ボードゲームの世界と闇賭博の世界について
ボードゲームの世界と闇賭博の世界との境界なんてものは、わりとアヤフヤだという話
ボードゲームをやっているとヤバい話が耳に入ってくることもある。例えばとあるボードゲーム屋の席主が実は昔、闇で賭博場を開こうとしていたなどというのはその最たるものだ。
その男は都内某所でボードゲーム屋を経営していた。毎週土日には何らかのボードゲームイベントが開かれており、俺も何回も参加した。席主は長い髪を後ろで束ねており、既に初老といって良い年齢だった。我流でピアノを弾いたり、各種ボードゲームをやり込むなどしており、色々と多趣味らしい。様々な蘊蓄も教えてくれる。何故か明智光秀の本がそのボードゲーム屋に置いてあったので、「何故明智光秀の本が置いてあるんですか?」と尋ねると、
「あぁ以前この本を読んでみてくださいって言われたんだよぉ。いーや明智光秀ってのは素晴らしいね!本当に。優秀だ!それに惜しいなぁ!もう少しで天下取れそうだったのになぁ」と最大限に賛美していた事がある。俺はそれに対してこう返した。
『確かに明智光秀は優秀な軍官僚だったと思います。しかし天下を取れるタイプではないみたいでしたね・・』
するとこの席主は、「なんで!いい奴なんだよ!!」とまるでわが身を批判されたがごとく明智光秀を養護するのだった。どうやら光秀と自分を同一視しているらしい。そして自分のことを人格円満な人間だと見做しているようだ。
『天下を取るのは政治家ですよ。政治家ってのは、いい奴と悪い奴を使い分けられる人間のことだ。明智光秀はいい奴だ。そして優秀な軍官僚だった。だが軍官僚には、天下は取れない』
そういっておくと、「・・・ああ、まぁその通り・・・」と一応は納得した様子を見せた。ただこの一件の後、その席主は何故か俺のことをちゃん付けで呼んでくるのだった。何故かは解らない。自分の方が俺よりも上だという事を示したいのだろうか?そんな小者には見えなかったが・・。彼は地方の名門高校を首席で卒業したあとで何処かの大学へ入学したのだ、と風のうわさで聞いたことがあった。大学を中退された後、宝石商など様々な仕事を転々とされたとも聞いた。この噂は何処まで本当の話なのだろう。
ボードゲーム界隈では、そのお店はとても有名だった。30年以上前にはボードゲーム専門で遊べる場所なんてその店くらいしか都内にはなかったのである。1,2年で潰れていくのが当たり前の世界にあって、30年以上続いているというのは異常とも言えた。料金は一人1000円である。どんなに長居しても1000円だけ。どうやら商売抜きで経営されているらしい。ただその店は場所が場所というか、周りの土地柄があまり良いとは言い難い所だった。そのせいだろうか、席主は時々不思議なことを言われることがある。
「ウチの店ではね、口笛は厳禁なの!そのせいでヤクザ者が暴れだしたことあっからな」とか
「荷物はね、この棚に置いておくんだ。絶対に床に置かないで。ある程度席と席の間の距離はなしとかないとね。ヤクザものが隣の人間と席がぶつかって喧嘩になったことがあるからさ」といった不思議な台詞を時々吐かれる。
本当に反社会的勢力がその店に来るのだろうか、それともそれくらい柄の悪い連中だっているからね、といった意味合いなのだろうか。解らない。
そう思っていたある日。俺たちがカタンという風変りなボードゲームをやっている傍らで、花札の大会もまた別にその店で開催されていた。俺は花札のルールなど知らないので、『あぁ本格的なボードゲームもこの店では遊ばれているんだなぁ』とお気楽なことを考えていた。その花札ゲームの主催者氏を仮にIさんと呼んでおこう。Iさんは色付きのサングラスをしていて、各種ゲームをやり込んでいるお方との評判だった。とても真摯に花札と向かい合っているのだろう、不正行為の防止のために花札を遊ぶ机の上からスマホで撮影などもされていた。
「いや皆さんを疑う訳じゃないんですがね!こうやって後から確認できるように、上から撮影してますんで!」
と本人は言われていた。そうしないといけないようなやり取りが過去にあったんだろう。そこまでしてボードゲームに勝ちたいのか、とも思った。まぁカネが掛かっていればそういった不正行為をする連中も現れるのかも知れないが・・・・。
花札試合が終わったあとでI氏はご自身の経験談を披露されていた。何処まで本当なのかは解らない。彼はN社という京都に本社に置くゲーム会社について話し始める。
「N社は今でこそゲーム会社として有名だけれども。。昔は花札とかを売っていたんだ。江戸時代からずーっとね。花札使った賭博ってのはお寺とかで行われることが多くてね。そういう所の需要もあるんですよ。ただ会社のホームページを見ると明治初年創業って書いてある。ま、これは合法的になったのがその年ってだけの話であってね。それ以前から脈々と・・・」
俺は賭博などには一切かかわったことがないので、遠巻きに興味深く話を聞いていた。
「んでまぁ、京都の一角にはそういう、ヤクザが仕切ってるホテル街みたいなのがあるんです。私どうしても手本引きが習いたくてね、そこに600万包んで突っ込んでいったんですよ。色々と自分の手本引きに関する知識とかを披露して受け入れてくれるように頼んだんだけどね。なかなか受け入れてくれなくてね」
「そうこうしてるうちにねえ、その賭博場仕切ってる人がねえ、これは名言だと思ったなぁ。。。『ここはね、興味本位で来るような所じゃない』って言ったんですよ。人生がにじみ出てると思ったねえ」
「ただこっちも600万用意してますからね、そうそう簡単に引き下がれるもんじゃない。必死で食い下がりましたけどね。でも又言われたんだなぁ。『ここは興味本位で来る所じゃない。気が付いたら、いつの間にか居るところだ』とね」
600万ではなく、6000万用意していればどう言われたんだろう?或いは6億だったら?いずれにしても是非とも再挑戦してほしいと思った。
その後何故かI氏は俺の方を見ながらこう続けた。
「まぁ私が疑われるのも仕方ない!警察の犬かもしれないからね!!」
I氏は”警察の犬”という単語を何回も何回も繰り返した。何か意味があるんだろうか?ちなみに俺はI氏と会うのはその時が初めてだったし、その後一度も会ったことはない。それに俺が普段防犯カメラの動画サーバを警察の方々へ見せているのは事実だ。だがI氏がそんな事を知っているとも思えないが・・・。まぁいいか。俺が体制の歯車だというのは事実だし。ともあれ、このボードゲーム屋にはそういった愉快な方々もお越しになられる場所だという事は事実である。
I氏がご自身の体験談を披露されていたその日、俺は馬鹿なことにそのボードゲーム屋に自分の荷物を忘れてしまった。丁度年末のことであり、正月を跨ぐと面倒なことになると思った俺は翌日そのお店に電話して聞いてみた。すると
「おお、てめえのかぁ。このきったねえ鞄置いてったのはぁ。しかも中身は教科書とか学習参考書ばっかだしよぉ」
と勝手に他人の荷物を調べあげていた事が解る。普通の人間であればしないことだと思う。更に皆の前では、俺に対する二人称が『君』だったが、電話口だと『てめえ』だった。これは一体どういう事なんだろう?
