する。ヤクザは言葉の詰め方が巧みだ。警察のマル暴相手へ口車に乗せて警察内部の捜査情報を聞き出そうとする。その話の上手さにまんまとやられた刑事も多い。口を割ったが最後、その刑事は情報漏洩で懲戒処分だ。

 まだ長い煙草を捨てて、それを地面に踏みつぶした。


「兄貴から呼び出されたから行くよ。今日はありがとな」

「こんな時間に呼び出されんのか? ヤクザって無茶苦茶だな」

「日常茶飯事だよ。これくらい」

 そう言って北川と別れる。公園の入り口に止めてあったバイクに跨って、エンジンをふかした。



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