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巻き戻り10

 この世界には魔法学校というものがある。

 戦闘において強力な武器となる魔法であるが、その強力さゆえに、使うには専門の技能と許可証が必要となるため、学校が存在する。

 さらに、その試験にはダンジョン探索など、実際に魔法を使う種目もあって、卒業後の即戦力となる人が多いため人気の学校だ。


 今日はその学校の入学式の日。正門前では、うら若き男女が、開門となる時間を今か今かと待っているなかで、薄汚い、5人が円陣を組んで、口々に人を食べてはいけないだとか、力は出しすぎないようにとか、そんなことを相談する奇妙な光景があった。その丸まった背中はダンゴムシのようであり、身を包む服すら汚く、まるで、一年は風呂に入っていないのではという身なりであった。

 それを見た入学生達は一様に鼻をつまんで、くさいくさいなぁと言うが、当の本人達は全く気にしない風で、学校の門をくぐった。


 学校には既に試験の用意がされていた。向かって右側が座学を学ぶような、簡単な建物があって、向かって左側は青天井の実技スペースとなっている。土剥き出しのスーペースには藁人形が転がっていて、どうやらあの的をめがけて魔法をかけるのだろうな、というような感じであった。


 残念ながらひどい雨だった。身体に突き刺さるような冷たい雨は実技スペースに茶色い水溜まりを作っている、その最中で、汚ならしい浮浪者の集団はこそこそとその中に入っていくと、その中の一人が、遠慮なく、泥だらけの地面に身体を横たえてしまった。


 なにか、病気でもして、意識を失ったのではないかと先生が駆け寄るが、全くそのようなことではなかった。なんとそれは、泥だらけの道を歩かないで済むように道になろうとしたのであった。

 恐らくは豪商の子なのであろう。奴隷をこき使う姿というのは王都ではあまり見かけなくなったことではあったが、実のところ、田舎ではこうした光景がまだあった。

 しかし面白い事が起きた。

 その主人は自ら泥水に膝を付けて奴隷を引き上げると、何かしら呪文のようなものを口にしてたちどころに服から泥とをりさった。そればかりか、暖かな春の風がそこだけに吹いているように、奴隷の少年の前髪がなびいて、栗色の馬のたてがみのような前髪が乾いていった。


 それはとても不思議な光景で、奴隷というにはあまりにも美しく、ぼろを身にまとっているため、よけいに、その儚さが、寒空で輝く一番星のようにギラギラと輝いて見えた。


「もし、もし、よろしかったらこれを」

 木綿のハンカチーフを差し出す女子生徒などいるほどである。しかしその奴隷は全く気にしないという様子で、女子を視界にいれることはなかった。むしろその目は一点を見つめて……。まるで、主人を愛しているように、その瞳を一心に注いでいるのだった。


「すまんな!彼はまだ、人に慣れていないんだ」


 人に慣れていないとは、どういうことだろうか。きっと孤児だったのだろう。今、人間は魔物との戦争で、多くの大人を失っている。そのためにお金持ちの子供も多くが路頭に迷ったと聞く。それに違いないと口々に噂したが、その実は、もっとおぞましく、見るに耐えない者がそこにはいた。


 その存在に気がついたのは、魔法学校の教材として集められた動物達であった。特には、生きた標本として壁に飾られた虫達が一斉に逃げ出そうともがいた。逃げ道の無いガラスびんの中で暴れるので、まるで、地震が起きたときのように壁が揺れ、一斉に瓶が落ちた。

 ガラスの砕ける、乾いたような音がして、先生達は悲鳴を上げた。沢山の虫達が身をよじるようにして、地面に穴を掘って隠れようとした。


 奴隷達は人の形をしているが人ではない。それに気がつく先生がいれば状況はまた変わっただろう。だが、そうはならなかったのだ。


 美形の奴隷に色めきだった女子にいい顔をしない男子達は、全く子供の考えのようであるが、自分達に目が向くように、わざと失敗するようにしかけた。やったことと言えば、教室をやつが歩いているときに足をだして転ばせようとしたり、わざと水を溢して転ばせようとするのだったが、その奴隷は全く転ぶことがなかった。そればかりか、飛び上がるようにして簡単に避け、その動作に女子は歓声を上げるばかりだ。


 その様子を面白くもなく眺めていた男子達は足を引っ込めるのを忘れてしまった。そこに引っ掛かる感触があって、ぽてっと肉の塊が転げた。あの奴隷の主人であった。


「痛い」


 その瞬間あの奴隷の目の変わりようと言ったらなかった。目の色が黄色に変わって、髪の毛が逆立っている。その上、手にはいつの間に握ったのか、ペンが力強く握られていて、ナイフのように突き出して来た。

 すんでのところで主人が間に入って抱き止める。少年達には明らかに刺さったように見えた。だが、なんともなく、奴隷の背中を主人が擦っているだけだ。


「大丈夫。怪我してないからね。だから心配いらないって言ったでしょ?」

「あいつが!!!あいつがひどいことを!!!」

「大丈夫。怪我してないから。許すことも学ぼうね」

「あいつが!!」

「……あまり聞き分けがないと、他の子に変わってもらおうかね」


 その言葉を受けて、水をぶっかけられた焚き火みたいにシュンとなった奴隷はメソメソと膝をついた。


「そんなひどいことを言わないでください。もう少しだけ。あともう少しだけ」

「君が、良い子にするというから連れてきたんだよ? 約束、守れるかな?」

「守れます」

 手の甲にキスを落とした奴隷は泣いていた。とても美しい涙に、なにか悪い呪いのような物で縛られていて、主人に強制されているのではないかという噂が立ったために、学校側はわざと別々の寮を指定して住まわせる事にしたが、それがなんの、その奴隷は何時でもくっついてそこにいたので、恐らくは、男好きなのではないかという噂が立った。


 だがこうして邪神は危なげなく魔法学校へ潜入を果たしたのであった。一緒に入学した4人はそれぞれが弟子であって、その寵愛を得ようという俗物的な感じではあったが、義母のお墨付きを得られた唯一の存在ということもあって、神は安心して勉学に励むつもりであった。


 もちろんそれは難しいのだが。


 授業を初めて受けた彼は頭を抱えた。教科書を初めから最後まで見て、それを三回繰り返してため息を付く。黒板では先生がこれ見よがしに教科書を写しているが、その内容は彼の脳みそには入っていかない。問題文を最初の一行見た時点で答えが……答えが分かってしまうのだった。

 明らかに、レベルが低い。こわいこわい。えー。こんなので金をとるの。回りを見渡せば、皆悩んでいるようすで、うんうんと頭を捻っているので恐らく本当に難しい内容なのだろうが、俺にはそれも簡単なことになっていた。なってしまっていた。


 おかしい。もし、信仰という行為に力があったとして、それが幻覚のように力が持っているとしたら。信者達の祈りが奇っ怪なる力として現れると言うならば、変な知識が付いてしまうということだろう。ああ、自分の能力が憎い!!勉強の時間が苦痛になった。


 答えがすぐに分かってしまうのであった。

 もうね、やだね。


 今回入学した目的は、魔法を学ぶことではなかった。今回の試験で行くダンジョン。その場所に俺は行かねばならないのだった。

 そのダンジョンというのは、とても簡単な場所で、既に探索済み、もっとも奥の財宝も既に見つけられていて、それがそのダンジョンの名前となった。『盗人のダンジョン』そこは、発見時から既に財宝がもぬけの殻という、まあ、なんだ、誰でも攻略可能な簡単なダンジョンゆえに、盗人によって先に攻略されていたようなダンジョンだった。


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