「ハイ、そうなんです。そこでチョットそちらへ取りに行かせて貰おうかと・・」
こういった人種には何を言われてもニコニコとして愛想よく対応するに限る。不動産関係で時にはよく解らない人々と交渉することもある中で得られた有難い経験則だ。
家から電車で暫くしてからその店に到着する。年末の遅い時刻だというのに、件のI氏を含めた人々がボードゲームをされておられた。俺は足早に自分の荷物を回収し、席主にお礼を言って立ち去ろうとする。すると
「==ちゃん!==ちゃん!」
と3歳の子供を呼び込むような言い方で俺のことを呼び止めた。無視するとそういった人種は面倒なので、立ち止まって振りむく。
「ちょっと外で話をしようか」
席主は当時の俺がよく通っていた別のボードゲーム屋でのやり取りについて詳しく聞いてきた。それについてはここでは書かない。要するにカタンというゲームを巡るトラブルである。ただ飽くまでも俺とその別のボードゲーム屋での話の筈なのに、何故その席主は知りたがるのだろうか、と疑問に思った。そして席主はそのトラブルについて
「俺のねえ、裁きはぁ」
と前置きしてから自分の見解を開陳する。誰もそんな事を頼んでいないのだが。だがこういった人種にそういった態度を見せると後々面倒ではある。
その話が一段落すると、妙にその席主はサンシャインという単語を連発した。まるでその話題について聞いてほしいみたいだ。サンシャインで何かあったんですか、と尋ねるとよくぞ聞いてくれたという態度で席主は話始める。
「いやぁ、俺は昔サンシャインでな、賭博場を開こうとしたんだよ。もう20年以上前のことだけどな」
案の定碌な話ではなかった。要するに闇賭博場の話だった。
ボードゲームの世界には、カネに余裕があって暇を持て余してそうな馬鹿を狙う連中がうようよしている。「カタン 資産運用」とか「カタン 詐欺」とかでGoogle検索してみれば、怪しげな組織名がすぐに引っかかることだろう。その中でも有名な団体のトップと、その席主は一緒に働いていたという。ここではその団体のトップを仮にRockさんと呼んでおこう。
「そのRockってのはよ、以前Mって男の腰巾着でな。あの当時はソイツについて、へこへこしてたもんよぉ」
「俺はRockと一緒にサンシャインで賭博場を開こうとしたんだ。だが俺が直前になって芋引いて逃げ出したから、Rockが資金集めすることになったんだ」
「するとな、MがRockにこう詰めたそうなんだよぉ。
てめぇ、いつになったらカネ集めるんだ。通帳見せてみろ。20億か?10億か?3億か?」
「そんで別のときにさ、そのRockもやってくる集会で俺司会やってたからよ。そんときRockが俺のじーっと睨みつけてくるんだよね。もう思わず背筋がぞわっとしたね。俺はその当時喧嘩早かったからさ。雀荘でも”表でろやこら”って喧嘩ばかりしてたけどね。もう駄目だって思ったわ。自分が今開いている店潰す覚悟でぶつからないと無理だってな。」
「あいつ、てめぇでかどうかは知らんが、人殺してるな、とは思ったね。だから俺その集まりからも手を引いたんだ。司会任されていたけどな。」
この席主は、それ以前にも俺のtwitterを見て色々と情報収集していることを匂わせてきていた。母親がどうたらこうたらとか言ってくるのも、『てめぇの母親が何処に入院してるか解ってるぞ』という意味なんだろうか?だとすれば悪質だな、とは思った。更に俺に向かって「君は会社のカネを皆のために使ったら」云々と偉そうに言ってくるのは、一体どういう意味なのだろうかとも思った。まさか自分が裏で開いている賭博場の種銭を寄越せなんて下世話な意味じゃないだろう。
そこでこの話を懇意にしている不動産会社の次長さんに連携する。するとその次長さんからは
「そういう面倒な連中とは、関わらない方がいいですって!」
という尤もなアドバイスを頂いた。ボードゲームの世界と賭博の世界を仕切る壁というのは、わりと曖昧なものなのだ。それが解っただけでも儲けものである。